第61話「新」
俺は今、ネルと生駒とミトと一緒に、ジンさんの所に来ていた。
その理由は、1時間前に遡る。
ーー「母さん……俺の事…分かる…?」
生駒は、地面に寝そべっている母の背中を、ゆっくりと起こしながら。
ゴク……。
生駒が口に含ませた記憶石が、生駒の母の喉を通って行く。
俺達は今、穂積ちゃんと生駒の母親を預けている親戚の家にて、生駒の母に、記憶石を飲ませているところだった。
記憶石を飲んだ母は、そのまま、ぼーっとしている。
誰もが失敗を察して…………………………。
「生駒……?」
ふと母の口から、ここ数年、1度も聞かなかった言葉が出た。
「母さん!母さん!!…ぅぅ…あぁ…!」
「お母さん…!うぇぇぇぇぇぇん…!怖かったよぉぉぉぉ…!」
どうやら成功したようである。
ーー一息ついて。
「この度は、私と私の子供達を救ってくれて本当にありがとうございました」
「いえいえ、頭をあげてください。冒険者としてやれるまでの事をやったまでです」
生駒の母が、手を揃え、地面に頭をつけて、最大限に感謝の意を表す。
俺はそんな生駒の母の謝罪をたしなめながら。
「でも、病気が良くなって本当に良かったです。これからは穂積ちゃんを沢山可愛がってあげてください」
俺の言葉に、「はい…」と、感慨深く返事をする生駒の母さん。
俺は今、あの後移動した生駒の家の玄関で、別れの挨拶をしていた。
ネルとミトはその様子を、ニコニコしながら、朗らかに見ている。
そして俺が、「じゃあな」と言いかけた時、生駒が口を開いた。
「タクヤ!」
「ん?」
「…ありがとう。本当にありがとう。」
…。
「良いってことよ。お陰でスキルも進化したし、な?ネル、ミト」
「そうじゃな」
「うん!」
俺の言葉に2人が答える。
と、そんな中、生駒は1人浮かない顔で。
「どうした?なにかまだ不安でもあるのか?」
聞くと。
「タクヤ、お願いしてばかりですまないが…俺の最後の願い…聞いて貰え無いだろうか…」
「……いいよ」
「俺を……」
そこで黙り混んでしまった生駒の手を、穂積ちゃんがぎゅっと握る。
そして。
「俺を君たちのパーティーに入れて欲しい…!」
と、言った。
「……………………いいよ」
俺は笑顔で了承した。
断る理由なんてない。
ー実はさっき、生駒と母親の会話を少しだけ、盗み聞きしていたのだが…。
「…ありがとうね、生駒。穂積の面倒を見てくれて…」
「うん…」
…。
「……生駒、これまで苦労を掛けた分、自由にしていいんだよ…?あの人達との旅は楽しかった見たいだから…」
言いながら、生駒の綺麗なブロンドの髪をサラッと撫でる母さん。
「…いいよ…母さんは病み上がりだし、穂積もいるしね……」
やんわりと、かつ残念そうに断る生駒。
そうだ、穂積がいるんだ。
「…生駒………」
母は、なんとも言えない表情でーーーと。
「お母さん、遊ぼ!」
穂積が後ろから、母に抱きついた。
ずっと甘えられなかった分、今後の穂積はより一層無邪気になるだろう。
そう考えると、俺は尚更、先ほどの話は……。
俺が母と2人で、どうしようもなく俯いていると。
「お兄ちゃんあの冒険者の人達と楽しそうにしてたよね!」
突然、そんな事を。
「えっ…」
「後々、なんかあのタクヤって言う人と話してる時、お兄ちゃん泣いてたんだよ…?」
「えっ…」
今度は母の驚きの声が響く。
「後、あのタクヤって言う人に一緒に冒険したいだとか、後ーー」
「もういい!」
「…生駒…………………」
「…お兄ちゃん、私はもう人に流されないくらいに成長したよ…?」
ふと、穂積が言った。
妹なりに、恩返しがしたかったのだろう。
わざわざ悪者役にまでなって……。
「分かったよ…」
そこで俺は、何故か漏れ出てくる涙を、ゴシゴシと強めに拭いて。
「俺、タクヤ達と行きます!」
そう、高々に宣言した。
「…」
俺は生駒のその言葉を聞いた瞬間、ネルとミトに伝えるため、持たれていた家の外壁から背中を離し、歩き出した。
つづく
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