百合短編詰め

秋登

犬好きの三角関係(社会人、同棲、犬)

「ただいま」


 そう言うと、玄関に駆けてくる影が一つ胸に飛び込んできた。


「おー、リカはあったけえなあ」


 抱きしめながら頭を撫でると、もっとしてと言わんばかりに押し付けてくるこの子は何を隠そう____私の愛する柴犬、リカ(♀・3歳)だ。

 暫く玄関先でほっぺを伸ばしたり耳の付け根に指を突っ込んだりして戯れていると、開けっ放しのドアから何やら香ばしい臭いが流れてきたのでリカを抱っこして一緒にリビングへ行く。


「ただいまー、今日何魚?」


「お帰り、ほっけだけどもう少しで焼けるから。早く着替えてリナの監視しててくれる?」


 おっけー。とキッチンに返事すると超絶美女なポニーテールの女性___恋人の日那が何やら不機嫌そうな顔をしていた。これはあれだ。友達と飲みに行った帰りとか、ゲームに熱中してるときによくある顔だ。つまり寂しくて何かに嫉妬してる顔だ。


 いつもはこんな顔見せないから少し優越感を覚える。何せ日那は天然物のクールビューティーで、いつでも冷静沈着。愛する私とのコミュニケーションでさえ無表情で素っ気ないことも多い。名前と全然違うね、と茶化したこともあるが「それは静音のほうでしょ」と冷めた目と共に見事に一蹴。危うく新世界の扉を開きかけた。


 つまりこんな、眉を寄せて唇を引き結んだ顏なn「ジロジロ見ないで」やっべ気付かれた。でも本当に可愛いんだよなあ。そう思うよね、とリカに目配せしたらおやつくれ、と言わんばかりに膝を叩かれた。はいはいどうせ家庭内ヒエラルキー最下位ですよ。



 所変わって食事中ですが、いやあどうしたものか。途中まではご飯食べたら機嫌治るでしょとたかを括っていたがマジで不機嫌だこの人、目が合わない。あれか、月一回の要らないあれのせいか。確かに今ぐらいから始まるわ。なあリカよ、なぜ貴様は今日になってお出迎えを始めたんだ。昼間の地震のせいか?このビビりちゃんめ。

 こうなったらお姉さんが華麗な話術で機嫌を直して差し上げるしかないのか。そしてあわよくばができないんだよなあこれが。


「ねえ、土曜って何もなかったよn「食べ終わったなら食器洗って」はい分かりました」


 やべえ、激おこじゃん…浮気疑われた時と同じくらい怒ってんじゃん。話術が一瞬で撃沈したんだけど。


 食器を洗いながらリビングの様子を見ると、日那がリナを撫でながら私が金曜に二人で飲むために買ったプレ〇ルを一人で開けていたが、なんかおかしい。第一にリカを撫でる手の位置があと1cmで目に入るくらい変だ。リカがめっちゃ迷惑そうにしてる。そしてプレ〇ルを飲むペースも可笑しい。日那は本来酒にとても弱くてビールでも一缶で限界の筈、それをめっちゃ早く飲んでる。具体的にはもう一本は開けそうなペースしてる。


 そもそも日那は忘れたいことがない限り酒を自ら飲まないし、嫉妬も私がなんか行動しない限りない。___え?もしかしてこれ私のせいだったりする?浮気もしてないし酔った勢いで襲ったりもしてないよ?酔ったノリと勢いでリカに好き好き連呼してチューしまくったくらいしかnこれだわ。マジで自業自得じゃん…いやでもこれはあっちも悪い気がする。……もういい、お風呂入る。お風呂は全てを解決する。


 お風呂から上がると日那がソファーの上で寝ていた。寝顔めっちゃ綺麗だし腹がチラ見えしてるしもうなんかエッチ。

 ___あ、今ならこれは夢だから正直に答えて?的なやつ出来る気がする。よっしゃやろう。そうと決まれば早速ソファーに寄ろう。


「……しず、ね」


「んぇ?」


 ヤバいめっちゃ可愛いんですけどこの子!いや反則でしょ、何この弱々ヴォイス!なんか変な声出たしさあもう!

