第56話エスキャナティ

「スキルーー瞬足」

「スキルーー重力操作」

「スキルーー踊り舞踏」

シュン!

3人同時に、目の前に聳(そび)える怪物ーー

エスキャナティに向けて加速する。


「ネル、生駒!まずは俺がデカい一撃を食らわせてやつの意識をこっちに向ける!それまでは無茶するなよ!」


俺は腰に帯剣している愛刀ーーグランデュエルを抜きながら言った。


エスキャナティは、それぞれバラバラの方向に向かう俺達に混乱しているのか、その場でジタバタするだけで、まだ攻撃はしてこない。

俺はその隙を狙い、ダンジョンの壁に着いている、壊れかけの足場に向けて飛ぶ。

タンッ ズサーー!


「くっ…!」


壊れかけの足場に着地する。

そして、決して早くはないが、次の手が読めない俊敏な動きを見せるネルと生駒を追っているエスキャナティを一瞥して、位置を確認し、『縄を』と強く願った。

すると右手に、思いつく限り1番丈夫な縄ーー登山用のロープが現れる。


よし。


俺はロープを、エスキャナティの頭上の天井にある、工事用の柱に投げて、引っ掛ける。

フォルフォルフォルフォル!

思い切り投げつけた縄が、柱に巻き付く。



よし、ここまでは予定通りだ。

あとは俺が覚悟を決めるだけ…!



そう思うと俺は、ゆっくりと深呼吸をして…


エスキャナティの頭が、ちょうどロープの結び目あたりに来た瞬間、ロープを握ったまま、今いる足場から飛び降りた…!


ビュュュュュ!


振り子の様に逆放物線をかく俺。

風を切る音が振動となって耳を震わす。


今だ!


そして、振り子の先端ーー俺が、エスキャナティの頭上丁度に達した時、俺はこう願った。


『電柱を!』


すると右手の上に、図太いコンクリートの塊が出現する。

そして俺は、振り子の慣性に従って、右手の上にある電柱から手を引く。

すると電柱は、真下に居るエスキャナティの頭上に落ちて行き、突き当たった。


バーーーーン!!!!


最初に当たった部分のコンクリートが砕ける音が、ダンジョン内に反響し、砂埃が舞う。


「…これならちょっとは通じるか?」


俺は、ダンッ!と、反対側にある足場に着地しながら。

と、その時。


[スキル瞬足がスキル神速に進化しました]


「?!」

突然、頭の中から女の人の声が聞こえてきた。


えっ、なんだなんだ?!

つーか今忙しいんだけど!


俺はそんな事を、先程の女の人の声に返答を期待して思って見るが、返答は無かった。

そうこうしていると、目の前の砂埃が引いていく。


んーーーーーこれは多分あれだ。

俺の3つ目のスキルーー【スキル報告】だ。

そういえばスキルの報告っぽい事言ってた気がするし。


俺は取り敢えず、今の声については一区切りをつけて、エスキャナティとの戦いに集中する。


さて、ダメージはあるか…?



俺は期待を込めて、薄れていく砂埃の中を注視する。

すると…!


そこには、電柱に頭を押し付けられ、頭を地につけているエスキャナティが居た。


ふぅ〜ひとまず当たって良かった。


俺はそう、少し安心して胸を撫で下ろす。

すると。


「タクヤ!大丈夫?!」


どこからともなくネルが、俺のいる足場に飛んで来た。

タンっと、俺と違って静かに着地するネル。


優雅で可愛いですネルさん。


俺はそんな事を思いながら、ネルに

「あぁ、大丈夫」

と、答えた。


「どう?あいつ死んだかな?」


「うーんどうかな…」

さっきからずっと、何故か動かないエスキャナティに、ネルがそう言う。

そんなネルの言葉に、俺が曖昧に応えると。


ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!


「くっ…」

けたたましい地響きと咆哮に、俺とネルはたまらず手の平で耳を塞ぐ。


やっぱあれじゃ仕留めきれないか…!


俺がそんな事を思っていると、ふと。

グォォォォォォォ!!

またもや、エスキャナティが咆哮をあげる。


ん?でも今のは……


エスキャナティは尚も、電柱に頭を押さえつけられたまま、身動きを取れないでいた。

「…なんだ?」


「タクヤ!!」


ふと、反対側のーー俺が元々居た足場に居た生駒が、俺に向けて叫んだ。


「タクヤ!もう1匹だ!もう1匹奥に居る!」


「何?!」


くっ…そうか…あいつは仲間を呼んだのか!!

目の前のこいつの気配が強すぎて気づかなかった!

俺は改めて、索敵スキルの有用性を理解して。


生駒の言葉を聞いたネルは、俺に。


「!タクヤ!ミトが!!」


「分かってる!生駒!こいつは頼んだぞ!」


「え、あ、あぁ!」


「行くぞネル!」


「うん!」


『スキル…ーー神速!』


バン!


踏み込んだ地面が、ものすごいスピードとパワーによって砕ける。


「!すごいな、ネルと同じくらいに早い!」


俺は、あまりにも速く酔いそうだったので、神速と同時に、思考加速も並列して発動させる。

そしてネルと二人で、ミトの所まで全力で向かう。


「くっ…死ぬなよミト!俺が絶対に助けてやるからな!!」

俺はそう決心して、スピードをさらに早めた。

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