第198話 姉の代わりにVTuber 198


 ◇ ◇ ◇ ◇


桜木(さくらぎ)高校 文化祭 当日。


桜木高校の生徒は、親しみを込め、『桜祭(おうさい)』と呼ばれ、例年行われる文化祭は、かなり派手な祭りであり、他校の学生や、近隣の人達も訪れる大きなイベントであった。


文化祭の準備期間は、慌ただしい日々を過ごし、文化祭を迎えた当日は、前日までの慌ただしさの甲斐もあって、校舎は美しく飾り付けられていた。


当日、ほとんどの生徒は、いつもと同じように登校し、穂高(ほだか)も例に漏れず、いつもの時間に教室へと辿り着いていた。


「――ようやく! ようやく迎えたぜッ!! 文化祭!!」


教室に教員が訪れ、朝のHR(ホームルーム)が始まるまで、教室で時間を潰していた穂高に、遅れて登校してきた松本 武志(まつもと たけし)が声を掛けてきた。


「朝からテンション高いな……。

――まぁ、お前に限らず、今日はみんな高いけど」


「テンション高いのは当たり前だろッ!? 待ちに待った本番、文化祭当日なんだから!!

――むしろ、穂高のテンションが低すぎなんだよ!」


元気よく話し掛けてきた武志に対して、面倒そうに穂高は対応した。


「別にテンション低くないだろ?

俺も楽しみにしてた部分はあるし……」


「ならもっと喜びをッ! 高揚感をッ!

内なる高ぶりをもっと表に出せよ!!」


「出さないよ恥ずかしい。

――てか、お前みたいな熱すぎる奴を見ると、余計冷めるわ」


穂高は武志の熱に感化されることは無く、むしろ逆に、武志がテンションを上げれば上げる程、穂高は冷めてしまっていた。


「穂高~~……、そうゆう、『俺は冷静です』みたいなスタンス、むしろダサいぞ?

『俺はお前らみたいに騒ぎません』みたいな……、波に乗らない感じ」


武志のため息交じりな言動に、穂高はムッと感じ、余計に不機嫌そうな表情を浮かべる。


「ダサくて結構……。

とゆうか、普段静かな俺が、ここぞとばかりにはしゃいでたら、それはそれでどうだよ??

そっちの方が奇妙だろ」


「奇妙じゃねぇよ。

『あッ! 普段静かな穂高君も、こんなに楽しみにしてたんだ』って、むしろ同じ事に盛り上がれると事を嬉しく感じるだろ?」


「――あっそ…………」


穂高の意見は武志に共感を得ず、これ以上主張を続けても、無駄だと感じた穂高は、この話題を冷たく切り上げ、武志から視線も切った。


穂高と長い付き合いである武志は、そんな穂高の行動には慣れており、こうして話題を切り上げた穂高に、再び同じ話題を振っても、取り合ってくれないという事は、重々承知であった為、別の話を穂高に投げかける。


「なぁなぁ、穂高は今日、もう予定とか全部決めてるのか??」


「予定は決めてないけど、どうするかは決まってるだろうなーー」


不機嫌な穂高は、話題が変わっても態度が変わらず、武志の質問に答えはするものの、その返事に生気が感じられなかった。


穂高の生返事に、武志は臆することなく、穂高の言葉には興味があった為、続けて会話をする。


「予定は決まってなくて、どうなるのかは決まってるのか?

――――なにそれ、謎謎??」


「謎謎じゃねぇよ。

――てか、お前も決まってるだろ? 文化祭初日は……。

お前が一番、乗り気で楽しみにしてる事だったし」


穂高は少しずつ、武志の分からない部分を、明らかにしていったが、結局武志にソレが伝わる事は無く、呆れた穂高は、具体的に答え始める。


「愛葉 聖奈(あいば せな)達と回るんだろ? 文化祭……。

武志と瀬川(せがわ)、俺の男子3人と、聖奈とその友達2人の計6人で」


穂高が話すと、武志は「あぁ~~」と思い出したかのように呟いたが、まだ何かピンと来ていないのか、不思議そうな様子で、穂高に疑問を投げ返す。


「あれ? でも、今日一日中じゃないだろ??

午後は俺らのクラス、劇の出番あるし、せいぜい午前中ぐらいの話しなんじゃないのか?」


「は? 午後もだろ??

――俺は聖奈からそう聞いてたけど……?」


武志の考えと穂高の考えに食い違いが生じ、穂高は、文化祭前から聖奈に言われていた事を、思い返していた。


(確か、聖奈の友達二人も、瀬川と出来るだけ回りたいとかで、初日は出来るだけ6人の団体で回るとか、言ってたよな……。

瀬川も前日にそんな事言って、少し憂鬱な雰囲気出してたし……)


女性が苦手な瀬川とも、文化祭前日に、団体で回る事の話をしていた穂高は、それも含めて思い返し、武志の様子を見て、疑問に感じた。


「武志には何も言ってなかったのか? 聖奈達は」


「え? んん~~、聞き逃したかな?

まぁ、瀬川も穂高も一緒なら、俺も午後はご一緒差せて貰おうかなぁ~~」


穂高達はお互いに、少しの違和感を感じながらも、武志はそこまで深刻に捉えず、「ゲへゲヘ」と奇妙な笑い声を出し、よからぬ妄想を繰り広げた。


楽観的な武志を見て、穂高もそれ以上、その違和感に関して考える事も無く、妄想を始めた武志から視線を切り、クラスの他の集団へと視線を向けた。


文化祭当日という事もあり、ほとんどの生徒が早くに登校しており、仲良しグループで固まり、クラスには、いくつもの集団が形成されていた。


そして、そのクラスの中で一際大きく、存在感のある集団へ、穂高は視線を向ける。


穂高が向けた視線の先には、春奈(はるな)の姿があり、春奈の集団には、他のクラスの生徒の姿も見受けられ、クラスの人気者ばかりが集まっていた。


(――なんか、文化祭準備を経て、より一層に仲が深まってる感じあるよな……。

特にあの集団は…………)


春奈のいる集団には、いつもの見慣れた生徒、大貫(おおぬき)や四条 瑠衣(しじょう るい)だけでなく、この文化祭で、劇を完成させる為に、主要として動いていた、功労者的な生徒達も多く見受けられた。


春奈のいる集団は、まさしく苦労を共にし、より友情が深まった、そんな雰囲気を感じ取れた。


(クラスの仲が良いのは、良い事だな……。

――春奈の顔色も良さそうだし、大貫の練習に付き合った事と、放課後の練習を削った事は、無駄じゃ無かったか…………)


VTuberデビューを控える春奈に、穂高がしてやれる事は、ほんのわずかでしかなく、効果があったかも分からなかったが、忙しい時期である春奈に、目に見える疲労が出ていない事は、穂高にとって安心できる事であり、嬉しい事実であった。


穂高は少しの間、春奈を取り囲む集団を見つめていたが、その集団を見て、春奈をどこか遠い存在に、そんな感覚を覚えた。


(――いやいや、元々四天王だとか呼ばれて、クラスどころが、学校中で人気物の春奈に、今まで接点があった方が変だよな……。

なんだか、ここ最近は、一緒にいる事が多くて、感覚がマヒして来てたけど、この立ち位置がごくごく普通、当たり前なんだよな)


一瞬でも春奈を遠い存在だと感じた穂高は、すぐにふと我に返り、遠い存在だと感じた自分の気持ちを、ばかばかしく思い、春奈がいる集団から視線を外した。

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