第13話
「変な先輩はさておいて本題についてなんですけど、勉強を教えてもらうっていっても実際のところどうします?」
「だよねえ、場所とか時間とか期間とか考えなくちゃいけないことがたくさんあるよね」
微妙にディスられつつも肝心の本題へ。確かに勉強をするといってもどこでやるか、いつやるか、いつまでやるかは決めておいた方がいいだろう。
「そうなんですよねえ……。決められそうなところから決めちゃいましょうか」
「だね」
「んー、とりあえずは期間ですかね。先輩、どれくらいの期間私に勉強教えてくれます?」
それを僕に尋ねるのは結構ずるいのではないだろうかとちょっとだけ思いつつも、自分が考えていた期間を正直に答える。
「そうだなあ……とりあえず僕の受験が本格化して忙しくなるまではいけると思うけど」
「…………は?」
すると白石さんはしばしの沈黙の後、ぽかんとした声を出した。
「え?」
「いやいやいやいや、え、は、え?受験で忙しくなる頃って大体二年生の後期とか三年生くらいからですよね?で、先輩は今一年生ですよね?」
そのリアクションに今度は僕が呆けていると、白石さんがまくしたてるようにそんなことを言ってくる。
「うん、そうだけど」
「そうだけど、じゃないですよ!?先輩私の勉強一年以上みるつもりなんですか!?」
心底驚いたという風な白石さん。まあ僕だって白石さんの勉強を一年見ることになると思っているわけではない。というか相手が先に僕に愛想を尽かすと思う。
ただもし相手がそれを望むのであれば勉強を教えると約束した以上、本気で自分に余裕がなくなるまでは付き合おうと考えてはいた。
「いや見るつもりというか必要とあらば対応できる最大を示したというか……。それくらいまでなら一応付き合う覚悟はあるよっていう」
「あの軽いノリでそんな覚悟を決めないでくださいよ……頼んだ私が言えることじゃないですけど。さすがに私のワガママでそこまで先輩を付き合わせるのは申し訳なさがヤバいです」
「そう?じゃあどうしようか」
「そうですねえ……先輩に教えてもらうことでどれだけ成績が伸びるかの確認する意味も込めて、私の次のテストまでっていうのはどうです?」
「白石さんがそれでいいなら僕はかまわないけど……中学校の次のテストっていつだろ?」
高校ならともかく中学校の年間スケジュールは把握していない。
「基本的には中学校でも高校と同じ時期にテストがありますよ」
「んー、てことは7月下旬くらい?」
うちの高校は7月一杯は夏期講習と言う名目で学校があり、そこで夏休み前最後のテストが行われる。
自分が中学生だった頃は夏休みだった期間にテストが行われることを知ったときはこれが高校……!なんて驚きつつげんなりしたものだけど、どうやらそれは西鶴中も同じだったらしい。
「ですです。大体一か月くらいですけど、問題ないですか?」
そう尋ねてくる白石さん。こちらとしても特に異論はない。
「問題なしだよ」
「じゃあ期間は来月下旬までということでお願いします」
「了解」
意外とあっさり勉強をみる期間が決まった。
「んーそれじゃあ次は時間ですかね。勉強教えてもらうって言ってもいつ教えてもらいましょうか」
次に決めることになったのは勉強を教える時間。いつと言われてもこれに関して選択肢はそんなに多くない。
「昼休みか放課後になる気がするけど……白石さんって部活はやってるんだっけ」
「いえ、部活には入ってないですね。確か先輩もでしたよね?」
どうやら僕が勉強会で話したことを覚えてくれていたらしい。大した記憶力だ。僕が逆の立場だったら絶対覚えてない自信がある。
「そうそう、よく覚えてたね。どっちも部活やってないなら昼休みでも放課後でもいけそうかな」
「んー、昼休みってなんだかんだバタバタしますし放課後の方が個人的にはいいんですけど、どうでしょう?」
確かに、たかだか一時間弱で昼食やら次の授業の準備やらを済ませたうえで、勉強までというのはちょっと厳しいものがあるか。
「昼休みって長いようで短いもんなあ……。僕も放課後の方が時間の融通がききそうだし賛成かな」
「よし、じゃあ教えてもらうのは放課後で決まりですね。あ、曜日とかも決めとかなきゃですね」
「あーそっか、それもあるか。僕はこの曜日がダメとかそういうのは特にないから白石さんの希望に合わせるよ」
