アニキャラVTuber並みに可愛い幼馴染み兼義妹が所属しているクランは俺を弾除けにしか思ってない

冬場 春

短編 幼馴染み兼義妹とゲーム

「ちょっとバルス、『俺は死にませーん!』と言いながら戦車の前に立ちはだかって! その隙に私が側面からバズーカを撃ち込むから!」

「ちょっと待て、紅葉もみじ! 俺が引き殺されて死ぬ作戦はやめろ!!」


 俺の前には可愛い声を喋る人間とは到底思えない暑苦しいオッサン顔をした兵士……もとい俺の見てる画面越しにいる紅葉のアバターが喋っている。


 しかも仲間に犠牲を強要する事が無さそうなアニメキャラのアバター。


 ……くそ。言ってる事は無茶苦茶だが銀髪碧眼の女の子キャラが相変わらず可愛いな。しかもロングヘアに眼鏡キャラときた。


 そんな事を思いながら俺達はいま世界中のゲームプレイヤーが集う、『ファーストパーソン・シューティングゲーム』 通称FPSをやっているのだが、只今絶賛通りの真ん中に陣取った戦車に狙われており建物の中に隠れているのだ。


「これはバルスにしか出来ない崇高な任務なんだよ。君が行かないと私達は戦車に駆逐されてしまうんだ……だからお願いだから死んでよ。君の屍を超えて私は戦車を潰すから」

「おい、然り気無く平然と人にデスを強要させるな!」

「心配要らない。ちゃんと死体にピンを指して、私がチャットに『ここに哀れな童貞が死んでいます! だから助けてあげて衛生兵! ww』って書き込むから。きっと映画みたいに衛生兵が来てくれて言ってくれるはずだよ『言ったろ、童貞は死なない』ってさ」

「おい、その書き込みだと誰も来ないから! みんな画面越しに笑って、お前の切り抜き動画をやってるYTuber達の餌食になる」


 如何にも映画に出そうなセリフでデスを強要するわ、戦場で晒しプレイを強要させてくる酷い仲間だ。

 俺が所属しているクランメンバー分隊仲間は俺の事を弾避けにしか思っていない。


 俺を囮に使ってキルを取ったり、今みたいに平気で善良なプレイヤーにデスを強要しては自分のキルポイントを稼ごうとしてくる図太いクランメンバー。


「分かったよ。バルスがそこまで言うなら私が囮になって援護する。その間にバルスは戦車を爆破して、このC4爆弾プラスチック爆弾を使ってね」

「おい、そんな事したらお前がデスるぞ」


 普段だったら天地がひっくり返したって絶対言わない紅葉の言葉。


「それは心配要らないよ。私が死んでもバルスがきっと蘇生してくる。リアルでもゲームでも私が困ったら絶対にバルスは助けてくれるからね。なんと言っても君のスキル兵科は衛生兵。そして私の幼馴染みだ。最初から頼りになるのはバルスだけだから」

