世界が終わる前に
夕月奏
プロローグ
ピ…ピピピ…0101010101010101000………………
「おはよ優梨」
「おはようヒナタ」
私は、起動して目を開いたそれに言葉を返した。
窓からは日が溢れ、彼女の横顔を照らしている。まだ眠そうなその顔は欠伸を一つこぼした。私は窓から差し込む光に目を細めた。
陽はまだ昇りはじめたばかり。冷たい空気が沈澱した部屋に、流動が生まれるその頃。
流れに乗って今日も私たちは動き出す。布団を蹴って冷たい世界に身を乗り出した。
「さっむ〜い」
「そーねー」
「ただ返事でしょ」
「もちろん」
こういう時のヒナタは羨ましい。着替える時も寒さに怯えなくていいのだから。
寒さに眉ひとつ動かさずに服を脱ぎ始める彼女を横目に、朝ご飯用の卵を一つ冷蔵庫から取り出してフライパンに油を引いた。
「良い匂い。卵焼き?」
ヒナタは機械だが嗅覚はある。視覚も聴覚も。感情はイマイチ分からないが、それらしいものはあるらしい。ただ、味覚と温熱感覚の欠如だけが彼女を機械たらしめていた。
「ヒナタも食べる?」
「排泄が面倒だからいらない」
いつもの返事。
彼女にとって食事は必須ではない。排泄を伴う面倒なだけの行為だ。だから、誕生日ケーキだけは一緒に食べてくれるのは嬉しい。
今日の朝食は卵焼きと白ごはん。焼け上がった卵焼きにマヨネーズをかけて、二人食事の席で向かい合った。「いただきます」
ヒナタが私の目を見て言う。
「優梨、あと半年だね」
「ん」わかってる。
「それ美味し?」
「ん」おいしい。
ヒナタが微笑んだ。
ご飯が冷めないうちに食べてしまおう。
「見られてると食べにくいんだけど……てか恥ずかしい……」
「ふふっ」
「ふふっ」じゃねぇよ!
不本意にも照れてしまった。あぁ、せっかくの卵焼きが冷めてしまうじゃないか。なんだかやり切れない……。
今日も一日が始まる。
地球崩壊の日まであと182日──
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