第57話よく頑張ったミト…バトンタッチだ

ドーーーーーーーーーン!!


遠くの方で響く戦闘音が、ダンジョンの壁に反響して私の耳を震わす。


「…タクヤ達は大丈夫じゃろうか……」


私はそんな事を口ずさみながらも、1秒でも早くタクヤ達の援護に向かう為、目の前の記憶石の採掘に集中する。

『スキルーー魔法融合』

と言いながら、宝玉を腰の周りに出現させて、右手を体の前に突き出す。


『サイコキネシス(念動魔法)+スカイエア(空中浮遊)ーーサイコフロウ(念動浮遊)』


他の岩と同化している記憶石に向けて魔法を唱えると、凝固に固まっていた記憶石が適当な大きさに砕けると同時に、空中に浮き、私の周りに停止する。

「うむ…これなら思っていたより早めに終わるかの」

私はそう言いながら、黙々と記憶石を採取する。



すると…!!



ドン…ドン…ドン…

ふと、私の背後から、荒く吹き出る鼻息の様な音と共に、聞いているだけで身の毛もよだつ足音が聞こえてきた。

私はそれに気づき、バッと後ろに振り向くと…!


ウォォォォォォォォォ!!


そこには、タクヤ達と崖上で見た怪物ーーエスキャナティが居た。

凄まじい咆哮と共に、魔素をたっぷり含んだ暴風が私を襲う。

「ぬっ……!」

そして。


バーーーーーーーン!


「くっ…!!」

いきなり突撃してきたエスキャナティを、私は採取した記憶石を浮かせたまま、ギリギリの所でかわす。

(なんじゃ?!タクヤ達が抜かれたのか?!いや、今も別の戦闘音が聞こえる………)


「くっ…」


事態の重大性を理解した私は、1度ジブい顔をしてから。

「もう1匹おったか……」

と言った。


ー「ふぅー…」

風魔法を自分の足元に掛けて、エスキャナティの単純な突撃攻撃を飛びながら避け続ける。

…先程から弱めの魔法をこいつに食らわせているが、いっこうに効いている雰囲気はなかった。


というかこいつ、崖上で見たやつよりも小さい気がする。

おそらくは子供だろう。


私は、ビビりな生駒の予想が当たっていた事に苦笑しながらも、エスキャナティの攻撃を必死に避ける。

「なんなんじゃこいつは!体力が無限なのかか?!」

いっこうに疲れを見せないエスキャナティをにらみながら。


『ファイアーボール(炎の玉)100連!!』


と言って、比較的弱い魔法を撃ちまくる。

何故弱い魔法ばかり打っているのかと言うと、魔力温存と、弱い魔法を数打ちして、こいつの弱点を探ろうとしているのだ。


まぁ今の所それっぽい所は無いのじゃが…。


私はそう思いながらも、魔法を打ち続ける。


『スラッシュミストラル(暴風の刃)』


私が魔法を唱えると、鋭い風の刃が、エスキャナティの体に突き当たり、そして消える。

「くっ…これではダメか…」

ざっと全身に魔法を打ってみたが、魔法がどこに当たっても、あいつが怯む様子はなかった。

「…でかいのを打つか……」

私はそう決心しながらも、少しでもやつの勢いを止める為、束縛系の魔法をかけた。


『リクィード(液状化)』


エスキャナティの足場が液体化して、ズボッとやつの左足が埋まる。

そして。

「ふぅー…これを使う気は無かったんじゃが…」

と言って、両手をズバッと前に出す。

そして私は、こう唱えた。


『破壊魔法ーーディスパリッションボール(破滅の玉)』


魔法を唱えると、エスキャナティが漆黒の玉に飲み込まれた。

そして……。


バァァァァァン!!


「なっ……」


ーディスパリッションボールは、その玉の中の物を文字通り消滅させる魔法だ。


まさかそれを破るとは……


私が驚いていると、エスキャナティがシッポを振り回し…!!

バーーーン!

「‎┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈っっっ!」

私を、ダンジョンの露骨な壁に叩きつけた。

「っ!うぅ…グハッ!」


ドチャ…ドチャ…


破裂した内蔵が、口から、よりグロテスクになって出てくる。


ボロボロボロ…


腰周りに浮かせていた記憶石が、意識の低下と共に落ちる。


「ぅぅ……くっ…」


まずい…ここまじゃ死んでしまう…。

重度の全身打撲と出血多量によって、意識が遠のく…。


あぁ…私…死んでしまうんじゃろか……。

尚もエスキャナティは、ぐったりとした私にゆっくりも近ずいてくる。


ーーふと、走馬灯が見えた。

…タクヤはネルと結婚し、子供もでき、幸せにフィスばぁの屋敷で暮らす…そんな夢の様な走馬灯で、私は……………………………。




『くっ…!!プレッシュナーヴ(神経圧迫)!!』


グァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!


「まだ…まだじゃ…まだ死ねない…」

そう言って私は、ゆっくりとその場に立ち上がる。

「のぅエスキャナティ…倒れろ………」


グォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!


「く………普通なら気絶するんじゃがな…」


プレッシュナーヴ(神経圧迫)は、生き物の全身に張り巡らされている神経網を圧迫する魔法で、とてつもない痛みを与えられる代わりに、物理的なダメージは与えられない。


普通の魔物なら既に痛みで気絶しているはずだが、こいつは今だ叫ぶばかりで、気絶する様な感じはしなかった。

おそらく知能が低い分、痛みによって脳に加わる負荷が小さいのであろう。

そう思うと私は、

「手強い……」

とつぶやく。


「じゃが…!」


負けない!ここでこいつを倒す!!

「‎﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏っっ!!」

私は全力で魔法をかける。


このまま気絶させる!


「ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」


…ふと、力が抜け、魔法が解けた。




…魔力が……………尽きた………………。






グォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!


意識が朦朧とし、その場にまたもや膝を着く私に、ものすごいスピードでエスキャナティが突っ込んでくる。



「タクヤ達と…一生…一緒に居たかったな…」



ポロポロポロ…


ひしひしと頬を流れる涙、またもや地面に膝を着き、抵抗もせずーーいや、諦め。全てを諦めて、瞳を閉じた。



………………すると……。



ガキィィィィィィィィィィィィッッン!!!!



瞳を閉じた目の前で、金属が交わるような鈍い音が響いた。

そしてその後、心地よい…私が今、1番聞きたかった音ーーいや、声が……………。


「諦めるのはまだ早いぞ…?」


その声は、私を心配しているような、優しい声だった。

「ミト!大丈夫?!」

ネルが心配したように、力尽きた様に倒れる私に駆け寄る。

そんなネルに、私は涙目で。

「ネル…タクヤ…ぅぅ…怖かったぞ……」

と、言った。

するとタクヤは、倒れている私には振り向かず、まっすぐエスキャナティだけを見て。


「よく頑張ったミト…バトンタッチだ」


と、いった。











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