第22話

『せんぱい、デートしましょう』 


「ぶっ!」


 白石さんとの勉強会が始まってから迎える二回目の週末。

 僕のスマホに届いたメッセージに思わず吹き出してしまった。

 白石さんからメッセージが届くこと自体は先週からちょこちょこあるので驚くほどのことではない。

 ただ、今までは勉強でわからないところを教えてほしいだとか、この動画が面白かったから見てほしいとかそんな内容ばかりだった。

 今回も同じような内容だろうと思っていたらまさかのデートしましょう。これで驚くなという方が僕には無理な話だ。

 白石さんの意図が読めな過ぎてどう返信しようか迷っていると、『よろしければお電話しませんか』のメッセージ。返信に困っているところだったのでちょうどいいと思い、『おっけー』と返すとすぐさま電話がかかってくる。前もこんなことがあったなあと思いつつ電話にでた。


「こんにちはー先輩」

「こ、こんにちは」


 白石さんとしゃべるのはいい加減慣れてきたけど、今回はさっき送られてきたメッセージのせいでちょっと緊張していた。


「今お時間は大丈夫でしたか?」

「それは問題ないよ。勉強してただけだし」


 普段は自信満々な風にふるまっていながら、電話をかけてきたらまずこちらの都合を確認する律義なところ。そのギャップは間違いなく白石さんの魅力の一つだと思う。


「まーた勉強ですか先輩。飽きないんですか?」

「勉強は飽きるとか飽きないって話じゃない気がするけどなあ」

「私にはわからない感覚ですね……。ま、いいです。そんな勉強ばかりの灰色の青春を送っているだろう先輩に朗報ですよ!明日、私とデートしませんか?」

「……さっきメッセージでも言ってたけど、その、デートってどうしたの急に」


 デートという言葉を使うことに気恥ずかしさをおぼえつつも、白石さんが何を思ってこんなことを言い出したのかを聞いてみる。

 なるべく平静を装ったつもりだったけど、電話越しに僕が動揺しているのが伝わったのだろう、白石さんは少しおかしそうにしながら僕の質問に答えてくれた。


「いや、どうしたのって言われるとそのままの意味なんですけどね。せっかくのお休みですし一緒に遊びに行きましょうかっていうお誘いです」

「それならデートなんて言葉を使わずにそう言ってくれたらいいのに……」

「男女が一緒にでかけるならそれはデートですからね、間違った使い方はしてないです」

「まあ確かにそうかもしれないけどさ……」


 女の子と遊びに行った経験なんて妹の瑠璃としかない僕に、デートという言葉を意識しないのはなかなか難しい。


「で、結局どうなんですー?私と遊びに行きますかー?行きませんか?」


 今度はデートという言葉を使わずに僕に問いかけてくる白石さん。答えを返す前にいくつか確認したいことがある。


「一応どこに行くかくらいは教えてほしいかなあ」

「あ、すみません。そういえば言ってなかったですね。遊園地行こうと思ってるんですけど、いかがです?」

「またコッテコテなチョイスだね……」

「別にいいじゃないですかー。楽しいですよ、遊園地」


 遊園地なんて久しく行っていない。小さいころは確かに楽しかった記憶があるけど、今行っても楽しめるものなのだろうか。


「僕って遊園地とか行き慣れてないし、他の人と一緒に行った方がいい気もするけど……ほら、灰田さんとか」

「沙枝ちゃんはこういうところ誘っても基本来てくれないんですよー。それに、今回は先輩と一緒に行きたい理由があるんです」

 

 ドキリとするようなことを言ってくる白石さん。僕だって男の子だ。そんな言い方をされると俄然その理由とやらが気になってくる。


「ちなみにその理由って……?」

「先輩が行くって言ってくれたら教えてあげますよ」


 直接聞いてみても、はぐらかされて答えは教えてもらえない。

 僕は少し悩んだ末に、彼女のお誘いに乗ることにした。


「……行く」

「ほんとですか!ありがとうございます、先輩!」


 受話器越しに聞こえる嬉しそうな声にこちらも嬉しくなる。

 遊びのお誘いなんて久しぶりすぎて少し臆病になっていたが、僕のここ数年の生活を考えるとこれは快挙といえるのではないだろうか。

 徐々に上がってきたテンションを自覚しつつ、さっきから気になって仕方がないことを改めて白石さんに尋ねた。


「それで、僕と一緒に遊園地に行きたい理由ってなんだったの?」

「あ、それはですね。実は――」


 ようやく聞けた白石さんが僕を誘った理由。

 その全部を聞いた時、僕はものすごーく微妙な気持ちになった。


「えぇ……」

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