 ……あー、なんか悪いことした気分だわ。いや実際してるんだろうけどさ。いいや、日那起こして腹割って話そう。


「ね、日那。起きて?話さなきゃいけない事あるから」


「や、」


「えー。……なんで起きちゃやなの?」


「フラれる、から」


「んー、そっかあ。フラれちゃうかぁ」


 うつ伏せになった日那の背中を撫でながらちらりとテーブルを見ると。___わあ、プレ○ル一本に檸○堂が一本あるよ、よく吐かなかったね。偉い偉い。じゃないんだよなあ、だからか謎のネガティブ思考。てかペースどうなってんの、お風呂とスキンケア合わせても40分くらいしか空いてなかったよね。どうしよう、急性アル中とか大丈夫? 

 あーあー、なんか丸くなっちゃったよ。どうしたらいいと思いますかリカさん。取り敢えず水飲ませましょうかね。


「ほら、水飲んで?気持ち悪いでしょ」


「…のまない」


「駄目だよ。飲ませてあげるから起きて?お風呂入ってないのに、何でこんな飲んじゃうかな……」


「だって、私もういらないじゃん」


「それはどういうこと?私、日那のこと大好きだよ。要らないなんて絶対思わないよ?」


 そう言うと日那は顔だけを私に向け、少しずつ話し始めた。泣き腫らしたみたいに赤い目元が余計に罪悪感を増幅させる。


「私、付き合ってきた人にいつも冷たいって言われて、本当は好きじゃないんじゃないかって思われてた」


「うん」


「でも静音はそんなことなくて、いっつも楽しそうにしてくれた。だから私もがんばって、好きだよって伝えたかった」


「うん」


「だけど、静音はリカにばっかり構って私は必要じゃないのか、って。それで、なんか、分かんなくなって…」


「うん、そっか。ごめんね、気づけなくて。ほら、泣かないで。大丈夫だよ、リカも大切だけど日那だって大切だよ」


「ほんとに大切?いらなくない?」


「うん、本当だよ。大切だし、大好き。要らないなんて思わないから」


 抱きしめると、いつもの日那とは違ってすぐに腕を回して抱きしめ返してくれたけどお腹が何かふわふわする。


「んん、リカじゃま」


「ワフッ」


 何やってるんすかリカさん。いや可愛いけどさ、嫉妬して挟まっちゃうのは反則級に可愛いけどさ、それとこれとは違うじゃん。時と場合を考えましょうよ、日那が拗ねちゃうじゃん。


「だめ。私は静音といるからあっち行ってて」


「ワン!」


「やだ、遊ばない」


「ワウッ!」


「遊ばないって、もう。顔舐めない」


 いやあ、仲直りした直後に放置ですか。いいよ、可愛いから。この二人がじゃれてるとかどんな病も即効治るくらい可愛いから。

 でも、ちょっと寂しいなーなんて。あ、見てませんね分かりました歯磨きしてもう寝ますから。


 あー、何か日那の気持ちわかった気がする。確かにこれは不機嫌になるわ、隣でイチャつかれるのは効く。しかし、日那は酔うと重くなるのか。ギャップが凄い、好き。これからは定期的に酔わせようかな。

 なんて考えてると、遊び終わった日那が眠そうに話しかけてきた。


「静音、大丈夫?」


「んぇ、何で?大丈夫だけど」


「酒飲まないで歯磨きし始めたから」


「ああ、朝早いから。それに酔っぱらいにも絡まれたしね。私も飲んだら収拾つかなくなりそうで」


「それは、ごめん。アレも近くて不安定だから」


「ん、大丈夫だよ。日那も歯磨いて?もう寝よ。お風呂駄目でしょ」


「わかった、もうベッド行ってて」


 そのままハグすると、リナがゲージから睨んできた。この家にはヤキモチ焼きが3人もいるのか、何か面倒くさい三角関係だな。




______________________________________

登場人物


静音

OL

名が体を表してない人、うるさい

恋人バカの飼い犬バカ

ガチレズで結構な数の人と付き合った過去がある

恋人は大切にするタイプ


日那

OL

天然物のクールビューティー

酒と犬に弱い

バイで男女ともに2,3人と付き合ったことがある

今回の一件でスキンシップが増えた


リカ

柴犬

ヤキモチ焼き

静音を下だと思っている

人懐っこくて遊び盛り

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