第48話どうやらこの子は、相当我慢をしてきたらしい

「ほぅ。それが4人目のプロフェッション

クリエイターの力ですか」


ザッ


俺達は最大限警戒するように、目の前の爺さんを凝視する。


「それほど構えなくとも、私達に反対しなければ安全ですよ」


そう言うと、ホッホッホッと笑い、口に手を軽く当てる爺さん。

ネルは、


「どうするタクヤ…?この間合いなら私が先に仕掛けられるけど…」


爺さんに気づかれないように、視線は前を向いたまま、小声で俺に聞いてくる。


「いや…」


俺は好戦的なネルを嗜(たしな)める。

そして、いきなり土の中から現れた、目の前の爺さんに質問した。


「あんた誰だ?」


当然の質問だ。

俺の質問を聞いた爺さんは、不敵な笑みを浮かべ、


「当然の質問ですな。申し遅れました。わたくしはライカルト王国の執事、バズと申します。」


と、俺の考えを見透かしたように言った。

ライカルト王国?

何処よそれ。

俺が思うとミトが。


「あの爺さんは恐らく土系魔法を使う。気を付けろ、地面に立っているだけでも、首にナイフを突きつけられている状況と同じじゃぞ」


そんな怖いことを、ネルと同じく、俺に小声で言ってくる。


「…」


まずいな。

もしこの爺さんと戦闘になったら、多分いまの俺達じゃ負ける。

まともに勝負になるのはネルくらいだろう。

それに俺の職業もネタが割れている。

それにさっき、「私達」とか言ってたから、もしかしたら伏兵も潜んでいるかもしれん。


さて、どうするか…。


俺は、この状況を打破するために、動く。


「なぁバズさん。「私達に反対」って言ってたけど、要件はなんだ?」


これが1番、今の状況を打破するための最善策だ。

無理に実力行使に出るより、話し合いでなるべく解決したい。

そう、俺はまだ死んではならない…!

なぜなら!!


俺とネルの子供を、まだ見てないからだ!!!

ザバーン!(←波の音)


俺はそう茶化したように心の中で思い、少し気を落ち着かせる。と、爺さんは。


「我が国ライカルト王国の、戦士になって頂きたいのです。」


そう、礼儀正しくいった。

「…は?」


「ご存知の通り、現在人類は絶滅の危機にあります。敵同士だった悪魔と天使が手を結び、我々人類に牙を向けてきたのです。そして今、我が国ライカルト王国も存続の危機に直面しております。ですのでどうか、我が国の戦力として、私達と一緒に戦ってはくれませぬか…?…報酬も出しますので」


そう言って執事見たいなお爺さんは、深々と頭を下げた。


…。


…これはあきらかに詐欺だな。

俺は以前、大まかなこの世界の出来事はネルから聞いていたが、そもそも天使と悪魔が手を取りあったのは、人間が悪いことをしたからだった気がする。

そしてこの世界の理おも変えてしまう力があるのは、国のお偉いさんぐらいだろう。

つまりこいつらは、運良く強い武器を手に入れた俺を同情させて、自国の兵力にしょうとしているのだ。


まさに詐欺だな。


そう思うと、俺は。


「すいませんね。俺はそのなんちゃら王国の力にはなれません。俺は仲間達と楽しく暮らせる今の生活が好きなんです。いくらお金を出すと言われても、俺は折れませんので」


俺はそう、目の前の爺さんにキッパリと告げた。

すると爺さんは目をひきつらせ


「本当に…助けにはなってくれないと…?」


と、声のトーンを落として言ってきた。

その言葉には少しの興奮と、殺意が含まれていた。

なんかまずい雰囲気だな。

だが…………ここで折れるわけにはいかない。

さっきも言ったが、俺はこの生活が大好きなのだ。

だから奪われたくない。


それにこの爺さん、目付き怖いし。


俺がそんな事を思っていると。


「そうですか…残念です。4人目の戦士が平和に得られると思ったのですが」


そう言って、この状況を待ち望んでいたとばかりに不敵な笑みを浮かべ、俺達を睨む爺さん。


チッ


俺は軽く舌打ちをして、武器を構える、そしてネルとミトも同じく戦闘態勢に入る。

そんな俺達の様子を見た爺さんは。


「ホッホッホッそんなに慌てなくとも大丈夫ですよ。残念ながらあなたを攫うのは、私の役目ではありません。ご安心を。まぁですが近々【その時】も来るでしょう。あなた方もせいぜい【その時】まで、その男性を守れる様に頑張ってください。それでは…ご武運を」


ゴゴゴゴ


そう言ってネルとミトに視線を送ったあと、またもや不敵な笑みを浮かべながら、地面に埋もれて行った。


『…』


「…なんだったんじゃ一体」

ミトが疑問を口にする。


「タクヤ…どうするの…?」


「んんー」


どうすると言われても………な。

俺が顎に手を当てて悩んでいると。


「タクヤ大丈夫だよ。何があっても私が守る」


そう、強い意志を持った口調で言った。


「っ…ふ、そうだな」


「私もな」


「あぁありがとう」


ネルの言葉に同調するミトの言葉にも、返事をする。

はぁ〜。


宣戦布告とか怖すぎるだろ……ッ!!