僕の放課後は部活もなければ遊ぶ友人もいないのでいつだってフリーだ。……自分で言ってて悲しくなってきた。
「私もないんですよねー。先輩週何日くらいはいけそうです?」
これはちょっと意外。部活をしていないとは言っていたものの、白石さんみたいにキラキラした雰囲気の子は何かと放課後は忙しいんじゃないかと思っていたんだけど。
「とりあえず平日は全部いけるよ?休日も別に無理ではないけど、ちょっと会うのに難儀しそうではあるよね」
自分に急用でも入らない限り、相手が望むならそれに全て付き合うつもりだ。
「だからなんでそんなに尽くす構えなんですか!?言っちゃ悪いですけど私たち知り合って一週間と経ってないんですよ?よく知りもしない相手のためによくもまあそんなに時間を割こうとできますね……」
さっきと同じように声を荒げる白石さん。知り合って間もない間柄にもかかわらず僕が妙に献身的なことに驚いているみたいだけど、僕からすればちゃんとそれには理由がある。
「僕の中では白石さんはいい人だから大丈夫」
白石さんは知らないんだろう。至極当たり前と言った風に素の僕を肯定してくれたことに、僕がどれだけ感謝しているかを。
人の目に怯え、息苦しさや緊張感に苛まれながら過ごしている僕の日々が白石さんの一言にどれだけ救われたことか。
白石さんの反応を見るに、彼女としては大したことじゃないのだろう。もしかしたら、世間一般からみてもちっぽけなことなのかもしれない。
それでも、僕からすれば全力で恩を返したいと思える程度には感謝している出来事なのだ。
「………………」
流石に内心の全てを言葉にするのは恥ずかしかったので、白石さんをいい人と言うにとどめたのだけど、なぜか彼女は黙り込んでしまった。
「白石さん?」
「あ、いえ、なんでもないです。あの、先輩?そんなに簡単に人を信じたらいつかひどい目に遭いますよ?というかいきなり勉強教えろとか無理を言ってくる変な後輩をいい人扱いしちゃだめですよ?」
不思議に思った僕が呼びかけると、忠告めいたことを言ってくる白石さん。しかも妙に自虐的だ。白石さんには自信過剰なイメージしかなかったのでそんな様子を意外に感じつつも、僕は思ったことを告げる。
「それ自分で言っちゃうあたりやっぱり白石さんはいい人だと思うけどなあ」
白石さん=いい人の構図はどうやっても僕の中では崩れそうにない。
「はぁ……先輩の目は節穴ですね……。っと、話がだいぶ逸れちゃいました。結局週何日で何曜日ってことにしましょうか」
呆れるように、諦めたように僕の目を節穴扱いした後、話を仕切りなおす白石さん。といっても僕の答えはさっきと変わらない。
「さっき言ったように僕は平日なら全部行けるんだけど……」
「そうでしたね……。…………よし!じゃあもう平日は基本全部ってことにしていいですか?先輩の好意に甘える形になって申し訳ないですけど」
自分は特に希望はないからそちらの都合に合わせるという雰囲気を出すと、白石さんは少し葛藤するような間を置いた後、豪快な提案をしてきた。これには少々面食らってしまう。
自分で言った以上平日全てで勉強を教えるのが嫌と言うことはない。ないのだけど、白石さんの勉強への意欲が想像よりも高かったことに驚いてしまった。
いや、ろくに知りもしない先輩に勉強を教わりに来てる時点で察するべきだったのかもしれないけど、中三とはいえエスカレーター式で高校受験もないのにそこまでモチベーションがあるのはすごいことなんじゃないだろうか。
驚いただけで特に不満はないので、白石さんの提案に同意する。
「いいよー。というか僕が言い出してることなんだからそんなに気にしなくてもいいのに」
申し訳ない、なんて言っていた白石さんだけど、僕だって自分が言ったことくらいは責任を持つので気に病む必要は全くない。
「そういうわけにもいかないですって……。まあお互い何か用事があったときは連絡を入れてその日は無しにするということで。嫌になったら遠慮せずいってくださいね!?」
「ほんと気にしなくていいんだけど……了解」
白石さんの心苦しそうな雰囲気の解消は出来なかったものの、こうして勉強を教える時間が決まった。
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