第14話あぁ、本当にネルが良かった

冒険者登録を済ませた俺達は、依頼掲示板の前まで来ていた。

木でできた掲示板に、あちこちボロボロの依頼紙が貼り付けられている。


「合成生物(キメラ)の討伐B」


「ゴブリン10匹の討伐D」


などなど、色々なクエストの依頼が張り出されていた。

キメラがBでゴブリンがD、これがランクというやつだろうか。

さっきの受付の女の人は俺達に、ランクC以下じゃないと受けられないとか言ってたから、今の俺達にはキメラは無理ってことか。

つーかキメラってどんなのだ?

今、キメラの依頼は受けられないが、俺達の力なら、受けられる様になるのもその内だろう。

その時の為に、この世界の色んな知識を習得したいものだ。


「なぁネル、キメラってどんなのだ?」


俺は唐突に生まれた疑問をネルに聞いてみた。


「キメラって何?」


ネルに聞いた俺がバカだった。

ーーギルドから出た俺達は、大通りから少し外れた小道で、今後の相談をしていた。

あの後俺達は、ランクDのゴブリン10匹の討伐を受ける事にした。

ゴブリンなら、この前ネルが頭吹き飛ばしてたから大丈夫だろう。


「よしネルちょっとお前のスキルを見せてくれないか?」


「スキル?」


「そっ」


「何で?」


ギルドの受付の人が言っていた、この職業(指輪)の能力、スキルのコピー。

これを試してみたいからだ。


「スキルをコピーしてみたいんだ」


「あー指輪の能力だね。分かった」


そう言ってネルは、深く息を吸う。


「私もスキル重力操作を使うのは久しぶりだから、上手く出来ないかもしれないけど」


深呼吸をして、腕をゆっくりと広げるネル。

そして…。

フワッ

ネルが、飛んだ。

おぉ!すげー 重力操作ってこういう事かよ。

俺が興奮していると、ネルがクスクスと笑いながらこう言う。


「もっと上手くスキルを使える様になれば、ドラゴンくらい早く飛べるようになるよ」


そう言ってニッコリ笑った。

ドラゴン…だと?!

ドラゴンって、あのでっかい牙と羽持ってる奴か?

やっぱ居るのか。

まぁキメラが居るならドラゴンも居るか。

俺はネルの言葉にますます興奮しながら、スキルを覚えようとする。

とその時、ふと疑問が浮かぶ。


「スキルってどうやって触るんだろう?」


俺はネルに向けてと、独り言を合わせた様な口調で言う。


「私を触ればいいんじゃない?」


「んーやってみるか」


俺は、「スキル重力操作を!」と強く願ってみる。

ネルには過去に、あんなことやこんなことをして触れた事は沢山ある。

だからコピー出来るはず!

そう思っていたのだが、指輪は全然反応しなかった。


「何でだ?ネルには触ったことがあるのに」


俺は落ち着いた口調で言う。

指輪の制限にはもう慣れっこだ。

いちいち驚いてはいられない。


「なんでだろ?」


んー何故だろう。


「今私に触れないとダメなんじゃない?」


「というと?」


「そのスキルを使ってる時に触らないとコピー出来ないとか?」


なるほど。


「やってみるか」


そう言って俺はネルに手を伸ばす。

ピクっ

俺の手が止まる。

待て…何処に触れればいい?

くだらない所で悩む。


待て!本能に従うんだ。


タクヤ悪魔:おっぱい一択だろ。さりげなく揉んじまえ。


タクヤ天使:ダメだよ!手に!手にしときなよ!それでさり気なく恋人繋ぎとかしちゃえ!


ダメだ!役に立たねー!!

どうするどうする?!

えぇい!もういい!!

俺は運任せに、目をつぶって手を伸ばす。

ぷにっ

ふと、何か柔らかい物が触れる。

もしかして…っっ!!

俺は期待を胸に目を開ける。

するとそこには、顔を赤くしたネルが居た。

そして俺の手は、ネルの…ではなく、知らないおばさんの胸を握っていた。

俺はバッと手を離す。


「…タクヤ、意外と年上がタイプなんだ……」


ネルが顔を真っ赤にしながら言う。


んな訳あるかい!


俺はネルの誤解にツッコミながら、目の前のおばさんに聞く。


「えぇっと誰…ですか?」


「いきなり人の胸触ってきて誰とは失礼な」


そのおばあさんはよく見ると、いつかの迷惑客を吹き飛ばしていた、宿屋のおばさんだった。

手には、買い物袋と思しき物を持っている。


「あ!あの時の!」


「なんだい前に会ったことがあったかい?」


「いや、別にそういう訳じゃ…」


「…ん?あんた…」


そう言って俺をまじまじとのぞきこんでくる。

ネルなら嬉しいんだけどなー。

俺はそんなとてつもなく失礼な事を思いながら言う。


「な、なんですか?」


「あんた、うちの宿に泊まってた人やろ!」


「えっ、あぁはい。そうですけど…」


そう言うと、宿屋のおばさんは一時の間を置いて、ワハハハ!!

と、高々に笑い、こう言った。


「それなら早く言ってくんなよ!熟女好きの変態かと思ったじゃないか!ワハハハ!!」


宿に泊まってる人でもそうだと思うが…

俺はそんな事を思う。

ワハハハハ!

このおばさんはずっと笑っている。

あぁ、本当にネルが良かった。

この日俺は、人生で1番そう思った。

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