第2話 新生活、そして再会

「今日もいないか…」

あの日以来、その公園に足を運ぶが彼女の姿はない。住宅街から離れていて、遊びに来る子供も居ないため彼女にとって穴場だったのだろうが、僕がこの公園の存在を知ってしまったがために彼女は歌う場所を変えてしまったのだろう。


そのまま時が過ぎ、中学校を卒業して地元の高校に入学した。この高校での生活も極力独りで過ごすつもりだ。クラスメイトとの交流も初日にチャットアプリであるMineの連絡先を交換し、学校行事の業務連絡でやり取りするだけになるだろう。


憂鬱になりながらも生徒玄関に張り出されたクラス名簿に目を通す。自分の名前と出席番号を見つけ、指定された教室へと向かう。


教室ではある程度のグループが既に出来ていた。このクラスに僕を知る人はいない。いたところで話さないが。僕はすぐさま自分の席に着く。すると後ろの席の奴が話しかけてきた。

「よぉ!俺は武本 健也(たけもと けんや)だ!とりあえず1年間よろしくな!」

見るからにして中学で野球部に入っていたであろう坊主頭の男子が声をかけてきた。

(うわぁ、明らかに陽キャだな〜。)

休み時間にはきっと武本の席の周りに人が集まるだろう。運が悪いと会話に巻き込まれることもあるかもしれない。

「僕は瀧谷 光希(たきもと みつき)だ。よろしく。」

「おう!よろしくな!とりあえずMine交換しようぜ!」

いや、行動力凄いな。恐らく既に今教室にいる人全員と連絡先を交換しているのだろう。あまり気が進まないが、まあそんなにデメリットはないだろうからとりあえず交換する。

「どんな1年になるか楽しみだな!」

「そうだね。」

(席替えするまでの辛抱だ。我慢しよう。)

そう思っているとチャイムが鳴り始めた。入学式前のホームルームの5分前であることから恐らく予鈴だろう。予鈴が鳴り、多くの生徒が自分の席に向かっていると、廊下に響き渡るドタドタという音と共に女子生徒が現れた。

「危ない!セーフ!」

「ちょっとサヤ!遅いよ!まだ予鈴だから大丈夫だけど。」

「え?これ予鈴なの?よかった〜。」

教室に入ってきてすぐに中学でも友達であったのだろう女子と話し始めた少女に僕は目を疑った。

(あ、あの子だ。)

僕がその歌声を聴きたくて何度も探し求めた少女が教室に現れたのだ。

「すごく元気がいい奴がいるな!きっと楽しい1年になるだろうな!」

これに関しては武本と同意見だ。彼女の声に一目惚れならぬ一聴きぼれした僕にとっては、彼女と同じクラスになれたことはとてもよい事だ。


それからホームルームのチャイムが鳴り、そこで自己紹介の時間が取られた。適当にするやつ、真面目にするやつ、ウケを取りに来るやつ、みんなそれぞれのやり方で自己紹介をした。そして彼女の番。

「今日からこのクラスで1年間一緒に過ごす矢沢 沙也加(やざわ さやか)です。よろしくお願いします!」

至って普通の紹介を終えて着席しようとする。

(ん?)

着席する直前僕を見た気がした。しかし、彼女は何事も無く座る。きっと気のせいだろう。


その後ホームルームも入学式も順調に終わり、放課の時間になる。僕が帰り支度をしてさっさと下校しようとすると、武本を含む陽キャ男子がクラス全員に向けて言う。

「なぁ。今からみんなで親睦会やらね?」

その言葉で僕以外のみんなが盛り上がる。この空気をなるべく壊さないようにこっそりと教室を出ようとしたが、武本に捕まってしまった。

「瀧谷ももちろん来るよな?」

「いや、僕は今日はいいや。」

「何か予定あったか?」

「特にないけど…」

「じゃあせっかくだし行こうぜ!」

押しに弱い僕は結局親睦会に参加することになってしまった。親睦会はそれぞれ1度家に帰ってから、予約した店に待ち合わせをして開くらしい。みんなで親睦会の会場を決めてからそれぞれ帰路に着く。僕も帰り支度は既に済んでいたので、解散と同時に教室を出る。その時僕を見つめる彼女の視線に気づくことはなかった。

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君の声以外の音が無くなればいいのに たっとん @pote_10

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