美術を楽しむ日



 作中特別編


 月だけが知っている 第四話



 ~ 十月二日(土)

    美術を楽しむ日 ~




『それでは幕間となります。後半の開幕までしばらくお待ちください』

「では、僕が場を繋ぎましょうか。先ほどはトランポリンで失態を見せてしまいましたからね。汚名を返上すべく、僕の詩吟をお聞かせいたしましょう!」


 ばばばばばっ!


「ぶひっ!? そ、即退場とは何事ですか!?」

「何やってんだよ細井~。しょうがないから俺が~、得意のロカビリーで場を繋ぐよ~」


 ばばばばばっ!


「あれ~!?」

「うんうん! ふたりともお疲れさん!」

「そ、それでは休憩中は、あたしたちの歌でお楽しみください……、ね?」

「師匠のバンドの曲なんだけどね、聞いて下さい!」

「「恋に恋する下井草デート!」」



 可愛いなあ、このコンビ。

 しかし、芝居はめちゃくちゃだな。それなり楽しいけど。

 喉乾いたし、飲み物買ってみる?

 うん。カード欲しいかも。すいません!

 いらっしゃいませお嬢様。

 おお、執事、いいわね。

 じゃ、せっかくだから俺はメイドさんに。すいません!

 ……なんか用だし?

 え? あ、ええ。コーラを下さい。

 炭酸は運ぶの気を使うからコーヒーにするし。

 はあ。……じゃあ、それで。

 まったく、秋乃様はステージなのに、なんであたしはこんなことやらされてるし?

 えっと……。

 しかも、主人公があの類人猿とか。呪いが足りなかったし? こうなったら今から五寸釘を……。

 えっと、あの、飲み物を……。

 ちょっと黙ってるし! 今、考え中だし!

 あはは。態度わるいわね、メイドさん。

 ああ。ほんと態度悪い。

 ムカムカするけど可愛いわね。

 ゾクゾクするほど可愛いよな。

 え?

 え?

 え?

 え?



 じゃかじゃん!

 じゃかじゃん!

 じゃかじゃんじゃんじゃんじゃんじゃん!


 じゃかじゃん!

 じゃかじゃん!

 じゃかじゃんじゃんじゃんじゃんじゃん!



 ぱちぱちぱちぱち

 ぱちぱちぱちぱち



「なあ」

「あっは! どうしたんだい?」

「俺の昨日のスケジュール」

「探検隊の時点で十分滅茶苦茶でしょ? なにをいまさら」


 うわカッコいい!

 なんだあの役者!?

 きゃーーーーーーー!!

 王子くん! こっち向いてーーーー!!


「こほん! 本日は、我がダンスパーティーへようこそ! 飲み物の準備もあるので、そばにいる我が屋敷の執事かメイドに声をかけてね! ちょっと手違いでお金をとられると思うけど、そこはご愛敬さ!」


 買います買います!

 執事さん、紅茶十個!

 私は二十個!


「おいおい、お姫様たち? 無茶は良くないよ? さて、どなたか僕とダンスを踊ってくれる姫君はいないかな」


 はいはい!

 私が! 私が!

 ……有名な役者さんなの?

 知らないけど、かっこいい……!


「王子様! わたくしは隣国の姫、マスカルポーネだぴょん! 是非わたくしとダンスを踊っていただけませんでしょうかぴょん!」


 ばばばばばばばばっ!!!

 ばばばばばばばばっ!!!


「はい退場ー」

「きーっ! 何なんですの、このシステム!」

「それでは私、豪商の娘、チェダーと踊っていただけませんでしょうかだぴょん?」


 ばばばばばばばばっ!!!


「ではわたくし、貴族の一人娘、カマンベールと……」


 ばばばばばばばばっ!!!


「ならばわたくし、スライスと……」


 ばばばばばばばばっ!!!


「……なんたる各個撃破」

「あっは! 一斉に襲われたら怖いけどね?」

「これじゃ劇にならんが……、大丈夫か、姫ぴょん」

「誰が姫ぴょんだまったく。しかし半年ぶりだな、舞台に立つの」

「あっは! 久しぶりだね、姫ぴょんと芝居するの」

「おお、気合い入れろよお前?」

「もちろんさ!」


 お? 可愛い姫様出て来た。

 あれ……、男の子?

