第59話やっと1匹
グワァァァァァァァァァァァァァァーァァァァァ!!
無数の電柱により生き埋めになるエスキャナティが、本当に幼体なのかを疑うほどにけたたましい咆哮をあげる。
そして最後の1本が、もはや降り注いだ電柱によってほとんど見えなくなった子供エスキャナティの体に、トドメを刺した。
ガラガラガラ……
エスキャナティの硬い鱗に当たって砕けだコンクリートの破片が、生き埋めにした電柱の山から転がる。
「ネル!無事か?!」
空中から着地し、砂埃で見えない前をーーネルを最後に見た場所あたりを、探る。
ネルには当たってないはずだけど……。
俺は少し不安になりながらも、
「ゴホッゴホッ」
「!」
と、少しずつ収まってきたが、やはりまだ砂埃で見にくい前方から、咳き込むような声が聞こえてきた。
「ネル、大丈夫か?」
少し服が汚れているが、怪我は無く。
「うん大丈夫。それよりあいつは?」
寄り添うように近ずいた俺に、そう言って笑って見せてから、視線を電柱の山に向けるネル。
俺もつられて、電柱の山に視線を向ける。
子供エスキャナティを生き埋めにしている電柱の山からは、気配こそはしっかりとするが、そこから何かが出てくる気配は無く、とても静かなものだった。
よし、「ひとまず成功かな。」
俺はそう言ってから…。
「タクヤ、早くミトの所に行こう…?」
と、ネルが俺の思っていた事を先に言った。
どうやらネルも、ミトの事を相当心配していたらしい。
まぁあたり前か。
「あぁ」
俺は短く答えて、ミトの居る所まで、ネルと小走りで向かった。
ー「ミト!お前まだ傷口が開いたままじゃねぇか!早くふざけよ、バイ菌入るぞ」
俺とネルは、ダンジョンの壁に持たれるように座っているミトに寄り添う。
「私も出来ることならそうしたいんじゃがの…魔法は自分に掛けると…少ししか威力を発揮しないんでな…」
血が抜けて苦しいのか、荒く呼吸しながら、ミトがそんなシャレにならない事を言ってきた。
「えっ、マジ?」
「マジ」
ー…でもそうか、確かに、魔術は自分に掛けやすく、魔法は自分から離れた【物】にかけやすい。
だが地面に広がっている血の量は、明らかに致死量だった。
元の力が大きいミトだから、自分に対しての効果が薄い魔法でも、最低限の治療は出来たのであろう。
…でも……恐らく、痛みもあって、相当危険な状況だったはず…。
……………。
俺はミトの【その答え】に達した途端、ミトの努力を踏み躙(にじ)らない様に。
気を取り直して、今後の事を考える。
ーいつかのネルのように、俺の言葉に即答するミト。
いやそんな事より、
マジでどうしようか。
ミトがいないと記憶石を効率的に取れないし、何より命に別状は無いみたいだが、ずっと傷口が開いたままなのもどうかと思うし。
そう思い、もう一度ミトの傷口を見るが、やはり、ミトの細く綺麗な足の側面に、痛々しく切り裂かれたような傷があった。
「足、痛むか?」
「まぁな…だが大丈夫じゃ…このフィスばぁから貰った服に…弱いが回復魔法が掛けられておる…止血ぐらいはこの服でできる」
見ると、確かに傷口からの出血は止まっていた。
なるほど。
…………………………っていうか!
「そんな機能があったのか?!これ結構高いんじゃ…」
言いながら、俺は自分の黒いロングフードに触る。
……いや、どう見ても普通の服なんだが…。
俺がそう思っていると。
ドォォォォォォォォォォォォォォォンン!!!!
「!」
ダンジョンの入口の方から、もはや聞きなれた轟音が聞こえてきた。
「! タクヤ!あっちって生駒の方じゃ…!」
どうやら問題というのは、矢継ぎ早に来るらしく。
「あぁ今度はあっちみたいだな」
俺はネルの言葉に賛同してから、音のした方からミトとネルの方に視線を戻して。
「じゃあネル、ミトに付いててくれ」
と、言った。
「えっ、でも…」
おや?!
ネルは俺が!、俺の事が!心配なのか、行こうとす
(主張大↑)
る俺を止めようとする様に出した手を、ゆっくりと下げる。
そして。
「うん。分かった。絶対無事に帰ってきてね……?私はミトの代わりに記憶石を取ってるから」
なにか納得したように。
ネルはそう言って、祈るように手を握った。
俺は、「あぁ」と、短く答えてから、やはりまだ心配なのか、視線が俯き気味のネルの頭を、ポンと撫でながら。
「絶対だ」
と、言った。
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