第11話宿
やはり面倒な事になった。
「なぁなぁそこのお兄さ〜ん!オイラ病気の
母親を看病しているからお金がねぇんだよ〜恵んでくれよ〜」
男が俺達に向かって堂々と嘘をつく。
俺達がさっきの会話を聞いていたとも知らないで。
ネルはカップルと言う言葉を聞いてもじもじとしている。
か〜わ〜い〜い〜。
「じゃあキャバクラに行かなきゃ良かったんじゃないですか?」
俺は正論を告げる。
俺の言葉を聞いた男は、チッと舌打ちをして「どいつもこいつも…」とぶつぶつ言いながら、去っていった。
何だったんだいったい。
異世界にもあんな奴が居るんだな。
「タクヤタクヤ早く宿行こ?」
「あぁそうだな」
色々あって目的を見失っていた俺は、ネルに急かされ宿の中に入っていく。
俺達は受付に行き、呼び出し用のベルを鳴らす。
するとドタドタと騒がしく足音が聞こえ、奥の方から一人の女性が現れた。
さっきの男に絡まれてた女の人だ。
ミセス鈍感。
「すみません泊まりたいのですが」
「あっはい、何泊がご要望ですか?」
以外と可愛い声だったのでびっくりした。
俺が彼女の声にうっとりしていると、ネルに脇腹をつつかれた。
ムッとした顔をするネル。
俺はごめんごめんと謝りながら、受付の女の人へと視線を戻す。
「1泊いくらですか?」
「500ガリスです」
500ガリス。さっき男に言っていた値段と同じだ。
どうやらお金で人を選んでいる訳では無いらしい。
俺は馬車のおっちゃんに貰ったお金をカウンターの上に出す。
「これで何泊出来ますか?」
「これだと…ちょうど500ガリスなので1泊ですね」
つー事はこの宿に泊まるだけで全財産を失う訳か…まぁでも、魔物に脅えながら寝るよりはマシか。
そう思い、1泊泊まる事にした。
「全財産使っちゃって良いの?」
ネルが心配そうに聞いてくる。
「大丈夫だ。俺に考えがある」
別に俺も馬鹿じゃない。ちゃんと金の入手方法は考えてある。
「それでは45号室ですね。ごゆっくり」
そう言われて部屋の鍵を渡される。
「ありがとうございます」
俺はそう言って受付の横にある階段をあがり、45号室に向かって行く。
はっ!
なにかに気づく。
そう言えばコレって2人で一緒に寝るって事だよな。ネル嫌がらないかな。
俺はそう思い、俺の横を歩くネルに聞いてみる。
「なぁネル。俺と一緒の部屋だけど良いか?」
ネルは一瞬キョトンとした顔をしてから、何で?と聞いてきた。
「うっ?!」
動揺が声に出てしまう。
「大丈夫?!」
「だっ、大丈夫だ」
俺はその答えが来るのが薄々分かっていたが、やはりネル本人の声を聞くとうろたえてしまう様だ。
ーー眠い。早く寝よう。
俺達は自分達の部屋に着き、それぞれくつろいでいた。
俺は疲れて眠かったので、素早くベットに寝転んでいた。
ベットに顔を埋める。
疲れている筈なのに、中々眠れない。
そう言えばこの世界に来たのも、こんな様な状況だった。
地球での友達ーー佐々木や、親の顔が浮かぶ。
元気にしてるかな…。
寂しさに呑まれそうになる自分を振り払う様に、横をむく。
横を向くと、俺のベットの横にあるもう1つベットに座っている、ネルが目に入った。
そうだ。俺は一人じゃない。
俺にはネルが居るじゃないか。寂しくなる必要なんて無い。
それにネルの本当の名前を見つけてあげないといけないしな。
俺はこの旅の目標を再確認して目を瞑る。
もう寝よう。ちょっと疲れすぎた。
俺はそう思い、眠りに着こうとする。
とその時、頭が持ち上げられる気がした。
そして頭の下に柔らかく、暖かい物が触れる。
ん、なんだ?
俺はそう思い、ゆっくりと目を開ける。
するとそこには、重力によって垂れ下がる、美しいライトオレンジの短髪の中にある、麗しい赤い瞳が目に入った。
「?ネル?!」
一瞬思考が停止する。
俺は少し落ち着いて状況を把握する。
どうやら俺は、ネルに膝枕をされている様だ。
「ど、どうしたネル」
俺は動揺しながら言う。
「…タクヤ寂しそうな目をしてた」
「えっ?」
俺はその言葉を聞いて、きょうたんした。
俺が、寂しそう?
そうなのか?
俺って寂しそうなのか?
「…タクヤ…私が居るから。」
ネルは優しい笑顔で言う。
そうか…俺さっき、寂しそうな顔してたのか。
「ありがとな、ネル。お前の言う通りだよ。俺にはネルが居る」
そうだ。
俺には可愛いネルが居る。
こうして励ましてくれているじゃないか。
そう考えれば何も悲しくなんかない。
そう思うと俺は、安心した様に眠りに着いた。
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