第35話言葉は時に、武器となる。

コツ コツ コツ

俺は今、フィスばぁを探す為に屋敷の中を歩いていた。

中はあらかた回ったが、やはりこの屋敷はとても広い。

外から見た感じは普通のマンション位の大きさだったが、中の部屋一つ一つがファーストクラス並だ。

俺は屋敷の玄関を出て、敷地の中にある庭に来ていた。

庭と言ってもただの草むらのようなもので、花や池などのものは無かった。

俺はそんな質素な庭を歩いていく。

別に何処かに向かっている訳では無い。

さっきも言ったが、フィスばぁを探しているのだ。

というのも、自分があまりにも無力だと感じた俺は、フィスばぁに修行をつけてもらおうとしているのだ。

ついでに中々出来なかったスキルのコピーも試してみたい。

が、

なかなかフィスばぁが見つからない。

「…何処にいるんだよ…せっかく出たやる気が失せそうだぜ………………」

いつもは直ぐに見つかるのに、いざ見つけ様とすると、中々見つからない物だ。

俺はそんな感じでブツブツ言いながら、とりあえず屋敷の周りを一周してみる。

すると、屋敷の裏で木刀を振っているフィスばぁが居た。

俺はそんなフィスばぁの様子を、面白そうなので屋敷の影からこっそりと伺う。

するとフィスばぁは何回か木刀を素振りしたあと、目の前にあった竹みたいなものを睨みつける。

そして、(ふぅ〜)と深く息を吐くと…。

スパンッ!

木刀で竹を真っ二つにした。

切られた竹の断面は、それはそれは綺麗なものだった。

やばっ!

フィスばぁが木刀で竹を切ったぞ!!

刃が無いのにどうやってんだよ!

本当に人間か?!

そんな感じで俺がおろおろとしていると、ふとフィスばぁが視界から消える。

そして…。

「来ると思ったよ!ワハハハ!!」

と、背後から声が聞こえた。

「なっ?!」

俺は突然背後から聞こえたフィスばぁの声に驚きながら、バッと後ろに振り向く。

するとそこには、腕を前に組んだフィスばぁが居た。


ーー「ハァハァハァハァハァハァ…無理…死ぬ…このままだと俺、マジで死ぬ…………」

「走っただけで死ぬ訳無いだろ!さぁ走った走った!!」

「へぇ……ハァハァ……」

俺は今、屋敷の周りを全力疾走で走っていた。

その理由は、30分前に遡る。




「来ると思ったよ!ワハハハ!!」

「えっ」

振り向くとそこには、腕を組んだフィスばぁが居た。

「私に会いに来たって事は、強くなりたいんだろ?」

「え、まぁ…」

やけに機嫌のいいフィスばぁに俺が曖昧に応えると、「そうか!!ではこのフィス師匠が徹底的にしごいてやろう!!ワハハハ!!」と、そんな怖い答えが帰ってきた。

まぁでも、修行が辛いのは当たり前の事だ。

今出来ない事をする為にやるのだから、辛くない訳が無い。

そこは俺も覚悟していたので、黙って頷き、了承する。

俺の答えを聞いたフィス師匠は、うんうんと頷いてから、「付いてきな!」と言って俺を、先程真っ二つにされていた竹の所まで連れていく。

そしてある程度の位置まで歩くと、フィスばぁはバッと振り返り、後を追っていた俺に向き直る。

そしてフィスばぁは「走れ!!!!」と、唐突に言ってきた。



という事で今俺は、屋敷の周りを走っているのである。

辛い…。

いや辛くない!

辛い…。

いや辛くない!!

俺は何度も折れそうになる心を騙し騙ししなながら、走り続ける。

が、それが効果を発したのは走り始めてわずか10分程度。

それから20分が経過した今は、もう死にそうだった。

「死ぬ…死ぬ…死ぬ…死ぬ…死ぬ…………」

俺が部活の掛け声の様に死ぬ死ぬ言っていると、「ストーップ!!」と言う声が掛かった。

「え…………………?」

終わりかな………………………?

ハァハァやっと……っ!

バタッ

俺は地面に倒れるように寝転んだ。

そして「ハァハァハァハァ」と、荒く息をする。

さっきからずっと荒い呼吸をしているので、喉と肺が痛い。

内蔵が乾燥しているのが自分でも分かるくらいだ。

そして倒れている俺に、フィスばぁが近ずいてくる。

そして、こう言った。

「次はスクワット500回な!」

その時俺は初めて、言葉で物理的ダメージを受けた。




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