第71話葛藤
「ミト…」
隣りに居るミトは、尚も顔を鬱向けながら険しい顔をしている。
「私の村を襲ったのもドラゴンじゃった」
ポツリと、ミトが言った。
それは口に出すのさえ躊躇うような口ぶりで、出来れば思い出したく無いような口ぶりで。
「…そうか」
俺はたむろしている冒険者にーー尚も視線はそのままに、ミトの話を聞く。
「あいつらはダメじゃ。これまでの相手とは次元が違う」
「…」
分かっている。ミトが俺達の事を案じて言ってくれている事は。
俺だってドラゴンとなんか戦いたくない。
でも────────
「でも、倒さないといずれこの街にも被害が出るかもしれない」
そう、それで皆焦っているのだ。
あんな張り紙を張り出すぐらいに。
俺は先程まで見ていた掲示板を見ながら思う。
そう、先程のふざけたようなドラゴン討伐の依頼はそう言う意図で貼ったものだと、ギルドの女の職員の人が教えてくれた。
ちなみにその職員は、今はスフィアと何か喋っている。
なんか嫌な予感がするが、まぁとりあえず今はミトの事だ。
「じゃが…」
俺の言葉を聞いたミトは、尚も険しい顔をしたまま唇を噛み締める。
「…」
「はっきり言って、この街に居る冒険者達の中では俺達は多分、1番強いと思う」
目の前の冒険者達の驚き方から言って、恐らく間違い無いだろう。
言って俺は、スフィアは知らないけど。と付け加える。
でも──────だから、と。
「俺達には、この街を救う責任がある」
俺達にしか倒せない敵が居るのに、倒さず逃げるというのは、この街を見捨てるーーこの街の人達を見捨てるという事になる。
この街で結構な時間を過ごしてきたが、俺はこの街の事が案外気に入っているのだ。
「ミト、俺はやるよ。例えミトが止めたとしても」
そう、せっかくーーダンジョンに1人放り出されて、一番最初に見つけた街だ。俺もネルも感謝している。人柄も良くて、たまに遊んでと来る子供たちや、変態の領主、それにやけに老けて見える鍛冶屋なんかも。
俺は好きだ。
だから、と。俺は再度つけ加えて。
「手伝ってくれないか、ミト」
「っっ!っ」
俺の言葉が意外だったのか、一瞬目を見開きながらもミトは、またもや唇を噛み締める。
それは過去の自分と葛藤しているようで、見ているだけでも気の毒になる様な表情で。
辛いのは分かってるーーいや、分かるはずが無いか。
俺は自分で訂正しながらも、
「頼む」
頼む。それは命令ではなく、あくまでお願い。
ミトの感じている底知れぬ恐怖を拭いさってやるように。また同じ過ちを繰り返さないように。
俺は優しい口調でそう言った。
寝て起きたらダンジョンだった件 四方川 かなめ @2260bass
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