第1話

「さっむ〜」


「マフラー、してくれば良かったね」


「ホントだよ〜」


 外は極寒だった。寒さが顔やら首やらと、肌の露出部を遠慮なく刺してくる。すでに鼻の感覚はない。垂れてくる鼻水に鼻をすすって、白い息を吐いた。いやはや、近頃の外の寒さを完全に舐めていた。

 

 あー寒い。


 荒れたアスファルトの道には霜が出来ていてブーツの底がくしゃりくしゃりと音を立てている。不意に片方の音が止まって空を見上げていた。


「雲厚いねー」


「おかげで寒くて死にそう」


「この雲の向こうで起こってる何かが少しでも変われば、また半袖の季節が来るのかな。」


「そりゃ天文学的確率だ。」

 でも、その天文学的確率分の一に期待してみてもいいのではないかと思った。失うものなんて無いのだから。


 私が期待しているのは、誰かが転がしたビー玉が宇宙にまで行くような事だ。初めから失うつもりで掛けた期待は、失う時に痛みを伴わないで済む。


「それでヒナタはそれを望むの?」


「いいや、ただ期待しておこう。優梨のために。」


「私は気温を感じないから」とヒナタは笑って再び歩き始めた。私は暑すぎても死ぬんだろうけれど、取り敢えず今は暑さがこいしい。


 だから期待しすぎて夢みがちになる前に重い脚を前に出し続ける。そうすれば考えるのは寒さだけになるから。


 あー寒い。今年の初雪は近そうだ。

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