お昼寝のひととき(バカップル・甘々・年齢設定はお好みで)

 一組の男女が互いの想いを確認し合う中、私は目の前に集中できていなかった。その原因は右肩から伝わる心地良い温もり。


「___すぅ、すぅ」


 マイエンジェルのお昼寝!!


 開始15分で寝始めたこの子は今、私の右肩に頭を寄せて寝息を立てている!!


 何でこの子こんな重要なシーンで寝てんの。とか、結構音量大きいのによく寝れるね。とか、そもそも何で開始15分で寝始めたの。とか、そんなのはどうでもいい!!


「ぁー…めっちゃ、かわいいー」


 もう、ね?可愛いんですよ、この子。


 ふっくらしたほっぺとかぷるぷるしっとりの唇とか小ぶりの鼻とか長めのまつ毛とかちょっと内側にカールした茶髪ボブカットとか大きめで程よく舐めやs撫でやすいお耳とか本人は気にしてるけどぷにぷにした二の腕とかちんまりした体とかチラ見えしてるお臍とか舐めたいしたまに漏れる寝言とか甘めのソプラノだし香水使ってないのにめっちゃ良い匂いするしもうほんと天使何この子神。


 駄目だ、欲望に任せてよしよししたい。しかし我が右腕は天使により再起不能也。そして左手も又ソファに埋もれ動くことは叶わぬ。

 もう映画とかどうでもいい、この子を揉みくちゃによしよしして限界まで褒めちぎってあわよくば色々シたい。お臍舐めたい。


 だってさー、この子お家デート初めてのときはガッチガチだったんだよ?朝に食べ忘れた肉まんくらいガッチガチだったよ?それがもうこんなふにゃふにゃになってるんだよ。惚れるしかないだろぉ?


「____っ!おお……」


 びっくりした。画面の向こうでさっきの男女がベッドインしてやがる。なんだ、イチャイチャ出来ない私への当て付けか。言っておくがなあ、そのお臍より私の彼女のお臍の方が数億倍エッチいんだよ!

 ……ヤバい、最近お臍への執着が酷くなってる。いやでも私は恋人の全てを愛するスタンスだ。だからお臍も愛する。


 横を見ると、彼女がなんかモゾモゾし始めた。うにゃうにゃ寝言も言ってる。めちゃくちゃ可愛いのでせっかくだし愛を囁いてやろう。


「だいすきだよ」


「ぅん……んへへ」


 おう……死んでまうやろ。なんやその反応、責任取るんやろなあ?これあれだわ、『私も好きだよ』とか返されるよりよっぽど効くわ。死んだ、鋼鉄の心臓が止まっちまったよ。ほんとこの子好きになって良かったわ。


 てか、ほんと起きないんだね。映画終わってるし、2時間は経ってるのに起きないどころかぐっすり過ぎて寝返りとかもしない。やっぱ昨日はっちゃけ過ぎたかな、朝もかなり眠そうだったし。名残惜しいけどもうすぐお昼の準備しないとヤバそうだ。

 すいませ~ん。ちょっと立たせてもらっていいですかー。


「ん、う。ぅうう」


 あっ無理だわ。肩キュッてされたわ。頭ぐりぐりしてきたわ。だめだこれ、起こしたら罪悪感で死ぬかもしれない。もうお昼ご飯なんていいかな。二人でお昼寝したほうがいい気がする。




______________________________________

「……ん、ぅう-ん。ぁれ、ねてた?」


 目を覚ますと、二人掛けソファの上だった。どうやら映画を見ているうちに寝てしまったようだ。

 横にはさっきまでもたれかかっていた彼女の肩があった。その本人も寝ているようで、慎ましやかな胸が規則的に上下している。本人は気にしているようだけど、背も高いしスレンダーだから胸がある方が違和感がありそうだ。そもそも普通に柔らかいから気にしなくてもいいと思う。


「んー、……ぇへへ」


 無意識に掴んでいた彼女の右手を開放し、頭にのっける。するとちょうど手の中に私の頭が収まる。おっきくて暖かい優しい感触に思わず笑ってしまった。この人の手は今まで付き合ってきた人や家族の手よりもずっとずっと大好きだ。他のところも間違いなく好きだと言えるけど、好きになったきっかけもあるしこの手が一番好きかもしれない。


 見上げると、寝顔が一番先に目に映った。いつも見つめてくる瞳は見えなくて、代わりに薄く開いた唇が無防備さを醸し出している。

 ___今キスしたら、どうなるのかな。もしかしたら本当は起きてるのかもしれないし、キスした瞬間起きるのかもしれない。無意識のうちに舌を入れたりは、流石にしないよね。どっちみち私にはメリットしかないし、起きてるってわかってるときは恥ずかしくてあまり出来ない。なら、いましかない、よね?


「ちゅー、しちゃうよ?」


「ん、?」


 声をかけたら少し反応したけど、すぐにまた眠りについた。この様子ならキスしてもばれないかな。

 体を起こして彼女の顔に向き合う。ほとんど変わらないはずなのに爽やかな柑橘系の香りが強くなった気がする。少しづつ、近づくたびに鼓動が早くなる。顔が熱くなっていって、何もしてないのにふわふわする。


「っん…」


 即座に離れた。なにこれ、凄い心臓バクバクする。いつもしている筈なのに、自分から、しかも起きたらどうしようって考えると余計に緊張しちゃう。この人はいつもこんなことをしてるんだから、凄いなあ。


 …ふふ、綺麗だな。いっつも可愛い可愛いってだらしない笑顔で言ってくるのに、一回寝ちゃうと別人みたいにかっこよくなる。


「普通は逆なんだよ?」


「ん、んー……」


 小声で話しかけると返事とも寝言ともとれない声が漏れてくる。鼻にかかった声はいつもなら絶対に聞けないから、寝言を言う彼女は世界で一番かっこいいのに、世界で一番可愛くなる。ほんとに、この人を好きになって良かったな。


 でももうお腹すいたから、起きなきゃだめだ。お昼が遅れると夜ご飯も色々面倒くさい、か、ら?


『15:26』


………………


 まあ、たまにはこんな日があってもいいや。



______________________________________

登場人物 ※名前もお好みでご想像ください


A

臍が好きな方

むっつりに見えてむっつりじゃない

恋人バカ


B

手が好きな方

気弱そうに見えてヘタレむっつり

恋人バカ

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