第60話奥義

ビュュュュュュュュュュュュュュュューーー!!!!


神速スキルによって進む俺の耳に、風を切る音が、もはや振動となって伝わる。


現在、爆音が聞こえて来たーー生駒の方に、援軍に向かっている所であった。


くッッ間に合ってくれ…!


生駒の方から爆音が聞こえた時、瞬時に駆け付けられなかった事を後悔しつつ。

心の隅に、生駒よりもミトの方を優先順位付けしてしまった自分に、多少の憤りを感じながら、さらに道を急ぐ。


ビュュュュュュュューーー!!


瞬足スキルが進化して神速スキルになったが、これが超使える。

瞬足が神速になっただけで、前(瞬足)の5倍くらいに早く動けるのだ。


まぁ、それでもネルにはかなわないんだけど……。


そう思いながら、親エスキャナティを無力化しておいた場所に着くと…!



そこには、首が綺麗に切断されたエスキャナティと、刃がボロボロに折れた双剣を握ったまま、仰向けに倒れている生駒が居た。


「なっ…!い、生駒!!」


最初は倒れている生駒よりも、首を真っ二つにされているエスキャナティの方に驚いてから。

倒れている生駒に駆け寄る。


「おい、大丈夫か?」


倒れている生駒は、目立った外傷はなく。

スーハースーハーと、気持ちよく息をしていた。

…というか。


もしかしてこいつ、ただ寝てるだけなんじゃ…。



そう思い、ゆさゆさと、軽く肩を揺ってやると。


「んん…あぁタクヤか…」


言いながら、震える両手を地面について、上半身をゆっくりと持ち上げる生駒。

そして、まだ眠そうな目を擦りながら。


「エスキャナティやっつけといたぞ…」


と、言った。


ーー「凄いね生駒!」


「ふっ…まぁ俺の手に掛かればこんなものよ」


「うーむ有り得ん…何故生駒にこんな力が…もしかして悪魔と契約でもしたか?」


「しとらんわ!」


「じゃあ何故…」


「だーかーら、さっきも言っただろ?奥義を使ったって、その代償に全身の体の筋肉の活動が一時停止したって…」


生駒は、隣りで同じくおんぶされている、全然信じてくれないミトに向かって言う。


俺達は今、俺は奥義とやらを使って動けなくなった生駒を、ネルは負傷しているミトを、それぞれ背負って、ダンジョンの出口に向かって足を進めている所だった。


俺が倒れている生駒を見つけた後、すぐにネルとミトが、しっかりと記憶石をもって来てくれたのだ。

「全く…心配しょうなヤツめ…」と思うが、正直言って、立場が逆だったら同じ事をしていたと思うので、何も言えなかった。


「なぁ生駒、その奥義ってのはなんなんだ?」


「奥義つーのは、ん〜そうだな〜…奥義は奥義よ」


「それじゃ分からん」


何度聞いてもこれだ。

先程からちょくちょく、その奥義に付いて聞いているのだが、生駒も詳しくは知らないらしく。

なんでも、上位職業【踊り舞踏】に伝わる、必殺技的な物なんだとか。

しかし、必殺技(強力な一撃)を出せる代償に、体の筋肉の動きが、その後数時間は鈍くなるんだとか。

なんともギャンブル精神多めな必殺技だが、まぁあのエスキャナティの首を真っ二つにしていたので、それは普通に凄いと思った。

それに急所を移動できるはずなのに、一撃で急所を射抜いてしまう運も持ち合わせている生駒は素晴らしい。

そんな絶賛の生駒だが、ミトは納得いかないらしく。


「有り得ん…私の強めの魔法でビクともしなかったヤツを真っ二つは有り得んのじゃ!イカサマじゃ!そうに違いない!タクヤ!イカサマやろうは死刑に処すべきじゃ!」


ネルにかつがれながら、そんな対抗心を見せるミト。

どうやらミトは、自分の魔法で倒せなかったエスキャナティを生駒が倒した事が、納得いかないらしい。


年相応で可愛らしいじゃ無いか。


どうやらミトは、生駒(自称ライバル)の前では年相応になるらしい。


口調は治らないけど…。


「ちょっとミト、あんまり暴れないで…!」


ネルに叱られるミト。


「…むむむ…」


しょんぼりするミト。


「じゃがな!」


開き直るミト。


今日はミトの色んな表情が見れて楽しい。

生駒がこのままチームに入ってくれたら、もっとこのチームは楽しくなるだろうなと思った。

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