第12話

「うわあああああああああああっ!?」


 日曜日、つまりは映画を見に行ってなんやかんやで白石さんに勉強を教えることが決定した日の翌日。一晩を経て冷静になった僕はベッドの上で蹲っていた。

 朝起きて、少しずつ頭が覚醒、相当強く印象に残っていたのか真っ先に昨日の出来事を思い出したところでもうダメだった。頭に浮かんでは消えていく――ことなくがっつり残留している昨日の醜態の数々。

 あまりに挙動不審な振舞、先輩の威厳など皆無なビビり様、挙句の果てに後輩女子の一言で即落ちから謎テンションのコンボだ。もうね、消えてなくなりたい。


「なーにが『いいよ』だよ!なにが『御覧の通り、僕はかっこよくもなければ話が弾む方でもないけどそれでもいいなら』だよ!なんでお前が上から目線なんだよ!陰キャの分際で何ちょっと気取ってんだよ!昨日の僕のバカ野郎がああああああ!もう嫌だ……。昨日の僕を殴り倒したい……」


 白石さんの一言に浮かれてたのはわかるけどそれにしたって昨日の僕は調子に乗りすぎていた……。

 その場のテンションで行動するとロクなことにならない人種だっていい加減学んで僕……。


「あああああああああ!!!」


 回想&絶叫のループは隣の部屋の瑠璃から「お兄ちゃんうるさい!」と壁ドンをくらうまで続いた。

 


 何にもしないでいると昨日のことを思い出して叫びだしたくなる病気にかかってしまったため、今日は一日勉強やら運動やら家事やらにひたすら打ち込んで余計なことを考えないようにしていた。途中、映画を見てきたらしい瑠璃との感想会なんかも挟みつつ、夜を迎えたころには僕の発作も多少は収まった。ちなみにその間僕が思い出し絶叫をしたのは4回。家族からの視線がめちゃくちゃ痛い。



 やるべきことはあらかた済ませ後は寝るだけではあるものの、寝るにはまだ少し早いという時間。特にやりたいこともなかったのでもうちょっと勉強するかと机に向かおうとした時、僕のスマートフォンが滅多に鳴ることのない通知音を発した。


 不思議に思いながらもスマートフォンを見てみるとメッセージが届いており、差出人は昨日連絡先を交換したばかりの相手――白石さんだった。

 内容は『今、お時間ありますか』という簡素なもので、用件が何なのかはわからない。手紙で呼び出された時もそうだったよなあ、なんて思い出しつつ、今回はどんな用件か予想もつくので『大丈夫だよ』と返す。

 ものの数秒で既読が付き、次に送られてきたメッセージは『お電話いいですか』。この返事は予想外だったうえに、電話で人と話すのは結構緊張するので一瞬尻込みしたものの拒否するほどでもない。先ほどと全く同じ内容を返すと、すぐに電話がかかってきた。


「先輩、こんばんはー」

「こっ、こんばんは」


 第一声が微妙に上ずってしまったのはもはや仕様みたいなものだ。


「いやー、こんな時間にすみませんね。一応事前に訊いときましたけど今って本当にお時間大丈夫ですか?」

「別にこんな時間っていう程の時間ではないと思うけど……。さっきメッセージで送った通り大丈夫だからその辺は気にしないで」


 現在時間は21時くらい。別に学生同士が電話をかけても非常識とは言えない時間だと思う。


「ならよかったです。それで、今日の用件なんですけど今後のあれこれを決めちゃおうと思いまして。ほら、昨日は私に用事があったせいでその辺詰められなかったじゃないですか」


 どうやら用件はそういうことらしい。そうとわかったところで確認したいことが一つだけ。


「ああ、なるほどね。その、ところで白石さん、一つ聞いていい……?」

「はい、なんですか?」

「ほんとに僕が勉強を教えるってことでいいの?」


 昨日の自分に今日一日苦しめられた僕としてはこれを聞かずにはいられない。

 本当に大丈夫?こんな気持ち悪いやつと一緒に勉強とか耐えられる?引き返すなら今のうちだよ?……まあ、これでやっぱりなしでって言われたらそれはそれで悲しいんだけど。


「え、昨日そういう話になりませんでしたっけ?」

「いや、うん。そうなんだけどね……。白石さんがいいならいいんだ、気にしないで」

「……?」


 白石さんは昨日の僕の醜態を気にしていないようだ。僕の中での好感度がまた一つ上がった。

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