第9話いい事をすればいい事が帰ってくる

「タクヤ、アレ…」


ネルが襲われている馬車の方を見て言う。


「あぁ、助けるか」


「えっ」


「ん?」

なんだ?


「いや、何でもない」


「…?ネルあの馬車にまとわりついてるやつに勝てるか?」


「余裕だね」

おぉ!凄い自信。


「無理はするなよ」


「うん。…………タクヤは」


「ん?」


「…何でもない」

「?」


今小さい声でなんか言った気がしたが気のせいかな?


「じゃあ行くか!」


「うん!」


そう言って2人で駆け出す。

馬車に近ずいて分かったが、馬車にまとわりついているゴブリンは5匹だ。


「ネル!お前はあのゴブリン達を殺ってくれ!俺はあの馬車のおっちゃんを助ける」


「分かった!気をつけてね!」


「あぁ!」


俺はそこでネルから数メートル離れ、並行して襲われている馬車に向かって走る。

そして馬車にまとわりついているゴブリンの1匹がネルに気づいた時、そいつの首が飛んだ。

スゲーなあいつ。

素手で殴っただけでゴブリンの首を飛ばしやがった。

そして、仲間が殺られたことに気がついた他のゴブリンが、一斉にネルに向かっていく。

俺は、その場の空気になりきって、馬車のおっちゃんに近ずく。


「おい!大丈夫かおっちゃん!」


「あ、あぁ。あんたらは?」


「名乗る程の者じゃないぜ☆」


特になんにもしてない俺があからさまにカッコつけているとすぐ横に、子供に見せたらトラウマ急のゴブリンの死体が転がってきた。

死体が転がってきた方を見ると、ネルがゴブリン達を圧倒していた。

もうゴブリンは既に、残り2匹となっており、その2匹も片方は腕がなく、もう片方は両足が無い絶望的な状況である。

と、そこにネルがトドメを刺す。

あのまま放っておいても死んでしまうだろうし、今トドメを刺しておいた方がいいだろう。

グチャ

ーー「本当にありがとうございました。これ、お礼です。僅かですが。」

「すみませんありがとうございます。でもお礼ならネルに言ってあげて下さい」

俺も今後の事を考えて、お金は貰っておく。いい事をすれば、いい事が返ってくる物である。


「ネルさんも、ありがとうございました」


「えっ、あ、うん…」


と、俺の後ろに隠れながら言った。

フードで耳を隠していても、これまで酷いことをされた人間への不信感は、そう簡単には消えないだろう。

俺達は馬車のおっちゃんと別れ、町の門の前まで来ていた。

ネルはかなり緊張している様だ。

そりゃ人間がうじょうじょ居るのだ、ビビるのも仕方がない。


「ネル大丈夫か?」


「…うん」


ゴクリと、覚悟を決めたように唾を飲むネル。

俺もこっちの世界に来て初めての町だから、それなりに緊張して居るのだが、俺まで緊張してしまってはネルが余計不安になると思い、しっかりする。


「大丈夫だ。俺が付いてる」


ネルを励ますように言う。

いつかは渡らなければ行けない橋だ。少々苦難でも頑張らないといけない。


「行くぞ」


そう言ってネルの手を取り、町の門をくぐる。

門は、縦5メートル横6メートルくらいで、レンガ造り、門番は居ない。

〈初めて〉の俺たちからしたら、結構な威圧感である。

門をくぐり抜けると、そこは正面に続く大通り的な道を挟んで様々な露店が出ており、一本道の突き当たりには大きな建物が立っていた。

アレが俗に言うギルドと言う物だろうか。

それにしても凄い活気だ。

ネルもその活気に勇気づけられた様に、辺りをキョロキョロと見渡している。

まるで子供だな。子供か。

そんな短い自問自答を心でしてネルに言う。


「ネルまずは宿を探そう」


「うん」


俺はネルの手を引きながら宿を探す。

と言うかこの世界の文字は看板などてちょこちょこ目に入るが、やはり全然分からん。

そこら辺はネルが頼りだ。


「ネル。俺はこの世界の文字が読めん案内してくれ」


と聞くと、


「えーっとそうだなーあはは、私も分かんない」


優しい笑顔でそう言われた。

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