第16話日本人ならやっぱこれでしょ!
「それで、どんな武器が欲しいんだい?」
ジンが、爺さん口調で言ってくる。
「この少年には剣を、この猫族の少女にはアーム系の武器を作ってやってくれ!」
えっ?
俺はおばさんのその言葉を理解した瞬間、ネルを庇う様にして後ろに下がる。
それを見たおばさんは、ワハハハハ!と、笑いながら、こう言う。
「そんなに警戒しなくても別にとって食やしないよ!ワハハハ!」
そう言ってもう一度笑った。
ジンさんは、そんなおばさんの応えに、うんうんと頷いている。
「何で、ネルが猫族だって分かったんですか」
俺は真剣な顔で聞く。
「だからオーラが違うんだよ!人間と獣人じゃまるで違うんだ!ワハハハ!」
そんなことまで分かるのか。
このおばさんは侮れないな…。
俺はそう思いながら、怯えているネルに、「大丈夫。この人達は安全そうだ」といった。
ーー「これがロングソードじゃ。ちょっと持ってみな」
そう言って、シンプルな剣を渡される。
その後俺はジンさんの工房で、剣を選んでいた。
ネルはおばさんと一緒にアームを見ている。
ズシッ
渡されたロングソードを持ってみると、やはり結構重い。
「握り心地はどうだい?」
握り心地か…別に良くも悪く持って感じだが…。
「握り心地は多分いいと思います。でも俺にはちょっと重いかな」
俺はそう素直に言った。
するとジンさんは、「あーそれなら安心せぇ。スキル(重力操作)で何とかなる。ここにある武器には全て重力操作の魔術が掛けられているから、持ち主が持てば(魔素流し込めば)使えるよ」
なるほど。
スキルを使って武器を軽く出来るのか。
そんな使い方ができるなんて、重力操作って結構便利なスキルなんじゃないか?
俺はそう思いながら、「他に要望はあるかい?」というジンさんの問いに答える。
「細身で、片面にだけ刃が着いている剣がいいです」
そう日本刀だ。
やはり日本人ならば、日本刀を使ってみたくなるものだ。
前の世界では銃刀法違反だが、この世界ではOkだ。
そこは楽しませて貰おう。
俺の要望を聞いたジンさんは、「なんじゃそれは?」と言って悩んでいる。
やはり片方にだけ刃がある剣は珍しいのだろうか。
「んーその剣はよく分からんがのぉ。魔剣なら作れるかもしれんな」
「魔剣?」
なんだそれ。
俺はゲームなどでしか聞いた事がない単語を聞き返す。
「魔剣というのは持ち主の意思によって形が変わるんじゃ」
何それ欲しい!!
チョーかっけーじゃん!!
俺は目を輝かす。
「それがいいです!」
「ホッホッホ男ならそう言うと思うとったわい」
ジンさんは相変わらずの爺さん口調で言った。
そして俺についてこいと言って、工房の奥に案内される。
俺は一瞬、ネルの方の様子を伺ったが、おばさんと笑顔で話していた。
良かった。
ネルはどうやら人間不信では無いらしい。
商品の身分にされ、人間に酷いことをされてきたにも関わらず、ネルには悪い人と良い人の区別が着くようだ。
それはこの先 生きていくに当たって、凄く必要な事だ。
誰にも頼らずに生きていくなんて、そんなのは絶対に無理なんだから。
俺はそう思いながら、工房の奥へと歩いて行く。
「これが魔剣じゃ」
ジンさんが、棚に立てかけられている1本の剣を指さして言った。
俺はジンさんが指さしている物に視線を送ると、形はさっきの剣とさして変わらないが、淡い光を放っているとても美しい剣が目に入った。
「おぉーー!」
俺はその剣のあまりの美しさに、つい声をだす。
「魔剣は名前を付けると、落ち主にしか使えなくなる剣じゃ。どう変わるかはやってみないとわからん。だが1回変わったらもう二度と元の姿には戻らない。だから買取になる。そこは気おつけーよ」
そう言ってジンさんは、魔剣の注意点を教えてくれた。
なるほど。
どう変わるかは使ってみてのお楽しみって事か。
俺は、もし日本刀のようにならなかったら嫌だが、意思があればその形になると言っていたので、この魔剣を貰う事にした。
「この魔剣を下さい」
「本当にいいんじゃな?」
「はい」
「分かった」
そう言ってジンさんは、テーブルの上にあった1枚の紙を取りだした。
「この紙に希望の名前を書いて、魔剣の持ち手に貼るんじゃ。そうすればこの魔剣はお前さんの物になる」
そう言って俺に、紙とボロボロの鉛筆を渡す。
なんか緊張してきたな…。
さて、どんな名前にしようか。
俺は日本で聞いた剣のカッコイイ名前を思い出す。
が、どれもあまり良くない。
んー…よし!これにしよう。
「魔剣…ーーーーー」
俺は決意を込めて、これまで書いてきた字の中で、1番キレイな字でかいた。
まぁちょっとしかこっちの世界の文字は書いてないのだが。
後はこの紙を剣の持ち手に貼るだけだ。
ふー。
なんか緊張してきたな。
俺はなるべく真っ直ぐ貼れる様に、何度も剣の持ち手と紙の位置を確認しながら貼っていく。
「よし。貼れた…!」
俺は一つの大仕事を終えたように言う。
そして剣が目映い光に包まれる。
「な?!」
光に包まれる俺を見たネルが、「タクヤ!」と俺を心配したように駆け寄ってくる。
「大丈夫じゃ。魔剣が変形している光じゃ」
ジンさんはそう言ってネルを落ち着かせる。
その言葉を聞いて、実は結構焦っていた俺も安心する。
そして数秒後、光が収まる。
そして周りに居たネルや、俺を心配して走り出したネルを追いかけてきたフィスばぁが、『おー!!』
という声を上げる。
俺も、眩しすぎる光で閉じていた目をゆっくりと開ける。
すると俺の手に、持ち手が黒く、俺の髪の色と同じ色の、茶色い鍔(つば)が付いた、美しい剣が握られていた。
その剣の刀身は凄い光沢に包まれており、光がまだ出ているのではないかと勘違いしてしまうほどの物だった。
そしてそれは正しく、日本刀その物だった。
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