 ぽいな。

 最上せんぱーい!

 頑張ってー!


「……ああ! 今宵の姫君は、みな臆病! 可憐ではあるが、私としてはいささか興ざめだ! この試練を乗り越え、私の元にたどり着く方はいないのか!」

「……峰に咲く気高き一輪のエーデルワイス! 私の心を捕えて離さぬ王子様が、勇敢な女性をお求めになられている! ですが私のような身分違いがお声がけすることなど許されない。せめて遠くから、その純潔さを眩しく見つめることにいたしましょう!」

「手折ると花散るような姫は求めていない!」

「野にあるあたしは名もなきノギク」

「私の手をとれ! さあ、私はここにいる!」

「許されるはずはない。ですが、今宵限りの夢の中。私は今、あなたの元へ飛び立つ蝶となる!」


 ♪ ここは暗い世界ー 闇に息が詰まるー 

 ❤ それはあなたという方がー 眩し過ぎるからー 

 ♪ だれかこの手を掴んでー

 ❤ はるかあなたの元へー

 ♪ 光り輝く世界へー

 ❤ 私を連れていいってー


 ♪❤ 足りないものをー

 ♪❤ 求めさまよいー

 ♪ いま

 ❤ 二人

 ♪❤ 手を握りしめー


 ばばばばばばばばっ!!!


「なぜだ!?」


 手を握っちゃダメー!!!

 離れろ田舎娘!!!

 身分違いも分からないの!?


「…………姫くん。ルールだから」

「くそう!」

「あははははは! 姫ぴょん、涙目になってた!」

「こら、芝居芝居」

「ああ、そうだったね! やれやれ、全ての姫君が帰ってしまったか。おや、もうひと方いらっしゃるが、あれは?」

「王子様~! ダンスするぴょん~!」


 ばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばっ!!!


「…………満場一致」

「パ、パラガ子ちゃんのドレス姿、毒素があるね……」

「黒づくめ軍団怖い~! ちょっと! 靴脱げた~!」

「ねえ、ボク、不本意なんだけど」

「役者魂見せてくれよ」

「保坂がそう言うなら……。こほん。おお! なんと美しい姫君なんだ! おい、騎士団長! このガラスの靴をもって、今の姫君を国を挙げて探すのだ!」

「ははっ! 拝命いたします!」

「しかし、今の姫君……。どこかで見た覚えが…………」




 じゃかじゃん!

 じゃかじゃん!

 じゃかじゃんじゃんじゃんじゃんじゃん!



 ああ、なるほど。

 王子様がウサギ小屋に住んでることになるだろそれじゃ。

 でもケーキを食べる動機付けにはならなくねえか?

 じつはパラガ子ちゃん、自分で食べたんじゃ?



 じゃかじゃん!

 じゃかじゃん!

 じゃかじゃんじゃんじゃんじゃんじゃん!




『ワーニン!!! ワーニン!!! 第七区画に敵機出現! 直ちに出撃せよ! 直ちに出撃せよ!」


 警報うるさ!

 それより、なんか揺れてない?

 おいおい! あのモノリス、開いてねえか?

 なにが始まるんだ!?


『出撃シークェンス、第三段階へ移行!』

『マス・レストールリアクター、稼働率六十パーセント。アクチュエータへのシナプス接続完了!』

『マスタースレイブモード開始。全アクチュエータ、ロック解除!』

『マグネティックフォーサー起動。フローティング・ポイント、デフォルトポジションへ!』

『全可動部、動作チェックオールグリーン。マスターハズコントロール!』


「さあ、今日こそは頑張らないと」

「な、なにぶっさいくな顔でたそがれてんのよ、立哉君……」

「……大根役者か」

「シャキッと、して……、ね?」

「うい」

「は、早く、子供たちを助けなきゃ……!」

「うい」


 人がいる?

 ロボットに乗ってるの?

 剥き身で?

