望遠鏡の日
作中特別編
月だけが知っている 第三話
~ 十月二日(土) 望遠鏡の日 ~
『ご来場の皆様に、改めてお知らせさせていただきます。ただいまより始まる劇は、お客様参加型のアトラクションになっております。是非とも会場におります執事かメイドより飲み物をご購入いただき、劇に参加するためのレッドカードを入手してくださいませ。なお、劇の間も執事やメイドがご注文を承ります。どうぞお気軽にお声がけくださいませ。……それでは開演です』
ぱちぱちぱち……
ぱちぱちぱち……
ジャジャジャジャーン!
ジャ! ジャ! ジャ! ジャーン!
『ここは私立ウサギ高校。生徒のみんなは部屋をシェアして、六匹一部屋で暮らします。そんな小屋の一つで、今、とんでもない事件が発生したのです!』
「…………ち、知念さん、よね? このナレーション」
「あっは! 彼女、コスプレ好きが高じて声優目指してるんだってさ!」
「な、なるほど……。声、かわいい……」
『ちょっと!? あたしのことは良いから、芝居始めてよ!』
「え~? でも、みいちゃんの声、萌える~」
『うるさいパラガス! あんたが最初のセリフでしょ!?』
「あ、そうだった~。しくしくしく。しくしくしく」
「……なあ。こんなぐだぐだから始めたくねえんだが」
「うんうん! 分かるのよん、保坂ちゃん! でも、きっちり進行チームのあたしたちが頑張らないと!」
「だれがきっちりチームだって? 不安材料専門の倉庫型ショッピングセンターのくせに」
「ひどいのよん!」
「こら立哉。キッカを苛めんな」
「やれやれ……。ゴホン! えー、この中に犯人がいる」
「端折りすぎだバカ野郎」
やだ、かっこいい!
高校バスケ界のスーパーエースなんだって、彼!
あ! 昨日のライブの子が出てる!
ほんとだ、かわいー!
「…………参加型とは言ったけどさ。もう参加しとる」
『お願い保坂! 始めて始めて!』
「しょうがねえなあ。……みんな、聞いてくれ。承知の通り、今日はパラガ子ちゃんの誕生日だ」
「ぷっ!」
「ぷくくっ!」
「パ、パラガ子ちゃん……っ!」
「俺だって笑うの堪えてんだから我慢しろ。……だが、そんな仲良しハウスで未曾有の事件が起こった!」
「しくしくしく。しくしくしく」
「お祝いのケーキがワンホール、まるっと無くなっているんだ!」
「それは大変なのよん! じゃなくて。それは大変なのぴょん!」
「あっは! 仲良しハウス始まって以来の大事件だぴょん!」
「い、一体、誰がそんなことを……、けぷ」
「こうなったら、俺たちで犯人を見つけるんだぴょん」
「……弱冠一名、自供に聞こえる発言があったがひとまずスルー! 俺は昨日、ここにいる全員と会っているから、犯行動機が見えてくるかもしれん。と、言うことで、これから昨日あったことをみんなに話そうと思うんだがいいか?」
「「「「異議なしだぴょん」」」」
「えー、ここでお客さんにも説明だ。誰がケーキを食べた犯人か。お客様には赤いカードで投票してもらう。そしてもう一つ、そのカードには別の使い道もあってだな、劇中で、誰かを退場させたい、あるいは何らかの犯人を見つけた場合も上げてくれ。過半数を超えた場合は、その出演者は即退場。反射神経を問われる遊びになっているんで、どうか集中して見て欲しい」
ざわざわ……
なるほど、面白そう
ひとまず上げてみよう。ほい!
過半数超えなきゃ意味無いんじゃない?
