第17話
どっと疲れたものの一応交渉成立と言うことで、灰田さんに協力する時期について尋ねてみた。曰く、撮り始めるのはまだ先で、しばらくの間はやってもらうことはないとのことだった。
これが今すぐとかだと白石さんの勉強を教える時間が削られて本末転倒だったのでありがたい。
というか了承する前にその辺は確認しておくべきだったと、抜けている自分にちょっと凹んだ。
話が一段落ついて余裕が出てくると、とあることが気になってくる。
「ところで、この部屋を使っていいってことだったけど、僕たちが使える場所あるかな……?」
今までは初見かつ言動が印象的な灰田さんに気を取られがちだったので気づかなかったが、今いる第一放送準備室はさして広くない。というか狭い。おまけに機材や本、ディスクなどが散乱しておりかなり雑多なありさまだ。
一か所だけ机とパソコンが置いてある比較的綺麗なスペースがあるがあれは灰田さんが使っている場所なのだろう。
正直、使っていいとは言われたものの僕と白石さんが勉強をできるようなスペースはないように思えた。
「それに関しては心配いらない。来て」
灰田さんに促されるまま部屋の奥に進むと、入り口からは死角になっている部分にもう一つ扉があった。灰田さんがその扉を開けるとそこにはこれまた狭い部屋が一つ。
とはいえこちらはあまりモノが置かれておらず、ぱっと目に付くのは向い合せになるよう設置された机と椅子がそれぞれ二つずつ、それと机の上に鎮座しているマイクだけだ。
「ここは……?」
「映像に使う音声とかを録音するための部屋。私はしばらく使う予定はないからここを使えばいい。マイクとかは邪魔だったら適当な場所にどかしておいて」
「おお……!」
中に入って部屋を見回してみる。狭いとはいえ、この部屋であれば二人で勉強をするだけなら十分だ。ご丁寧に机と椅子も完備されているし、非常に良い場所を提供してもらえたのかもしれない。
あ、でも確認したいことが一つだけ。
「僕たち結構話したりするかもしれないんだけど、灰田さんの邪魔になったりしないかな?」
バカ騒ぎをするつもりはないが、それでも勉強を教えるというのが主目的である以上多少の会話は発生するだろう。そうなると、ここで部活をする灰田さんの迷惑にならないかが心配だった。
しかし、それはどうやら杞憂だったらしい。
「心配いらない。さっきも言ったけどここは録音のための部屋。防音は結構しっかりしている。だからもしあなたと紅葉がここで乳繰り合っても私にはばれないから安心していい」
「「そんなことしないから!!」」
とんでもない爆弾発言を放り込んできた灰田さんに声を荒げる僕と白石さん。白石さんは顔がうっすら赤くなっているし、僕も似たようなものだと思う。
灰田さんめ、ただでさえ曖昧でふわふわしている僕と白石さんの関係が気まずくなったらどうしてくれる。
抗議の意味を込めて灰田さんを半目で見つめてみるものの彼女はどこ吹く風で、「それじゃ、ごゆっくり」なんて言いながら僕たちを残して扉を閉めた。
「え、えーっと……それじゃあ、勉強する……?」
「そ、そうですね……」
ぎこちない雰囲気をぬぐい切れないまま、しかし空気を変えるために本来の目的である勉強を提案してみる。白石さんも同じような気持ちだったのかあっさりと乗ってくれた。
「あ、勉強するにしてもなにをしようか?どの教科をするとか決めてなかったよね」
そういえば、どの科目をどれくらいするみたいな具体的な勉強のプランは立てていなかった。
「一日一教科とかでいいんじゃないですか。国数英理社の順で毎週回していくみたいな感じで」
「えらくざっくりしてるね」
「ひとまずそれで様子を見てみて、状況に応じて変えていけばいいじゃないですか」
「それもそっか」
今の時点で厳密な計画を立てたとしても、その通りに進む可能性はほぼないか。僕は白石さんの学力がどんなもんかさえほぼ知らない状態なんだし。
「じゃあ今日は国語ってことでいいですかね?」
「問題ないよ。ただ即席で教えるには限度があるから、今週は進度とかテスト範囲の確認も兼ねながらやってもいいかな」
「おーけーです」
そんなこんなでゆるーく僕と白石さんの第一回放課後勉強会は始まった。
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