魔神王さんは無茶苦茶ですー外伝ー降神戦記~元人が神に至るまで~

紅椿

第1話突然の…

「ねえー聞いてるの?ねえって」


 頭の中で声がする。

 ボーっとしていて聞いていなかったが、白バアルが何か言っていたようだ。

 

「もういいよ。どうせ大したことじゃなし」

  

 じゃあ最初から話すなよと思いながら、俺は窓の外を眺めていた。

 国を造って数年。国には活気が溢れ、人も増えてきた。

 何度か戦争はあったが、俺とアリスで全て終わらしたし、骨のあるやつが一人もいなかった。

 戦争を仕掛けてきた国が中々の大国だったらしく、それ以降攻め込んでくるような馬鹿は居なくなった。

 そのせいで少し退屈している。戦争がしたい訳では無いが、最近はアリスも中々相手をしてくれず、体を動かす事が無い。


「つまんねえな……」

  

 行き場のない欲求を腹のうちに抱えながら、そこら辺のペンを浮かして暇をつぶしていると、扉を開けてアリスが入ってきた。


「暇そうですね。丁度いい仕事があるので手伝ってください」


 アリスが入ってくるなり仕事の説明をしだした。

 西の街道が土砂で覆われ、現在通行ができないらしい。人が巻き込まれたかどうかは分からないが、被害から二時間経過しているので早めの対処が必要。

 だが俺の他の奴らは忙しいし、アリスも手が離せない。兵士だけで何とかできる量でもないので、俺に話が回ってきたらしい。


「まあ暇だし、行ってくるわ」


 状況もなんとなくわかったし、ただ土砂をどかせばいいだけなら頭を使わなくて済む。

 早くしないといけないらしいので窓から出ようとすると、アリスに呼び止められた。


「最近この国の周辺で魔物が多く確認されてるので、見かけたらついでに仕留めておいてください」


「分かった」

 

 彼女のお願いにそう一言返事をし、俺は窓からその場を後にした。

 だが空を飛んで数分、重要な事に気が付いた。

 西ってどっちだっけ?

 

「そんなことだろうと思ったよ」


 白バアルが呆れたように話しかけてきた。

 こいつは毎回困ったときには助けてくれるから、本当に助かっている。

 今回も西の街道の座標を教えてくれたので、急ぎ目にそこへ向かう。

 二分位で問題の場所に到着したが、実際被害を目の当たりにすると、その規模の大きさに驚いた。

 周りは森に囲まれており迂回も不可能。それなのに数十メートルは土砂に埋もれているため通ろうにも通れない。

 なぜ急にこんなものが現れたのかは分からないが、取り合えず土砂をどかす方法を考える。


「この土砂の中の砂鉄を使えばいいんだよ。電気を使って浮かせば後は空中で消せばいい」


 流石は白バアル。早くも解決法が見つかったので、早速実行に移す。

 電気の加減はやってくれるし、俺は魔力を流すだけでいい。

 土砂はゆっくりと浮き上がり、地上から数十人分は浮き上がった。

 後は簡単だ。中に人が居ないことも確認済み、加減なしでブチかます。


「黒雷」

 

 俺の手から放たれた黒い雷が、宙に浮いた土砂すべてを残さず消し去った。

 仕事も案外早く終わりまた暇になったが、アリスが言ったことを思い出した。 

 

「何体か狩っていくか……」


 周りの気配を読み、何処に何が何匹いるかを把握する。

 周囲に見えたのはざっと十二体。確かに多い。

 

「ちょっとは発散できるな!!」


 雷と爆音が、西の街道で鳴り響いた。

 

————————


 狩った魔物を国の倉庫にもっていって城に戻った。

 結局あの後十二体じゃ足りずに、計五十体の魔物を狩って帰ってきた。

 倉庫は結構大きめに作ってあったが、半分ぐらいが埋まってしまったためアオボシの仕事が増えてしまった。

 消化不良のまま風呂に入り、久しぶりにアリスに戦いたいと言ってみるかと思い、アリスの仕事部屋に向かった。

 ノックはせず扉を開け中に入ったが、そこにアリスはいなかった。


「風呂か?入れ違いになったか」


 ならここで待っていたら来るだろうと思い、部屋の椅子に腰かけて待つことにした。

 数時間後。


「風呂にしては長すぎる……」


 いつまでたってもアリスが来ないことに不安を感じながらも、あともう少し待つことにした。

 その間白バアルと話しておこうと思い、イスに深く座りなおしたその時、部屋の扉が勢いよく開かれた。


「兄上!大変です姉上が!!」


 クレナイの慌てた様子が、ただ事ではない何かが起こったという事を告げていた。

 急いで部屋から飛び出し、クレナイに案内され会議室に向かう。

 会議室に着くと、俺以外の面子はすでに揃っていた。


「何があった!?早く言え!」


「お兄ちゃん落ち着いて!」


 アリスに何かあったと言われて落ち着けるはずもなく、俺は椅子に座らないまま説明が始まった。


「今日仕事から帰ってきたら、兄上たちの部屋にこれが……」


 そう言ってクレナイが一枚の紙を渡してきた。

 それを急いで手に取り確認する。そこには信じられないことが書かれていた。


皆へ

 私は神界に帰ります。

 父の言いつけを守らねばなりません。

 ごめんなさい。


「どういう事だよ……」


「分からないが、それと一緒にこれが……」


 クレナイが渡してきたのは、チェーンのついた指輪だった。

 俺がアリスにあげたあの指輪だ。これが置いてあったってことは……。


『まあそう言う事だろうね』


 バカな俺でも理解は出来た。だが同時に違う考えも浮かんできた。

 このまま放っておいていいのか?何のために紙と指輪を置いて行ったんだ?いや待てよ……。

 俺は指輪を手に取り、自分の首にかけてある指輪に近づけた。

 俺とアリスの指輪は近づくとはめてある宝石が魔力に反応して光るようになっている。 

 なのに反応は無い。つまりこれは偽物という事だ。

 偽物を置いてここを去った。本当に自分の気持ちで行ったのならこんな事はしないはずだ。なにより、あいつがそんな事をしないのは一番わかっているつもりだ。


「おい白バアル。神界への行き方を教えろ」


 そうと分かった俺の行動は、すでに決まっていた。

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