第58話電柱

「私達はあいつを倒してくるから、自分で回復魔法を掛けて待っててね…?どこにもいっちゃダメだよ…?分かった?」


そう言って、私の手を優しく握ってくるネル。

私はネルの過剰な心配を、


「…分かった…分かった…」


と、痛いのを我慢して、適当に返してから。


「2人も…無理はするなよ…」


心配した様に、優しく手を握ってくるネルと、相変わらずエスキャナティを睨み続けているタクヤに言った。

私の言葉にネルは、「うん!タクヤと私がいればあんなやつイチコロだよ!」

と、私を元気づけるように元気に答えた。

そんなネルの言葉に乗じてか、タクヤも。


「ミト…すまんかったな、危険な役を押し付けて。これはリーダーである俺の責任だ。」


珍しくーーいや、珍しくではないか、落ち込んだように言った。

そんなタクヤの言葉に、私は。


「そうじゃの、許して欲しければ、帰ったら美味しいものでも食わせるんじゃな」


そんな私の言葉にタクヤは、気のせいか、一瞬「ふっ…」と笑ってから。

「了解」

と短く答えた。




ーー『刀身魔術ーー月光』


俺が刀を抜き、まっすぐ構えながら言うと、まるで月明かりの様な神秘的な光を放ち、光の塩梅で少しだけ刀身の伸びた俺の剣が、エスキャナティを襲った。


ガキンッ ガキンッッ!


が、フィスばぁに教えて貰った刀身魔術でも、中々エスキャナティの鱗は破れない。


ちなみに刀身魔術とは、自分が握っている武器に、魔素を流し込み、魔術として発揮する技だ。

ちなみに『月光』は、魔術発動時の間、攻撃力が上がるのと、アンデットに耐性が付くという物だ。


俺の刀とエスキャナティの鱗が打ち合い、なんとも不愉快な音が響きわたる。


チッ 本当にこいつ硬ってーな!


俺達は今、記憶石を採掘中のミトを襲っていた、もう1匹のエスキャナティと戦っていた。

ネルは、エスキャナティの周りを、四方にあるダンジョンの壁や天井を使って飛び回り、思考加速スキルを使っていなければ目に見えない程のスピードで、エスキャナティの全身に攻撃を繰り出す。


『刀身魔術ーーデスファング(死の爪)』


ネルの珍しく低めの声が響くと、右手のアームから4本の赤く鋭い爪が伸び、エスキャナティを切り裂こうとする。

そして俺は、さっき手に入れたばかりの神速スキルを使って、ネルと共に、エスキャナティの身体に、超速で回転しながら、斬撃を繰り出す。


ガキ ガキ ガキ ガキ ガキ ガキンッ


エスキャナティは、そんな俺達の見事な連携攻撃に何も出来ないのか、その場でしっぽを振り回し、ただ馬鹿みたいに暴れているだけだった。


……というか。



なんかこいつちっちゃくね?



こいつの体の周りを、神速スキルを使って飛び回りながら攻撃して気づいたのだが、こいつは先程のーーいま生駒に任せちゃってるエスキャナティより、一回り、いや二回り程小さかった。

そう思うと俺は、空中で、次の攻撃に移る為に体を柔軟に回転させながら。


「…こいつは子供か?」


と、同じく空中に飛躍しているネルに言った。


「そうみたいだね…まぁ硬いのは相変わらずだけどっっ!」


言いながらネルは、子供エスキャナティの、ただ振り回すだけのしっぽ攻撃を避ける。


「…」


ネルの言った通り、子供と言ってもあの強靭な鱗は健在で、漂ってくるのはやはりあの凄まじい魔力だった。

まぁ一見したら本当に弱点が無い様に見えるエスキャナティだが、俺はこいつらの弱点っぽい所を、先程の親エスキャナティとの戦いで見つけていた。


それは、攻撃力だ。


こいつは防御力がとてつもなく高いにもかかわらず、攻撃方法が捨て身の突撃としっぽ振り回し攻撃だけ。

それに頭にちょっと重いものを乗せただけで、身動きが取れなくなってしまう。

これではランクSではなくランクAというのも納得出来る。

俺はそうひとしきり考えて、自分の達した答えに納得してから。


「よっしネル、こいつ倒すぞ」


と言った。

そんな俺の突然の言葉に、「どうやって?」と、戦闘中も忘れず、可愛く小首を傾げて言うネル。



好きですネルさん。



俺はそんな事を思ってから。

「俺が電柱を出しまくってこいつを生き埋めにする、それだけ」


そんな俺の言葉にネルは、「電柱?」と言って、語尾を疑問符にして応えた。

そんなネルの疑問に、「あの細長いやつ」と言うと、「あぁ、あの頭にぶつけたやつね」と言って、納得したらしいネルに、先程の作戦の続きを話す。


「まぁ知っての通り、あいつは防御力がとてつもなく高い。だから【外】からは攻めない」


「叩いて殺すんじゃないの?」


ネルが、視線はエスキャナティのままで、俺に聞き返してくる。

そんなネルに、俺は。


「いや、生き埋めにして餓死させる」


と、言った。

生き物ならば、必ず食べ物を食べないと生きていけない。

それにエスキャナティの体は大きいから、恐らく消費するエネルギーも多いはず。とすると、生き埋めにして餓死させるのは結構いい選択なはずだ。

そう思うと俺は、「分かった!」と答えたネルと、電柱を落とす所を安定させるため、アイコンタクトでネルと動きを合わせる。

そしてエスキャナティの両側に広がり、空中から、俺は上に向かって、ネルは下(地面)に向かって飛んだ。

するとエスキャナティは、下(地面)に向かったネルに意識を移した。


ちなみにこれも、先程の親エスキャナティとの戦いで得た知識だ。


こいつは視野が狭い。


が、目が無いとか、そういう問題では無い。

というのも、親エスキャナティも子供エスキャナティも、先程から戦っていて分かったのだが、首の位置がちょっと下向きから変わらないのだ。

恐らく、硬い鱗が邪魔して、首が動かしずらいのだろう。それか、頭の位置を固定する事で、巨体のバランスを保っているのか…。


まぁどっちでもいいのだが、


とにかく、馬鹿みたいにしっぽを振り回す事しか出来ないのも、そもそも相手が見えて無いからなんだろう。

俺はそう思うと、


俺こんなにエスキャナティの弱点見つけちゃって、結構お手柄なんじゃね?

帰ったらギルドの受付の女の人に自慢してやろ。


そんな場違いな事を思ってから、ネルに視線が行ったエスキャナティのスキを見逃さずに、すかさず子供エスキャナティの頭上に飛んだ。


そして。


『電柱 電柱 電柱 電柱 電柱 電柱 電柱!!』


と言って、回転しながら願い、子供エスキャナティの頭上に、電柱の雨を振らせた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る