第6話 こずえは梢として。梢はこずえとして。

 すっかり意気投合してしまった二人は、お互いのことについて話し合った。


 「へー。高校って面白くないんか。」


 「ええ、そりゃもう。中学四年生って感じで、中学となんも変わりませんよ!」


 「でも、一緒のクラスになるんは、知らんコ[顔も知らない子]ばっかりやろ。」

 

 こずえは、それだけは否定できなかったので、肯定の印にと深くうなずいた。


 「ウチ・・・・・・中学の時いじめられて学校行かんようなったから、それだけでも高校って面白いんちゃうかと思ってしまうわ。」


 この話をしたこずえは、うつむいて悲しそうにしていた。更に、明らかにさっきより声のトーンが低かった。


 (あかん。地雷踏んでしもたかも。なんか、新しい話題出さな。)


 こずえは考えた挙句、こう尋ねた。


 「梢さんは、喧嘩強いんですか?」

 

 「まあまあ[まずまず]やな! 男でも、女でも、五人でも、十人でもかかって来い! って気持ちで喧嘩してるよ。あと、敬語じゃなくていいし、さん付けせんでええで。おない年やし。」


 「じゃあ、もう一個質問してもいい? 梢さ・・・・・・梢。」


 「ええよ。」と、言い、梢は、微笑みながら、首を縦に振った。


 「レディースって楽しい?」


 「最高やな。」


 即答だった。


 「バイクに乗って、風を切るのも気持ち良くて楽しいし、『大阪 龍斬院りゅうざんいん』の仲間と出会えたし。」


 「親は、なんも言ってこん[こない]の?」


 もしこずえが、レディースになると言ったら、両親に全力で阻止されるだろうなと思った。


 「なんも言われんかったな。それ以前に、ウチがレディースになってることすら知ってるか怪しいで。なんせ[なにせ]、無関心な人やからな。」


 「ええな。私もそんな生活してみたいわ。」


 日々、親を鬱陶しいと感じていたこずえはそんな梢が羨ましかった。朝、学校に行きなさい、と叩き起こされることもなく、ずっと遊んでいても怒られず、宿題をしろとも言われず、こずえにとっては夢のような世界の話だった。


 そこで、梢がある提案をしてきた。


 「ウチらが入れ替わってしもた[しまった]こと、誰にも言わんようにせええんか?」


 「・・・・・・そやな! そうしよか。言ったところで、入れ替わったなんて誰も信じてくれへんし。」


 窓からの月明かりしかない、薄暗い病室で、二人だけの秘密ができた。


 その後、二人は、細かい人間関係や、注意しなければいけないことなどを話し合った。


 

 

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