「ほんっと、こういうくどくど説明すんの上手いのよん、保坂」
「くど坂くど哉~」
「おお、褒め言葉として受け取ってやる。……えっと、どういう感じに遊ぶのか、今から練習だ。過半数を越えてるかどうか確認する三人を紹介しよう。まず一人目は双眼鏡を持った野鳥研究会の古賀君」
かちかちかちかち
しーん
「次は、交通量調査が趣味の八島さん」
かちかちかちかち
さっ……
ささっ……
「最後は、望遠鏡を持ったパラガ子ちゃん」
「おお! 可愛い子発見! おっぱいでかあ!」
ばばばばばっ!!!
「……はい、合格です。パラガスは退場」
「うわ、黒づくめ軍団に連れ去られるの怖い~! 俺、ヒロインなのに~!」
「今のような要領で、登場人物をバンバン消し去って下さい。無駄なものは消し去って、最後に現れる真実を皆さんの手で解明していただきましょう。それではまず、甲斐の記憶から」
「俺からか? よしきた」
「彼が犯行に及ぶ動機が、果たして昨日あったのでしょうか。それでは回想することにしましょう……」
じゃかじゃん!
じゃかじゃん!
じゃかじゃんじゃんじゃんじゃんじゃん!
じゃかじゃん!
じゃかじゃん!
じゃかじゃんじゃんじゃんじゃんじゃん!
「ヘイ! パース!」
「トランポリンジャーンプ!」
「ダンクシュートー!!!」
「途絶えさせるな! 連続連続!」
「どりゃさ!」
「ほいさ!」
うわ、本格的!
アクロバットバスケ!
きゃー! 上裸のバスケ少年!
冒頭からカード出そうと思ってたんだけど
これは見ごたえあるわ
でも……
さっ
ささっ
「ふう……。ふう……。いやはや、本番に弱くて嫌になりますな、自分というものが。ゴールまで届かないとは情けない。ちょいと休憩、どっこらしょ。……おや? 何枚かカードが上がってますね」
『低重力の月面ならでは。地球上とは比べものにならない程のジャンプ力を生かし、ウサギたちは空中戦の面白さが魅力の月面バスケで今日も汗を流します』
「よーし! 練習それまで!」
「えー!? 保坂監督! みじけえぴょん!」
「もう一分ほどこのシーンじゃなかったかぴょん?」
「理由か? 明日は試合だからほどほどにしておくべきなのと、甲斐ばっかり声援が飛んでむかつくからだ」
かっこいー!
もっと見たいー!
キャー! 腹筋われてる!
写真撮っちゃお……
「……よし、甲斐。お前、カード出されるような事しろ」
「うるせえ。いいから芝居しろぴょん」
「やれやれだ。それじゃ、マネージャーからお前らに、明日の試合に向けてプレゼントがあるらしいから受け取っておくように」
「おお!」
「なにくれるんだぴょん?」
「じゃあ、マネージャー! 入ってきていいぞ!」
「は~い~」
さささっ!
さささささっ!
「…………いや、お客さん。気持ち悪いのは分かるが慣れてくれ」
「あぶね。もうちょっとで半分ってとこか」
「みんなに~。お守り作ってきたわよぴょん~」
「おお! あこがれのマネージャーからお守り貰ったぴょん!」
「ゼッケンナンバー入りとか、嬉しいぴょん!」
「よし、お礼に、デートに誘ってみるぴょん!」
「あー! お前、抜け駆けは許せないぴょん!」
「偉いなお前ら、ぴょん」
「それには同意だ。……甲斐、お前だけ特別扱いでちょっと遠くで呼ばれてるぞ?」
「ここから台本無いからすげえ怖えんだぴょん」
「なんだなんだー? 甲斐だけ特別かぴょんー?」
「ちきしょう、うらやましいぜぴょんー!」
「…………後生だから代わってくれぴょん」
「照れるな照れるなぴょんー!」
「ちきしょう妬けるぜぴょんー!」
「いたたたたたた! 体よく蹴飛ばすな! まったく……」
「か、甲斐君~! 甲斐君のお守りだけ特別だぴょん~!」
「……はあ。そうなのですかぴょん」
「はい~! どうぞ~!」
「でけえな!? ……じゃあ、貰っとくうわああああああ!?」
「ああ~! 捨てちゃうなんてひどいぴょん~!」
「なんか動いた!!! 生き物はいってんぞおい! 出してやれ可哀そうだろ!」
「酷いわ~!? あたしの気持ちをたっぷり込めたのにぴょん~!」
「気持ち以外に有機物が入ってるって言ってんだ! なに入れやがった!」
「キ、ス♪ きゃっ! 言っちゃった~!」
ばばばばばばばっ!!!