 手足に装着するタイプか。


天宮あまみや機、最終シークェンスオールグリーン!』

「うわ!? 慌てて書いたから間違えた! 保坂機だ!」

『テイクオフ!』

「くそっ! 今はこれに集中しねえと…………!」


 うわ! 飛んだ!

 吊ってるんでしょ?

 それにしちゃ、ジェット噴射が本格的……。


『こわっ!? おい! もうちょっと離れろ!』

『あたしの運転技量、舐めないで欲しい……』

『コントローラーと一緒に体が傾くお前が何を言う』

『こ、このもんどころが目に入らぬか』

『原付免許がなんの役に立つ!』

『これでポイントカード作れたの。大人の仲間入り……』

『別に大人っぽくねえ。身分証明書扱いかよ。……で?』

『ん?』

『なんのポイントカード作ったんだ?』

『駄菓子屋……』

『それは子供っぽいのワールドレコード保持者だ!!!」


 おいおい、ほんとに飛んでねえか!?

 ていうか、かっこいい……。

 客席越えて校庭に行ったけど。

 うわなんだあれ!?


『み、見つけたわ』

『ああ! 俺達月面人の敵、カメ族!』

『にっくきカメ族……。居眠りしてるあたしたちの祖先のことを起こしもしないで一位をかすめ取った卑怯者……』

『で、さあ。ここからどうするの?』

『プログラム組んであるから、勝手に動く……』

『なんだ、それなら安心うおっ!?』

『ただ、急加速したり急制動したりするから気を付けて……、ね?』

『遅いよ! いって、背中思いっきり打った!』

『そ、それなら海水を浴びて風に当たるといい……』

『ウサギだけども! それ因幡の白兎の怪我が余計ひどくなるヤツうおおおお!?』

『しゃ、しゃべると危ないよ……』


 すげえ! 剣で亀みたいなのと戦ってる!

 ウソだろ!? なんだあれ!

 あ! 一匹倒した!

 危ない! 後ろ後ろ!

 うわ! マシンガン撃った!?


『あの……、ね? 台本、無かったけど……。これ、どうやってケーキの話に繋がるの?』

『神様任せ!』

『あと、昨日の立哉君は大忙し……』

『もはや設定とかどうでもよくなってきた! これすげえ怖いけどすげえ楽しい!』

『……あれ?』

『どうした!』

『今、タートルタイプの上で一度ジャンプするように組んだはずなんだけど……』

『プログラム、ミスった? どうなるの?』

『この後、横なぎに殴られるからマニュアル操作で高く飛んでおいて?』

『はぁ!? 急にそんなこと言われてもどこで切り替えたらいいのか全くごふっ!?』

『立哉君!!!』


 うわっ!? ステージまで吹っ飛んで来た!?

 え? 芝居? それともガチ?

 会話的にどっちか分からねえけど……。

 ステージ崩壊してるじゃん! マジなんじゃね!?


「いてててててて……。エアバッグってすげえな。よくあれで無事だった」

『立哉君! 立哉君!』

「ああ、平気平気。ステージはひでえことになっちまったけど……」

「よ、よかった……」

「こら、降りてくんな。芝居続かんだろ、お前があいつら倒しきらねえと」

「だって……」

「いやまいったな。これ、どうやったら話を畳めるんだ?」

「ふっふっふ……。こんなこともあろうかと~! スタンバイしておいたのさ~だぴょん!」

「…………パラガ子ちゃん」

「さあ~! 悪者に掴まったあたしを助けるんだぴょん~! そしてグランドフィナーレ~!」

「いや、おまえ……」

「きゃー! 助けてーーー!!!」

「……放してやれよ、鈴村さんのこと」

「だって~! 俺をさらう役頼んでも、みんなやってくれないんだもん~!」

「ほんと助けて! 民意! 民意ーーー!!!」


 ばばばばばっ!

 ばばばばばっ!


「……だ、そうだ」

「うわ~! ほんとにさらわれる助けもがもが!」

「ああもう、お前のせいでグダグダの上塗りだ」

「だ、大丈夫? 身体、どこか痛いとこない?」

「ああ、平気だってば。いつまで心配してうおっ!?」


 おお! 抱き着いた!