「紅葉……」


 銃弾や戦車砲弾が飛び交う中、紅葉の声は俺を信じてると。


 画面に映るアニメキャラVTuberは可愛いが、画面の中に見える暑苦しいオッサン顔の兵士で気分は複雑だがな。


 そして俺のスキル兵科衛生兵なら死んだ兵士でも一定時間内なら蘇生が出来る。


「分かった。なんとか戦車に近づいて破壊してくる。絶対にお前は守ってやるからな」

「うん、信じてるよバルス」


 そう言って俺は爆弾を受け取り、紅葉が発煙弾を投げて俺を援護する。

 敵は装甲の薄い戦車。

 俺は上手く側面の建物を使いながら近づいて行き、紅葉は発煙弾のスモークが晴れると必死に援護射撃して戦車のヘイト敵対心を買ってくれている。


 戦車の側面に飛び出すと敵は紅葉に集中して気付いていない。

 俺は紅葉から譲り受けた爆弾を戦車の側面装甲に貼り付けていった。


「後は離れて爆破だけど、紅葉から貰った爆弾だと足りないな……おい、紅葉! 爆薬が足らない……ぞ」


 そう俺は紅葉の図太さを忘れていた。

 戦車の耐久力を削るなら爆弾三つ必要だが、紅葉から貰ったのは二つ。

 足らない分はどうするんだと思って紅葉を見たら、バズーカの照準を戦車に向けていない。


 なんと起爆スイッチを持っている俺に向けて構えていやがる。


「バルス、君の犠牲は無駄にしない。だから動画再生数の為に死んで♪」

「えっ――!?」


 フレンドリーファイヤ友軍誤射をオンにしている為、紅葉が放ったバズーカ弾頭は見事に俺に当たり、貼り付けた爆薬は誘爆して戦車を見事に破壊した。


 そして俺の死体は空高く舞う上がり、その光景はデスカメラで見せつけらるわ、残機が残り最後だったらしく、俺が死んだ事によって試合終了してしまった。


 試合が終わるなり待機画面に変わると紅葉が言ってくる。

 それはもう嬉しそうな声で。


「うわ~またバルスの所為で負けたよ。バルスが入ると試合崩壊する、バルスバルス」

「おい、人の所為にするな。大体話が違うぞ! 何で俺の死が前提になってるんだよ! あと疫病神扱いするな」

「あの場合は仕方無いよ、私は最善を尽くしただけだし。たまたまバルスに弾頭が当たっただけたから、決して狙ってないよ?」

「いやいやウソだろ。何で俺の死が最善の選択なんだよ」


 紅葉が言うには弾薬補給しに行ってる暇がなかったと。

 絶対にウソだろ。

 明らかにバズーカを構えていた兵士の奥にある顔は悪意に満ちて笑っていたぞ。


「バルス、そろそろログアウトするね。もう朝ごはんの時間だしさ。また学校から帰ってきたらプレイしよ」

「そうだな」


 そう言って俺は参加していたフレンド達に『お疲れ』と流してログアウトした。


 制服に着替えて部屋から出ると銀髪碧眼のロングヘアに眼鏡を掛けた可愛いVTuberこと紅葉ではなく、赤い眼鏡の奥は眠そうな目をしており、ダブダブなYシャツのみを着た幼馴染み兼義妹の心愛ここあが台所に立っている。


「ふぁ~。おはよう、まこと

「おう……おはよう」


 朝から幼馴染みの緩みきった姿は童貞には刺激が少し強いぜ。


 しかもダブダブなYシャツだけ着ているのがポイントが高いし、何より見える見えないのギリギリラインが尚のことポイントが高い。


「ちょっと待ってて、すぐに朝ごはん用意するから」

「ああ……今日は心愛が当番だったな。ちゃんと食べれる物を出してくれよ」

「何それ、バカにしてる? 人気VTuber紅葉だって料理くらい出来るし。座って待ってなよ、童貞野郎」


 ふぅ……朝からキツ過ぎるな。


 幼馴染み兼義妹に朝ごはんを作ってもらえるのは嬉しいが『座って待ってなよ、童貞野郎』は童貞のガラス繊維の様な繊細な心が傷つく。

 だが俺的には美味しい言葉だがな。


 テレビを着けながら椅子に座ってスマホを見ていると、目の前に生焼けすらでもない、焼いてもない食パンが出された。

 しかもバターやジャムすら無い。


「これは何?」

「何って、どっからどう見ても真の朝ごはんだよ。さぁ、たんと召し上がれ、♪」

「たんと召し上がれじゃない! お前の中に居る俺の地位はどんだけ低いんだよ! まだハヤテの方が良いもの食べてるぞ!」


 思わず俺は床でキャットフードを食べている愛猫のハヤテを指差す。


「ん~真の地位はチーター不正プレイヤー並みかな。しかも猫に嫉妬する童貞ってマジキモ。こっちにおいで、ハヤテ」

「ふざけるな、なんて義妹だ。ほらハヤテ、こっちに来い」


 二人揃ってハヤテに手を伸ばす。

 するとどんな賄賂で懐柔したか知らないが、ハヤテは心愛の胸元に飛び込んだ。


 くそ、ハヤテのやつ羨ましいな……じゃなくて、けしからん猫だ。


「よしよし、いい子だね。あんな童貞野郎に抱っこされたらハヤテも童貞になっちゃうよ~。でも大丈夫、ハヤテのお嫁さんは私が選んであげるからね」

「あ、心愛さーん。出来ればお兄ちゃんのお嫁さんも選んで――」

「は? マジキモなんだけど。あと誕生日がちょっと早いからってお兄ちゃんヅラしないでくれる?  本当に鳥肌立つから弱小プレイヤー」


 くっ……弱小プレイヤーは否定出来ない! けどお兄ちゃんは負けない! 全国のお兄ちゃん代表として、いつかトップスコアを出してお兄ちゃんの威厳を知らしめてやるから!


 そもそもの始まりが俺の親父と幼馴染みこと心愛のお母さんが再婚したのだが、関係図がもはや昼ドラよりも複雑過ぎて心愛は旧姓を使っているくらいだ。


「とにかく生の食パンは食べられるか」


 そう言って俺は台所に向かう。


「何するの?」

「黙って座ってスマホでも見てろ処女姫様。俺が作るから」


 やった! ついに言ってやったぞ、全国のお兄ちゃん達! 俺は全国で虐げられているお兄ちゃんの為に言ってやりました!


「うわ~本当キモ。仮にも妹に向かって処女って……」


 分かる! ちょっと時間が経ったら自分でも気持ち悪すぎると思ってる!