「はい退場ー」
「なんだよ~! 俺の中の可愛さ前回のシーンだったのに~! そして黒づくめ、こわい~!」
「よかった……。お客様が正常な感性をお持ちで……、ぴょん」
「お前、これどうする? 本気で生臭いけど」
「いらねえよ。熨斗つけて返却だぴょん」
「酷いやつだな」
「酷いのはパラガ子だろうが! なんか嫌われるようなことして、これ以上付きまとわれねえようにしねえと……」
さっ……
さっ……
「まあ、その気がないことを伝えるだけにしておけよ。小屋では、みんな仲良くがモットーなんだからな」
「……わかったぴょん。でも、あれだけ練習したんだ、ギリギリまで練習させろ!」
「おいおい、全体の尺ってもんが……」
「みんな! 追い出されるまでトランポリンダンクやりまくるぞ!」
きゃーーーー!!!
見せて見せて!!!
「おお! 俺の二回転ダンク見せてやるぜ!」
「俺も、背面ダンク決めねえと……!」
「ふっふっふ。みなさん、意気込んでますねえ。ですが最初に喝さいを浴びるのは私の華麗な美技! いざっ!」
びりびりびりっ!
どしん!
「ぐっはああああ!」
「何やってんだよ細井!」
「あいつ、トランポリンぶっ壊しやがった!」
ばばばばばっ!
ばばっ!
「…………はい、退場ー」
「うわあ! 黒づくめ!」
「三角のマスクってホント怖え!」
「いや、それより何人出て来たんだ!?」
「クラスの人数越えて……!? だ、誰なんだお前ら!?」
「た、たすけ…………」
じゃかじゃん!
じゃかじゃん!
じゃかじゃんじゃんじゃんじゃんじゃん!
なんか、犯人見えた気が……
でも、他の人の記憶も見ねえとな
これ、当てたら何か貰えるのか?
さあ?
お? 次のセット、何だ?
ジャングルの書き割り、すげえな
いや、これひょっとして……
書き割りじゃなくてステージそのもの?
真ん中の滝、ほんとに水流してる?
じゃかじゃん!
じゃかじゃん!
じゃかじゃんじゃんじゃんじゃんじゃん!
「なあ、一つ聞いて良いか?」
「なんなのよん、保坂隊長」
「いや……。これ、俺の昨日の記憶なんだよ」
「まちがってないのぴょんよん?」
「俺は昨日一日でこれを体験したとでも?」
「知らないわよ。さあ! 秘宝の眠る洞窟はもうすぐぴょんよん!」
「どきっ! 女だらけの探検隊~! 萌える~!」
さささささっ!
さささささっ!
「てめえパラガ子! 話が進まなくなるから喋んな!」
「え~? でも、探検隊、女子ばっかりだから楽しくて~」
「俺とお前は男子だろうが!」
さささささっ!
さささささっ!
「あぶなっ!?」
「……隊長。パラガ子は、可憐な女子なのぴょんよん?」
「そうでした……。よし! 気を取り直して! 目的の場所はこの崖の下だ。さあ、まずはこの川をどうやって越えるかみんなで考えよう!」
「隊長! いかだを組みましょうぴょん!」
「隊長! ワニを手なずけましょうぴょん!」
そこにある木を切れ!
斧持ってる隊員がいるだろ!
さっきみたいにトランポリンで跳べばいいんじゃねえか?
それだ!
それだ!