 いいなあ、あんな綺麗な子と……。

 ぎゃあああああ!!! 今すぐ殺す! この類人猿!

 メイドの子が包丁持って走り出したぞ!?

 未遂でもアウトだろ!


 ばばばばばっ!


 放せ! 放してあたしはあいつを殺してやるんだしーーーー!!!


「……えっと、秋乃さん?」

「よかった……。ほんとによかった……」

「いや、愛さんにも過保護だとかバカにされたのに、お前が安全性ガッチガチに作ってくれたおかげだよ」

「お、お守りの効果もあったのかも……」

「お守り? ……いつの間に何入れてんだよ俺のポケットに」

「生臭いお守り……」

「キスが体温で傷んじまうだろ」

「…………キス?」

「え?」


 ざわわざ……

 え? まさか……

 ここでキスシーン?

 ウソだろ!?


「いやいやいや! そうじゃなくて、キスが袋に入っててもう動かなくなっちまっててだな!」

「…………したい?」

「いや…………、その……………」


 ちゃららら~ん

 ちゃららら~ん


「なんだそのムーディーな音楽!」

「したい?」

「そ、その……。したい、では、その、無くはないわけでは無くてないんだが……」

「……いいよ?」

「あ、秋乃……」



 ちゃららら~ん

 ちゃららら~ん


 ちゃららら

 ちゃららら

 ちゃららら

 ちゃららら


 じゃ~~~~~ん!!!



「…………死体」

「キスのな!!!!!!!!!」


 どっ!


「え? 違うの?」

「違くない大正解! ああもうエンディングだエンディング!」

「なんだよ根性無し!」

「意気地なし!」

「甲斐性なし!」

「うるせえうるせえ! さっきの事故で体中痛いんだ、早く終わらせる! ええ、皆様! ご覧いただいた回想を元に推理して、誰がケーキを食べたのか投票してください! まず初めに、バスケ少年! 甲斐!」


 さっ……

 さっ……


「次に、探検隊員、夏木!」


 ささっ……

 さささっ……


「次は王子様、西野!」


 さっ……

 さっ……


「では、月面軍軍曹! 舞浜…………? お前、なにやってんだ?」

「えい」

「こらああああ! なんで服脱がせようとしてるんだ!」

「さ、さっき、ウソついた……」

「なにが!?」

「痛くないって……」

「あ、そっか。えっとだな、ほんとは痛くないけど痛くてだな、何と言うべきか……」

「痛い時は、真水で洗って……」

「ぶひゃん! つめてえ!」

「ほぐしたガマの上で横になる……」

「なんだそのガマガエルだらけの水槽!? いやだやめろやめろやめぎゃあああ!」


 ばばばばばばばばばっ!!!


 ばばばばばばばばばっ!!!


 ばばばばばばばばばっ!!!


「…………えっと、これ、秋乃ちゃんに対する投票結果で良いのん?」

「あっは! じゃあ、ほぼ全員の票が集まったということで……」

「そうだな。見事皆様は、犯人を突き止めることに成功しました!」

「まあ、冒頭で口の周りにあれだけクリームつけてげっぷしてたら誰だってわかるのよん?」

「物語締めねえとな。……そしてこのあと、因幡の白兎の傷を癒してくれた心優しい神様は」

「あっは! そう結ぶんだ! いいねいいね!」

「みごと、ヤガミヒメと結婚することになったのよん!」

「と、言う訳で、劇は終演となりますが……」

「最後になんかあるのよん? 因幡の白兎」

「あっは! この際ヤガミヒメなんじゃないかな?」

「どっちでもいいや。ほれ、締めろ、保坂」

「この用意周到! 俺の知らないとこで台本が決まってたんだな!? 皆さん! こいつら全員退場させてくれーーーーーーーーーーー!!!」



 さっ……。

 さっ……。



「なぜだあああああああああ!!!」



 じゃかじゃん!

 じゃかじゃん!

 じゃかじゃんじゃんじゃんじゃんじゃん!



「きもちわるいいいいいい! だれか助けてえええええええ!!!」



 じゃかじゃん!

 じゃかじゃん!

 じゃかじゃんじゃんじゃんじゃんじゃん!



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