第15話人間の20歳にも色々ある。

ワハハハハ!

このおばさん、さっきからずっと笑っている。

俺はネルにヒソヒソ声で、「あの人は危ない早く逃げよう」と言いながら、その場を去ろうとする。

が、


「お待ち!ここで会ったのも何かの縁だ。ちょっと付いてきな!」


グイッと後ろから服を引っ張られ、首が閉まる。

グヘッ

俺は転びそうになりながら、首をゆるめる為に、おばさんより早く歩こうとする。

が、中々追いつけない。


くっ、このおばさん、速い…っ!


人間とは思えないほどの速さだった。


「わーわー首が痛い!」


ワハハハハ!

このババアはずっと笑っている。

俺は、首がもう限界だったので、ネルにジェスチャーで助けを求める。

ネルはそんな俺の静かなSOSを、プイッとそっぽを向き、無視をした。


何で?!

俺なんか悪い事した?!


俺はそう思いながら、足をジタバタさせていると、おばさんが急停止した。

何処だここ?

気づくとそこは、ボロい小さな小屋の前だった。


なんだ?リンチか?


俺はそんな心配をしながら辺りを見回す。

するとネルが、「…大丈夫?」と言いながら近づいて来る。


「ネル…もっと前に助けてくれよ…」


俺は心の悲痛な叫びを言う。


「もう!またそんな事言って、あんな簡単な束縛解こうと思えば解けたでしょ。やぱっり年上が趣味なんだね!」


ネルが語尾を強めて言ってくる。


「え、いやいや本気で抵抗したぞ?」


「え、ほんとに?」


「うん」


そんなに軽く引っ張られた様に見えたのか?

それであんな力が出せるとでも?!

あのおばさん、どんな怪物だよ!

俺はこの怪物にどんな事をされるのかと、恐る恐るおばさんの方に、目線を移す。

するとおばさんは真顔で。


「お前達武器を持って無いだろ」


「は、はい」


俺は怖気付いた様に言う。

武器?なんのつもりだ?

決闘でもさせられるのか?!

俺とネルが抱き合いながらブルブル震えていると、おばさんが、ボロボロの建物の中に向かって、バカデカい声で叫び出した。


「おい!!!!ジン!!」


うるさ!!

つーかジンって誰だよ。

俺はそう思いながら、おばさんと同じ、ボロい建物の中に視線を移す。

すると暗闇から、カンッカンッカンッと、金属が打つ音が聞こえてきた。

ネルがサッと俺の後ろに隠れる。

ふと、金属を打つ音が止まる。

すると、音がした方から、髭を生やし、片目を眼帯で覆った爺さんが現れた。


怖っ!

なんだアレ怖っ!


俺は一瞬幽霊と会ったかと思ったが、どうやら生きているらしい。

トボトボとした足運びで、俺達に向かって来る。

そして俺やネルをまじまじと見る。

気持ち悪い位に。

俺はネルを庇うと同時に、爺さんと目が合う。


この人の瞳は、輝いていた。


年老いているのに、まだやりたい事が沢山ある、若者冒険者の様な目だった。

そして爺さんはおばさんに向き直りこう言う。


「誰じゃ?」


なんだよ、俺達の事知ってて見てたんじゃねーのかよ。

俺は内心、そうツッコミながら、爺さんに話を振られたおばさんに向き直る。


「こいつらに武器を作って欲しい」


「えっ」


俺はマヌケな声をだす。

ネルは「良かったね!」と言って喜んでいるが。


いやいやネル、ここは喜ぶところじゃないぞ。


俺はそう言いながらおばさんに説明を求める様に、視線を送る。


「ん?…ワハハハハ!そんなに感謝の目で見なくても良いわよー ワハハハハ!」


そんな目で見てねーし!!


俺は直接言葉でおばさんに聞いてみる。


「何で俺達に武器を?」


俺達が冒険者だって知ってるのか?

俺は言ってないぞ?


「そんなの決まってるじゃないか。冒険者たる者、武器を持ってないとかっこ悪いじゃないか!ワハハハハ!」


そんな笑い方をして喉が乾かないのだろうか。

つーかそんな事より!

何でこのおばさん、俺達が冒険者だって知ってんだよ?!

ホテルでの会話を盗み聞きしたのか?!

それとも相手のステータスが分かるスキルでも持ってるのか?!

俺は思考をグルグルと回転させながら考える。

だが分からない。

本人に聞くしかないか…。

もし相手のステータスが分かる様な凄いスキルを持ってるなら、是非コピーさせて欲しい。

そう言えばネルにも触れてないな…。

俺は考え過ぎて目的を見失う。

そう色んな事を考えながら聞いてみる。


「何で俺達が冒険者だと?」


俺はおばさんに聞いた。

するとおばさんは、ポカンとした様な顔をしたあと、ワハハハ!と笑って言った。


「そんなのオーラを見れば分かるに決まってんじゃないか!ワハハハハ!」


何度も思うが、その笑い方は喉が乾かないのだろうか。

というかオーラ?

オーラってなんだ?

この世界にはそういうのがあるのか?

俺は不思議に思い、聞いてみる。


「オーラって何ですか?」

その言葉を聞いたおばさんは、またもやポカンとした顔をした後、ワハハハハ!と大声で笑った。

くどいようだが、乾かないのだろうか。


「オーラってのはね、そのものが表すものだよ」


「ちょっと何言ってるか分かんないですね、

ハイ。」


おばさんの答えに俺がそう言っていると、ジンと呼ばれていた爺さんが、俺達に説明してきた。


「このフィスばぁは元A級冒険者でね、生き物の周りにある特殊なオーラ的なものが見えるんだよ。」


そう言って、割とキレイな声で説明してくれた。

つーかあのおばさんフィスって言う名前なんだ。

なるほど、それであんなに力が強かったのか。

と、爺さんの補足を聞いていたのか、ばあさんが口を挟む。


「あんたもまだ20歳なんだから武器ばっかり作ってないで冒険しなさいよ!ワハハハ!」


……………………………………………は?


20歳?!こんな爺さん口調で?!

何を言っているのだろうかこのおばさんは。

おばさんのその言葉を聞いたネルは、「人間の20歳にも色々あるんだね」

と言ってくる。


そんな訳あるかい!


俺はネルの言葉に大声でツッコミたいが、ここは心で収めておく。

そんな事よりあの爺さんだ。

本当に20歳なのか?

俺は失礼を承知で聞いてみる。


「あの…本当に20歳何ですか?」


「そうだよ」


爺さ…ーーではなく、ジンさんが俺の質問を肯定する。(↑ 爺もジンもあんまり変わんないけどね)

まじか…「人間の20歳にも色々あるんだな」

俺はその言葉を、心でも思ったし、声にも出した。

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