第199話 姉の代わりにVTuber 199


 ◇ ◇ ◇ ◇


「それでは!! この瞬間をもちまして!

桜木(さくらぎ)高校文化祭 『桜祭(おうさい)』を開始致します!!」


文化祭開始前から、出し物の準備が必要ない生徒は、極力体育館へと集合させられ、壇上に上がった生徒会役員の号令により、桜木高校の文化祭が幕を上げた。


穂高(ほだか)を含めた3-Bの生徒は、ほとんどが体育館へと集合しており、号令が放たれたその場に立ち会っており、準備の為、立ち会えなかった生徒も、校内放送にて開始の通達が周り、学校内が一気に賑わい始める。


体育館ではさっそく、壇上にて有志の団体による発表が始まり、桜木高校ダンス部が、いきなり会場を盛り上げる。


体育館に集められた生徒は、残ってダンス部の発表を見る者、校内の発表で気になるものがあるのか、仲の良いグループで即座に、体育館から出ていく者等、それぞれが自由に動き始めていた。


「ほ~だ~か君ッ! それじゃ、ウチ等も行こうか?」


体育館でダンス部の発表を茫然と見ていた穂高に、当初より一緒に校内を回る事を約束していた、聖奈(せな)が声を掛けてきた。


聖奈の方に視線を向けると、既に瀬川(せがわ)や武志(たけし)の姿があり、武志達の他に、聖奈の友人である女子生徒が二名、確認できた。


聖奈の友人である女子生徒は、目当てである瀬川に取り付き、そんな女子生徒二人に、完全に雰囲気で舞い上がっている武志が、執拗に声をかけていた。


「そうだな、動くか……。

――聖奈はどこか、行きたい所とかあるのか??」


文化祭が行われる日にちは、二日間であり、穂高も文化祭の中で、気になる出し物があったが、その希望を述べる事は無く、時間が空いた時に行こうと、そんな風に考えていた。


穂高の問いかけに、聖奈は一気に表情を明るくさせ、ハッキリと穂高の質問に答える。


「お化け屋敷ッ!

今回のお化け屋敷は、各学年で一つあるらしいから、計三つも用意されてるんだよねぇ~~」


「三つも…………、流石に多くないか?」


楽し気に話す聖奈に対して、穂高は苦笑いを浮かべつつ答えた。


そして、聖奈の希望を聞いた所で、聖奈以外の武志や瀬川達に、確認を簡単に取り、まず初めに、聖奈の希望であるお化け屋敷へと向かう事となった。


「お化け屋敷なら並ぶだろうし、もうすぐに向かった方がいいだろうな」


「だねッ! それじゃ、いこいこッ」


穂高と聖奈を先頭に、穂高達の集団は、体育館を後にし、そんな穂高達の集団を、ある二人のクラスメートが見つめていた。


「――――いいの? ハル……。

天ケ瀬(あまがせ)君、行っちゃったけど……」


体育館を去る穂高を見つめ、瑠衣(るい)は、隣で同じく穂高の背を見つめる春奈(はるな)に、そう声を掛けた。


「いいのって、穂高君の意志だし、私がどうこうは出来ないよ……」


「はぁ~~~、ハルねぇ~、そんなんじゃ、文化祭で天ケ瀬君と回る事、多分出来ないよぉ~~?

折角のイベントなのにぃ~~」


結局、文化祭当日まで、穂高と一緒に校内を回る約束を、取り付けられなかった春奈に、瑠衣はため息交じりにそう呟いた。


「折角のイベントだなんて、私も分かってるよ。

――でも、ここ最近は穂高君、愛葉(あいば)さんと一緒にいる事多いし、中々話しかけづらくて」


「放課後、一緒に練習してた時とか、二人きりになれる時あったんだから、その時に誘えば良かったのにぃ~~。

チャンスなんていくらでもあったでしょ~~?」


「――わ、わ分かってるよ、そんな事……。

でも、言いだそうとすると、中々話題にしずらかったんだから、しょうがないじゃん……」


瑠衣の正論に、春奈はぐうの音も出ず、瑠衣に言葉を返しながら、過去の自分を責めた。


「先制点は愛葉さんに取られたね……。

もう二度とない、学生での文化祭なんだら、どこかで頑張りなよ?」


「う、うん……、そうだね」


瑠衣に発破を掛けられ、春奈も必ずどこかの場面で、約束を取り付ける事を決意した。


そんな春奈と瑠衣にも、周りにどんどんと人が集まり、いつの間にか集団に囲まれ、大貫(おおぬき)等と、今後の行動を決める事となった。


 ◇ ◇ ◇ ◇


文化祭が始まり、一時間が経とうとしていた頃。


春奈は、大貫等仲良しグループで文化祭を回り、時には個別になる瞬間もあったが、基本的には集団で催し物を楽しんでいた。


校舎外と校内でイベントが有り、春奈達は校内のイベントから楽しんでいた、


そして、大貫が食べたいと発信した事から、春奈達はたこ焼きを提供している、クラスの出し物へ向かっていた。


全員が全員で並ぶ事は無く、グループを分け、たこ焼きに並ぶ者、飲み物として、近くでタピオカを提供している、お料理研究会の出し物があった為、そちらに並ぶ者とで、役割を分けていた。


「――お昼前にたこ焼きかぁ~~」


「まぁまぁ、良いじゃん。 祭りなんだし?

