エピローグ

 十年振りに、夢を語り合った親友から手紙が届いた。


「……てっきり、忘れられてると思ってたんだけどな」

 当時は、何もかもを分かり合っていると勘違いをしていて、高校生の時に喧嘩をしてから、一切会う事がなくなってしまったが、きっとどこかで頑張っていると信じて疑わなかった。

 だからこそ、どこまでも有名になって、自分は夢を諦めずに頑張っている、お前も頑張れ、という事を伝えたかったのだ。


『謹啓、新緑の候 皆様にはますますご清祥のこととお慶び申し上げます。このたび、わたしたちは結婚式を挙げることになりました――』


「俺より先に結婚だなんて、生意気な奴だな」

 式場に向かう途中、まるで自分のことのように嬉しいのだが、思わず悪態をついてしまう。



(さて、と……)

 受付の時間よりも早く到着した。目的は、式の前にとある人物に会う為であった。

「よ、久しぶりだな!」

 目の前には、タキシードを立派に着た新郎の姿。


「変わらないな、お前は……え? 俺の方が変わらないって?」

 正直なところ、何を話そうかと悩んでいたが、その必要なかったようだ。


「ははっ。当たり前だろ! じゃなきゃ、お前に示しがつかねぇからな」

 誰よりも頑張ってきたという自信はある。実際は、役者を辞めてしまおうと思う日もあったが、その度に楽しそうに夢を語る親友の姿を思い出し、夢を諦めないと誓った事を励みにしていたのだ。


「知ってる――だって?」

 意外だった。と、同時に自分の頑張りの意味を知られているのが分かると、少しだけ気恥ずかしかった。そして、付け加えるように、喧嘩をしたあの日のことを謝られた。


「いいんだよ。気にすんな、そんな昔のことなんて」

 お互いの中の蟠りは、あっさりとなくなり、以前よりも大人になったお互いの糧になっていたと実感する。


「――ところでよ、そういうお前の方はどうなんだ?」

 そして、これまでにあった出来事を語り合った。短い時間ではあったが、失くした時間を取り戻すように、小さな教会には笑い声が響き渡った。



「へぇ。じゃあよかったな、母親も呼べて」

 どうやら、新郎も新婦もお互いに友人が少なく、式場の設備を優先して選んだらしい。なので、以前体調を崩してしまった母親でも、無理をせずに来られるこの場所にしたとのことであった。


「さてと。んじゃ、そろそろ行くわ」

 開場の時間が近づいてきたので、その場を後にしようとする。


「あ! やっぱり、今日の司会は俺にやらせてくれよ!」

 まるで高校生の時のように、図々しい要求をする。当然、有名人がそんなことをしたら式の主役が誰だか分からなくなってしまうので、やんわりと断られた。

 しかし、その代わりと言っては何だけれどもと、手作りの絵本を一冊手渡された。それは、自分と同じように頑張ってみせたという夢の証である。と言われ、自分のこれまでの努力がちゃんと伝わっていた事や、親友の夢の道中、最後に残った大切なモノであると分かり、素直に嬉しく思った。


「ま、しょうがねぇな。おっと、タイが曲がってんぞ。あ、服も汚れてんじゃねぇか!」

 昔と変わらずに、どこか抜けている新郎の服装を正してやる。そして、気合を入れてやるために、その背中を思いきり叩き、笑顔で見送る。


「よし! 行ってこいよ、新! あ、穂乃果さんによろしく言っといてくれ!」

「うん。ありがと、竜司!」


――夢の続きは、ここから始まる。

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雲の切れ間に 堵碕 真琴 @kakisakimakoto

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