君の声以外の音が無くなればいいのに

たっとん

第1話 僕はその''音''に出会う

僕は昔から人とのコミュニケーションが上手くできなかった。そうなったきっかけは2つ、両方とも小学5年生の頃だった。


1つ目は両親に学校のテストの結果を見せた時だった。僕はそのテストで86点を取り、両親の元へと見せに行った。いつもなら褒めてくれるのにその日だけは違った。「大人になって成功するためには、小学校のテストぐらい100点を取れなきゃダメだ。」と両親は言った。それ以降両親は僕を褒めることをしなくなった。

2つ目は友達に無茶振りをされた時だ。突然「何か面白いことをやれ」と言われ、1発芸を見せたところ「つまらない。」「もっと面白いものはないのか。」と呆れられたのだ。


勝手に期待され、勝手に失望されて、僕はどうすればよかったのだろうか。気がつくと僕は内向的になり、他人の声を聞くことにさえ嫌気がさすようになった。


それから4年後、中学3年生の冬に運命的な出会いを果たす。僕はいつも通り内緒で学校に持ってきている音楽プレイヤーとイヤホンで好きな曲を聴きながら下校していた。他人の声を極力聞きたくない僕にとっては、好きなものだけを聴ける音楽プレイヤーとイヤホンは必須アイテムだ。


その日もいつもと変わらず下校していると、どこかからやってきた虫が目の前で飛び回り始めた。鬱陶しく思った僕は手で払おうとすると、うっかり片方のイヤホンが外れてしまった。虫もどこかへ飛んで行ったので再びイヤホンを付けようとすると微かに今聴いてる曲とは違う歌声が聴こえてくる。普段なら他の''音''には気にもとめないのに何故かこの歌声にはイヤホンから流れてくる曲よりも惹かれた。


僕はもう片方のイヤホンを外し、耳を澄ます。そして、その歌声が聴こえる方向へ歩みを進める。辿り着いたのは何の変哲もない公園だった。遊具は滑り台とブランコのみ、それと東屋(あずまや)があるだけの小さな公園だ。歌声が聴こえてくるのは東屋からだった。よく見ると人影が見えた。僕より少し身長が低めの少女だ。歌声の主は彼女で間違いないだろう。

もっとよく聴きたい。その願望を持って、砂を踏む音を響かせながら公園に足を踏み入れる。僕が公園に入った気配を感じたのか彼女は歌うのを止めてこちらを見る。すると恥ずかしそうに顔を赤くして、僕が入ってきた出入口とは逆の出入口から走り去ってしまった。僕は追いかけようと思ったが、流石に見ず知らずの人を追いかけるのは問題があると思い、ただただ走り去っていく彼女を見ていることしかできなかった。彼女の姿が見えなくなってから僕は自分のこの気持ちに驚く。あの日以来、初めて人の声を聞いていたいと思ったのだ。しかし、翌日も、その次の日もその声を聞くことはなかった。


僕はその声が二度と聞けないかもしれないことと、もうすぐ中学校を卒業して、新しく高校生活が始まることを考え憂鬱になってしまう。いつかまたあの声を聞きたいものだ。

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