お昼はお昼で、あまり重くない、ちょっちした物を摘まべばさ??」


タピオカを求む列に並びながら、少し愚痴っぽく呟く瑠衣に対して、一緒に並んでいた菊池 梨沙(きくち りさ)がなだめる様にそう告げた。


「春奈はどう思う?

良いよね!? たこ焼き」


乗り気でない瑠衣ではなく、同じように列に並んでいた春奈に、梨沙は話しを振り、春奈は唸るような声を上げつつ、考えながら梨沙の言葉に答える。


「う~~~ん、時間的には微妙だよね……。

10時半過ぎて、一時間後にはお昼でしょ??

勿論食べれない事は無いけど、食べ過ぎは……、ちょっとね?」


梨沙の言葉に、春奈も正直に答え、苦笑いを浮かべつつ、そう話した。


春奈の意見を聞き、梨沙は「えぇ~~」っと、悲壮感ある声を上げ、春奈と瑠衣の意見には、納得のいっていない様子だった。


そんな雑談をしながら、順番を待っていると、春奈の携帯が、直進を知らせる為、ポケットの中で振動した。


「――電話だ……、俊也(しゅんや)達からかな……?」


春奈は、電話の着信に気づくと、携帯をポケットから取り出しながら、着信相手を推測し、春奈達とは別の。たこ焼き屋の列に並んでいるであろう、大貫からの電話だと予想した。


特に身構える事無く、自然な様子で、着信相手を確認すると、春奈は素っ頓狂(すっとんきょう)な、間抜けな声を、思わず上げる。


「えッ!? なんで??」


春奈のそんな様子に、瑠衣も梨沙も興味を惹かれないわけはなく、慌てて電話に出ようとする春奈を凝視した。


「ほ、穂高(ほだか)君!? ど、どうしたの??」


春奈の言葉を聞き、瑠衣は身を乗り出す様に、春奈の方へと体をグッと寄せ、電話の内容を聞き取ろうとし、状況が飲み込めない梨沙は、不思議そうな表情を浮かべていた。


「んん?? 穂高ぁ~~???」


「ちょっと、梨沙。

黙ってッ!!」


聞き覚えの無い名前に、疑問を口にする梨沙に対して、聞き取りずらい会話を、盗み聞きしようとしている瑠衣は、梨沙に強くそう言い放った。


瑠衣の勢いに押され、梨沙は小さくなってしまい、春奈は、穂高の話を聞きながら、ひたすらに相槌を打っていた。


「うん……、そ、そうだね。

――わ、私は全然問題ないよ!

き、気にしないでッ」


瑠衣は穂高の声が上手く聞き取れず、春奈は具体的な言葉は何も言わなかったが、少しの間の電話で、春奈と穂高の話は纏まり、春奈は簡単に別れを告げると、通話は終了した。


「――で? 天ケ瀬君なんて??」


電話が終わるなり、瑠衣は春奈に追及するが、春奈は急用ができたのか、瑠衣の質問に答える事は無かった。


「ごめんね、瑠衣。 後で話すから!

俊介達には、急用ができたって言っといて!!」


春奈は申し訳なさそうに瑠衣にそう告げると、瑠衣の返事を聞かずに、並んでいた列から抜け、駆け足でどこかへ向かう春奈に、瑠衣は後ろから声を投げかける。


「後で絶対教えてね~~ッ!!」


瑠衣の言葉は春奈に届いたか、瑠衣には分からなかったが、駆け出した春奈の表情が、明るく穏やかになっているのは、確認できた。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「で? なんでお前らがここにいんだ??」


桜木高校、校門前。


穂高は明らかに不機嫌そうな表情を浮かべ、予期せぬ来訪者達を前に、腕を組み仁王立ちでそう言い放った。


「へへへ、来ちゃった」


怒りを露にする穂高に対し、悪びれる様子無く答えたのは、穂高の実の姉、美絆(みき)であり、美絆の両隣には、穂高の良く知る人物である、昔の配信仲間である、浜崎 唯(はまさき ゆい)と、リムの生みの親である、月城 翼(つきしろ つばさ)の姿がそこにあった。

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