神の塔
神界。そこは神が住まう場所。そこには元から神だった者と、後から神になった者が存在している。
後から神になるには、神格と信仰をそろえて神の与える試練を乗り越えなければならない。
その試練の名を「神の塔」と言った。
百階層からなるその塔は、資格のある者の前にしか姿を現さない。だが資格があれば、塔はその者に合った試練を与える。
百階層目には、神の国へ続く門を守護する神が待っている……。
「君は神格が二つと、信仰も結構溜まってるから行けると思うけど、その分試練の難易度が上がるんだ」
白バアルがそう忠告していたが、俺は今その塔があると言われている教会に来ていた。
だがそれらしきものは影も形も見当たらない。不思議に思い辺りを見渡していると、教会の扉が開き、中からシスターらしき人が出てきた。
「どうぞ、中へ」
案内されるがままに、中へ足を踏み入れる。
中には椅子もなく、あるのは一つの台だけだった。
無駄に奥が広く、教会と言えるかどうかも怪しかったが不思議とここで間違いないという気がしていた。
「バアル様。我らが父より許可が下りました。ですが、そちらにいらっしゃるもう一人のバアル様とご一緒に行かれる事は許可できません。それでも挑みますか?」
白バアルが居ない。それだけで俺が出来ることは限られてくるだろう。だが、だからこそ、俺だけの力でどこまで行けるのか、本当に俺はあいつに相応しいのか。それを確認できる。
「構わない」
「では……。その姿を現し、新たな神の卵を迎えたまへ」
彼女がそう言うと、地面が揺れ階段が現れた。それは奥の方まで続き、門の様な所まで伸びた。
金の門には、白い羽と銀の剣の装飾が施されている。一目で分かる通り、これが入口だろう。これを潜れば、もう戻れない気がした。
だが、元より戻る気はない。俺は手ぶらでは帰らないぞ。
「貴方に運命の加護があらんことを」
見送りをされながら、俺は門をくぐった。
まばゆいほどの光に目が慣れ始めたころ、目の前には大草原と白い塔があった。その塔は雲の上まで伸び、その頂上が見えないほどだった。
この草原には、塔以外には何もなくただ緑と空色の景色が広がっていた。
空気の上手さを感じながら塔に近づくと、入り口と思われる場所に誰かが立っていた。
「汝の名は?」
中性的な声でそう聞かれ、俺は何の躊躇もなく答えた。
「バアルだ」
「確認した。間違いないな」
少し間が開いて目の前の人物がそう言った。
入口の前に立っていたが、その扉を開き横に移動した。
入れという事で良いんだろう。少し緊張しながら中に入ろうとすると、すれ違いざまに何かを呟かれた。
「気を付けるんだな。器に収まらない力は破滅を速めるぞ」
俺が振り向いたころには、扉は閉まり開かなくなっていた。
中は白い石で作られていた。おかしな所は、天井が見えないと言ったところだろう。気にしていても仕方がないが、違和感がある。
何をすればいいのか分からず、ボーっとしていると、何処からか声がした。
「戦と魔の神格を持つ者よ。汝に求めるは圧倒的力なり。他の追随を許さなぬ武力なり。よって其方に与える試練は、百の相手との勝負である」
声がしなくなると、目の前に頭は牛、体は二メートル位の大男が現れた。両手に身の丈ほどの戦斧を持っている。
「ブモオオオオオオオオ!!!」
雄たけびを上げ、ミノタウロスと思われる生物が突進してきた。
急すぎて一瞬遅れたが、難なく回避し戦闘態勢に入る。
取り合えず重力魔法で潰してからとどめを刺せばいいだろうと考え、実行に移そうとしたが、中々魔法が発動しない。それどころか魔力の流れも悪いような……。
「あ!!」
そこである重要な事に気が付いてしまった。
先ず魔法とは繊細な魔力操作と、どういう効果の魔法を使うのかをしっかりとイメージできなければ、魔法は発動しないと白バアルが言っていた。
だが俺には両方難しかったわけだ。だからこそ微調整や、魔法の大半は白バアルが何とかしてくれていた。
その白バアルは今はいない。精神を切り離されたという感じだろうか、声も聞こえないし一緒に居るという感じもない。
現在俺は魔法が使える様な状態ではない。そう結論が出たが、じゃあどうすれば良いんだ?
魔法という強力な攻撃手段がない今、武器を持った怪物にどう対抗すれば良いんだ?
ミノタウロスと言えば、迷宮に閉じ込められるほどの奴だ。それが今も戦斧を振り回しながらこっちに向かってくる。流石に素手で倒せるような奴では無いだろう。
素手だけならの話だがな。
「これでもくらえ!」
そう言って俺は拳に雷を纏わせてミノタウロスの顔面を殴った。
ガードも何もなかった為、ミノタウロスは勢いよく飛んで行った。
俺が唯一使えるまともな攻撃方法は、今はこれしかない。どうにかこれで上まで上がっていくしかないんだが……。
ミノタウロスの確認に向かおうとすると、腕に激痛が走った。
腕を確認してみると、雷が走ったような火傷跡があった。
もしやと思いもう一度雷を使ってみると、同じような激痛と共に火傷が増えた。
「これも使えないのか?」
使いこなしたと思っていた力が、白バアルのお陰だったと知ったときに、あいつが言っていたことの本当の意味を理解した。
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