「……そりゃ、みんなでって言ったけどさ」
「でも~。流れが急だよ~? しっかりした橋を作らないとげふん!? あ、あぶなっ!? 向こう岸に手がついてよかった~!」
「よし! パラガ子ちゃんの背中踏んで渡るわよぴょん!」
「背が高くて助かったぴょん!」
「日頃の恨み込めて踏みまくるぴょん!」
「いたたたたたたた~!」
「ほら、みんなもふみふみふみ!」
「スカート捲れた写真撮られた時の恨み!」
「好きな人のな名前ばらされた恨み!」
「うわ~! 幸せ~!」
ばばばばばばばばっ!!!
「…………佐倉隊員」
「了解! この変態!」
「ごふっ!? うわこわげぼごぼごぼっ!!!!!」
滝に蹴落とされた!
水しぶき飛んで来たぞこっちまで!
下まで落ちたけど……
大丈夫なのかパラガ子ちゃん?
というか、今のはアウトなんじゃ……
あ! そうか!
ばばばばばばばばっ!!!
「……佐倉隊員、アウト」
「本望! あーすっきりしたぴょん!」
「では先を急ぐぞ」
「はいだぴょん!」
「崖を降りて……」
「折り返して右に進めば……」
「…………川だな」
「まあ、上から流れてるから当然よん」
どっ
「どうする今度は」
「橋はもういないし……」
「ごほっ! ごほっ! ……酷いよ~。下のプールで溺れるかとおもげふっ!?」
「よし今だ!」
「渡れ渡れ!」
「そして最後は……」
「更衣室のロッカーに隠れてた時の恨み!」
「げふっ! ごぼごぼばしゃん!」
ばばばばばばばばっ!!!
「…………安西隊員。アウト」
「あーすっきりしたぴょん!」
「今更だけどさ。文化祭でやりたい事、これが結構多かったんだけど」
「さあ! 次はあたしの番ね!」
「あたしが先よ!」
ばばばばばばばばっ!!!
「……まあ、退場すんのは叩き落してからでいいから」
「よっしゃ! 話せるわね隊長!」
「早く上ってきなさいよパラガ子ちゃん!」
ごひん! ごぼごぼ
ごひん! ごぼごぼ
「……ちかよんな」
「びしょびしょよぴょん~」
「なんでお前、ちょっと嬉しそうなんだよ」
「鈴村に蹴られた~! 俺、今夜は眠れないかも~!」
ばばばばばばばばっ!!!
「さすがにストーリーが破たんするから俺が代わりに退場するが」
「お~! 優しい~!」
「ちゃんと芝居しとけよ?」
「わかったぴょん~」
「……ねえ、パラガ子ちゃん」
「なあにだぴょん?」
「ちょっと聞きたい事があるんだけどぴょんよん?」
「まさか恋バナ~?」
「あなた、優太のこと、好きなのぴょん?」
ああ……
さっ
なるほど……
ささっ
「そうよ~? だって彼、頭カチンで女子の前でかっこつけて~」
「ん?」
「いつも汗臭くていいかっこしいでやたら人の見てるとこだけで親切で~」
「ん? ん?」
「俺よりバカで俺よりバスケ下手で俺より背が低くて~」
「え? じゃあ、嫌いなの?」
「でも台本的に、好き」
「おちろっ!!!」
ごひん! ごぼごぼ
う、うーん……
これは……退場?
いや……?
「おいこらパラガ子ちゃん! もっかい上がってくるのよん!」
「もういやだ~。だって……」
「だって?」
「お前に蹴られても嬉しくない」
ばばばばばばばばっ!!!
ばばばばばばばばっ!!!
「……今、ご覧になられている皆様もカードあげたわよ」
「お客さんじゃなくて~?」
「うん。携帯の向こうから」
「なんのはなし~?」
じゃかじゃん!
じゃかじゃん!
じゃかじゃんじゃんじゃんじゃんじゃん!
後半へ続く!!!
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