(心の声↑)


厄介な事になった。

でもまぁネルやミトもこう言ってくれてるし、大丈夫かな。

そう思うと俺は、


「はぁ〜あ!また強くなる理由が増えちまったぜ!」


そう大きい声で言ってから、3人で気を取り直して、目的地に歩き出した。



だがこの時、俺は理解していなかった。

ライカルト王国の戦士達の強さを、そして今までネルやミトに頼りきりで錯覚していた、自分の無力さを。




「なぁタクヤ、もしやあの建物が依頼者の家か?」


「うん、多分な」


ミトが目の前の、ボロい平屋建ての家を見て言う。

俺がそう答えると、


「ボロボロだね」


言いながら、ネルは後方から、ミトと同じ様に俺のすぐ横に立つ。


「…行くか」


「うん」


俺達はそう言って、ボロい家に向かって歩き出す。

すると。


「あ!冒険しーーキャ!!」

ズサーーーーーーーーーーーーーーーーーー



目の前に突然、ボロボロの服を着たミト位の身長の女の子が、転がってきた。


「お、おい!大丈夫か?!」


俺達が心配したように、その少女に近寄ろうとすると。


「はい!大丈夫です!!」


と、心配する俺達を安心させるように大きい声で言ってくる。


「…」


この子……。


「本当に大丈夫?」


ネルが心配したように少女に駆け寄り、しゃがんで少女の頭を撫でる。

すると少女はまたもや、「うん!」と元気に答え、「えへへ…」と力の抜けた笑顔を見せた。


「…」


「ならいいけど…」


「いや、良くない」


俺の言葉に、「え?」と疑問を浮かべるネル。

俺は。


「我慢するな。子供なら甘えとけ」


そう言って、ネルと同じく少女の目権の高さに合わせるようにしゃがみこみ、服で隠れている肘を出した。

するとそこには、先程転んだ時に付いたと思われる切り傷があった。

それを確認した俺は、


「ミト」


と言ってミトを呼ぶ。


「うむ」


ミトはそう答えると、俺やネルと同じくかがみこみ、宝玉を使って傷を治そうとする。

すると。


「止めて!!」

バシッ!


そう言って少女は、ミトの手を弾いた。


「な、痛いではないか!」


ミトが弾かれた方の手を庇いながら言うと。


「あっ、ごめんなさい…!」


そう言って、少女は子供が下げるには低すぎる位に頭を下げて、ミトに精一杯謝罪する。

その様子を見たミトは、「あ、いや、その…そこまで謝らなくても…」と、うろたえている。


「…なんで治療するのが嫌なんだ?」


俺が聞くと。


「…ぁぅ……」


と言いながら、もじもじするばかりであった。

んー困った。

そう思いながら、ポリポリと頭をかいているとネルが。


「私はネル!よろしくね♪」

そう言って、少女の手を取りながら。


「君はこの家の子かな?」


「うん…」


「そっか!私達はね、君のお母さんに取りついてる悪い魔獣を倒しに来たんだ!だからなにも怖がらなくて良いんだよ?」


そう言ってネルは、少女に向けて、いつものように優しい笑顔で微笑んだ。


やはりネルは女神だ。


すると少女は。


「違うの……私…お金が無いから…治療費が払えないの…………」


と言った。

なるほど。そういう事か。

それでそんなに治療するのを拒んだ訳だ。

にしてもよく分からん奴だな、子供のくせに痛みより金を気にするなんて。

お金なんて取らないのに。

そんな事を思い、俺は呆れたように腕を組んでいると。

ピッ


「痛てて…」


「!何してんだよネル!」


ネルはそこら辺の石で、自分の指の腹を切り、痛てて…と言いながら、切れた指を見ていた。


「おい、大丈夫か?」


「うん。大丈夫」

そう言ってネルは、傷付いた少女の腕を優しくつかみ、自分の切れた指と少女の怪我を近ずけて。


「ミト…お願い」


ミトを見ながらそう言った。


「!分かった」


ミトは一瞬でネルの意図を察したらしく、無言で治療に取り掛かる。

ホヮン

淡い光と共に、ネルと少女の傷口が、驚くほど綺麗に塞がった。

なるほど。

治療を【する】のでは無くて、たまたま近くにあった傷まで【してしまった】にするという訳か。

ネルは俺の事を優しいとか言うが、ネルの方がよほど優しいじゃないか。


惚れ直したぜ!


俺がそんな事を思いながら、笑顔で少女とネルを見ていると。


「はい。これで治療費無しね。ね?タクヤ」


そう言ってネルは、笑顔で少女の手を取りながら、俺に顔だけこちらに向け、ウインクしてから聞いてくる。

そして俺が、「もちろんだ」と答えようとした時、少女が。


「えっ、ちょ、ちょっと待って下さい!前もそうやって騙されて…!それでーー」


「俺は!」


今度は俺が、やり返すように少女の言葉を遮り、こう言ってやった。


「金なんかよりネルの笑顔の方が欲しいんだ。だから今君がそれ以上子供らしくない事言ってネルの笑顔を消したら、それこそ許さないからな?」


そう言って俺は、笑顔で俺を見つめてくるネルに、ウインクで答えた。

俺の言葉を聞いた少女は。


「うぅ…うぇぇぇぇえぇぇぇぇん!」


「えっ、ちょ…!」


泣くな!

おい泣くな!

分かった!わかった!カッコつけて回りくどく言った俺が悪かったから泣き止んで!

そんな事を思いながら、オロオロとしていると。


「おりゃー!」


と言いながら、頭上に剣を振りかぶった男が、突然俺に襲いかかってきた。




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