 だが俺は素知らぬ顔で料理を初め、心愛がスマホを見ているテーブルに料理を出した。

 純白の白米に、味噌汁。そして焼き魚に漬け物、正しく日本の朝ごはん。


「真って昔から料理上手いけど、流石に朝からはりきり過ぎでしょ」

「うるさい。いらないなら食べるな」

「嘘だから許してよ。ね、お兄ちゃん?」

「ぐっ……」


 上目遣いで見つめる心愛に俺は取り上げたご飯を戻す。

 こういう所でお兄ちゃんと言われると破壊力があり過ぎて困る。


「今回だけは特別だからな。夜は心愛が作れよ」

「うん。ちゃんとフードデリバリーで頼むからね」

「それ作るじゃない!」


 俺の突っ込みを無視して心愛は味噌汁を一口飲む。


「うわ~徹夜でゲームした後の味噌汁は胃にくる~。真の味噌汁はインスタントと違うね」

「やめろ、その二日酔い後のお父さんみたいなセリフ。あと心愛が飲んでる味噌汁はインスタントだからな、次いでに言うと全部。人気VTuber紅葉様の舌も大した事ないな」

「ぶっ!? ウソでしょ?」


 口にから噴き出した味噌汁がスマホにかかって急いで拭く心愛。


「もちろんウソだ」

「あ~ビックリした。でも真のお父さ……お父さんはよく言ってるよ、あとお母さんも。赴任先に泊まり行った時に飲ませてあげると特にね」

「……そうか」


 俺の素っ気ない返事に流石に心愛も感づいたのか話題を変える。

 まだ俺が二人の再婚を快く思ってないのを知っているからだ。


「あ、知ってる? 今度わたし達がやってるゲームでストリーマーカップ配信者大会をやるんだって。何と人気VTuberの伊達菫さんが所属するチーム『チーターに人権は無い』も出るって」

「マジか!?」


 俺が今やっているゲームを知るきっかけをくれた伊達菫さんの所属するチーム名『チーターに人権は無い』はゲーム配信をしながらチームプレイで善良プレイヤーの敵、チートプレイヤーをフルボッコにするのを信条にしている猛者クラン。


「おーしっ! トップスコアチームに入れる様に今日から特訓だ」

「え~真の実力でトップスコアチームに入れるの? いつも真ん中あたりを浮遊してる、可もなく不可もないプレイヤーなのに」

「馬鹿にするな。俺だってやれば出来るけど一人じゃ無理だ。だから心愛やクランメンバーも当てにしてるからな」


 立ち上がって心愛を見ながら宣言する俺。


「ま、しょうがないな~。真は昔から私がいないとダメだからね。もしトップスコアチームに入れたらご褒美あげるよ」

「ご褒美?」


 これは遂に俺の事をお兄ちゃんと呼ぶ日が来たか!?


 すると心愛も立ち上がりながら俺のネクタイを引っ張っては耳元でこそばゆく囁く


「……もしトップスコアチームに入ったら真の童貞は私が奪ってあげる。だから頑張ってね、お兄ちゃん」

「なっ!?」


 俺がビックリして椅子に座り込むと心愛は笑い出した。


「あはは、本気にした?」

「おま、ふざけるなよ」

「ごめんごめん。大体わたしと真は義兄妹なんだからさ。そんな事は無理なんだよ、再婚した瞬間に消えた可能性なんだから」


 ちょっと寂しそうに言う心愛。


 これはあれか、女性特有の演技ってやつか? だとしたら上手すぎる。


「あまり俺をからかうなよ」

「からかってなんか無いよ。私は好き……真の事がたまらなく好き」

「え?」


 椅子に座った俺の顔に、テーブルに身を乗り出して迫る心愛の顔。

 互いの息づかいが分かる程に近く、次第に心愛の瞳が綴じていく。


 これは禁断のキスってやつか!? いやいや俺達は義兄妹だけど血は繋がってないからありなの!?


 咄嗟に俺は瞳を綴じた。その瞬間、唇に温かい感触が伝わる。


 あれ、心愛の唇ってこんなに硬かったけ? なんだか毛深い様な……。

 俺はゆっくりと瞳を開けると目の前には全身が毛が生えた心愛……じゃなくて愛猫のハヤテがいる!!


「うわっ!?」

「にャー」


 ビックリした俺は床に転げ落ち、ハヤテを抱いた心愛が笑いながら……いや、見下す様な悪意に満ちた笑いで見ている。


「あはは、マジでウケる! 真、私だと思った?」

「お、お前!」

「ないない、真とキスは無いから。私達は幼馴染みだけど義兄妹だよ。今のままならそれ以上の関係には成らないから」

「たく……からかうなよな」

「だからゴメンって言ってるじゃん。お詫びに徹夜でストリーマーカップまで特訓してあげるから。しかも私の部屋でね。だから許してよ」


 悪魔の様な可愛い笑顔を見せる心愛に俺の意思は呆気無く折れて受諾した。


 何より最悪だった事はこの後。


 紅葉が自分の配信チャンネルで俺の死に様をアップしたのだ。

 しかも『童貞兵士、宙を舞う!?』と、ご丁寧にサブタイトルを付けて晒したのだ。

 しかも結構な再生数を稼いで、コメント欄には「マジ童貞の会話キモい ww」「本物の童貞だ! ww」「本物のDTって夢見すぎだよね ww」と紅葉様信者にフルボッコにされた。


 いつか絶対にトップスコアチームに入って、この悪魔みたいな可愛い笑顔をする幼馴染み兼義妹の心愛を見返してやるからな!

 そして絶対に「凄い、お兄ちゃん!」って言わしてやる、絶対にな!!

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アニキャラVTuber並みに可愛い幼馴染み兼義妹が所属しているクランは俺を弾除けにしか思ってない 冬場 春 @fuyubaharu

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