第197話 姉の代わりにVTuber 197


静香(しずか)と会話を交わしたその晩。


穂高(ほだか)は、先日相談した相手である佐伯(さえき)と、通話を繋げていた。


「――穂高君、こないだの相談だけど、許可取れたわよ?」


「ホントですか!?

大分、無理言ったんですけどね……」


「ホントよッ!!

しかも、美絆(みき)にも許可取ってなかったでしょ? 穂高君……」


穂高が先日お願いした相談は、佐伯の報告により、無事受理され、許可を取る為に、佐伯が頑張った事は、穂高にはよくわかっていた。


「まっっさか、リムを使って、春奈ちゃんのデビュー前の土台を作りたいって言うとは……」


「すいません。

――許可取って貰ったのは、ありがたいですけど、やっぱり無謀ですかね??」


相談をした穂高であったが、100%成功するとは思っておらず、勿論、成功させる為に、尽力するつもりであったが、自信があるとは言えなかった。


「今更だよ……、穂高君……。

もう許可取っちゃったし、やるしかないよ!!

――それに、もし無理そうなら、私も案を通してないわけだし」


「――――そうですね、やるしかないですよね」


佐伯の言葉に、穂高は覚悟を決め、佐伯は本題を切り出す。


「それじゃあ、穂高君jの案についてだけど、確認してもいいかな?

――まず、今後のリムの配信にて、新人である春奈ちゃんの話題を、色々と出して漏らす。

美絆と春奈ちゃんは交流があるし、リアルでの知り合いって事で、リスナーにどんな人かっていうのを説明してもらう。

まぁ、美絆も交流は浅いから、そこは穂高君に協力して貰う形で……」


「エピソードならいくつも用意しておきます。

なるべく、春奈の人柄や性格、キャラが分かるようなもので」


「うん! それから、デビューまでの事でだけど…………」


穂高と佐伯は、念入りに打ち合わせを行い、久しぶりに細かく打ち合わせをした事で、穂高はリムの成り代わりを行った、当初の事を思い出し、難しい問題ではあったが、対策を行う事を楽しくも感じていた。


 ◇ ◇ ◇ ◇


日が経ち、文化祭二日前。


穂高(ほだか)は、自分が招いた影響もあり、準備期間は忙しく過ごした。


大貫(おおぬき)の代役から始まり、その後、大貫が復活するや否や、今度は大貫の演技指導を行い、指導は文化祭三日前まで及んだ。


そんな、日々を送った穂高は、久しぶりの、暇な時間を過ごしていた。


夜の22時、美絆はリムの配信を自室で行っており、穂高はリビングへと向かうと、そこには静香(しずか)の姿があった。


「――最近、家にいるな? 仕事落ち着いたのか??」


リビングのソファで寛ぐ静香に、穂高は台所へと向かいながら、声をかけた。


「んん? あぁ、穂高。

――そうね~~、今はもう落ち着いたかな??

こっちでやれる事も終わったし、そろそろあの人の元に戻ろうかな? なんて考えてる所ね」


静香はゆったりと、リラックスした様子でそう告げ、穂高に日本を再び発つ事をほのめかした。


静香の言うあの人とは、穂高の父であり、静香が日本にいない主な理由は、父のサポートをする為であった。


一般家庭であれば、かなりの大事であったが、既に何度も同じ経験をしている穂高は、特段驚く様子は無く、日本での仕事が落ち着けば、再び海外に行くだろうとは思っていた。


「ごめんね~~、駄目な母親で…………」


「別に、謝る事無いよ。

親父も母さんも、十分すぎるくらいに、俺たち姉弟が生活できるように、お金を入れてくれてるわけだし、姉貴は既に自分で生計立てて、俺ももう高校生だしな?

――母さんが親父から離れられないのも、よく知ってるし……」


普段ふざけた様子で話す静香が、しおらしく真面目に話しているのを見て、穂高も自分の思う本心をそのまま伝えた。


「――そう…………。

なんだか、気付けば二人共大きく成長してて、お母さん、嬉しいやら寂しいやら……」


「どんなに期間が開いても、二年内に帰ってくるんだから、そんなに変化感じないでしょ??」


「感じるわよ~~! 特に、大人になるまでの年頃は~~。

前回、日本に帰ってきたのは、ちょうど一年前でしょ?

体も心もどんどん、大人びてるわよ? 特にアンタは……」


穂高は他愛無い会話をしているつもりだったが、静香は思うところがあるのか、感慨深そうに話していた。


穂高は会話の中で、リビングに訪れた目的である、冷蔵庫に入れた自分の飲み物を取り出し、台所で小気味いい音を立てながら、缶ジュースを開けた。


「――最近、お母さん、家にいる事が多くて、その中で気付いたんだけど、穂高、今、何か面白そうな事やってるでしょ??

お母さんにそれ、教えてよ」


台所で飲み物を飲みながら、リビングにあるテレビを眺めていた穂高に、静香は別の話題を投げかけた。


「面白そうな事??

――あぁ、まぁ別に面白くは無いんだけど……」


「えぇ~~? そう??

最近の穂高は、ここ最近、いや、前回日本に戻ってきた期間も含めて、一番イキイキしてるわよ?

まるで、お父さんみたいに」


普段、掴みどころが無さ過ぎて、怖い印象すら感じる静香だったが、今はその雰囲気が全くなく、一人の母親として、どこまでも穏やかに、そして楽し気に、穂高に続けて尋ねた。


「そうか?

でも、確かに段々と楽しくは、なってきてたのかも……」


「へぇ~~。

それってもしかして、こないだ言ってた文化祭に関係する?」


「文化祭も関係するな。

色々あって、主演の演技を面倒みる事になって……。

最初は、自分の為と、友達の為に動いてた部分があったけど、意外にも、飲み込みの良さとセンスがあってさ?

教えていく中で、そいつの成長を見る楽しさがあったかも……」


穂高は、大貫との練習の日々を思い返し、穂高を含め、最初はいやいやで行っていた大貫も、どんどんと意欲的になっていっていた。


「――なるほどね…………。

穂高がそこまで言うのであれば、増々文化祭が楽しみになるわねッ!」


静香は、穂高に文化祭の見学を進められた時点で、何かあると思っていたが、穂高の話を聞き、俄然と文化祭に興味が沸いた。


しかし、静香はそれと当時に、一つ懸念点が思い浮かぶ。


「穂高は、演者として出ないの?」


「俺? 俺は出ないよ。

出役の才能は俺にはないし、母さんも知ってるだろ??」


リムの成り代わりを行う際に、静香に強く、配信者としての才を否定されており、その事を覚えている穂高は、今の静香の言動に、少し戸惑いを感じた。


「学際の演劇でしょ?

別に、プロの舞台でもないんだから、出たっていいじゃない。

母親として、息子の晴れ舞台は見たいものよ?」


「見たいって言われても、嫌だよ。 面倒だし……。

――それに、俺が出るよりも、母さん的には、もっと面白い物が見れると思うよ?」


「――――そう」


穂高は、劇に出る事をキッパリと否定し、穂高の放った最後の言葉に、静香は何故か、少し寂しそうに一言呟くように返事を返した。


いつもと明らかに雰囲気が違う静香に、穂高は静香の考えを、全て汲み取る事は出来なかったが、何となく考えている事は読め、続けて静香に言葉を投げかける。


「姉貴も母さんも、俺の将来について、色々思う所があるんだろうけど、もうあまり心配しなくていいよ?」


「――え?」


中々、口にできない話題を、穂高の方から切り出し、今までも、穂高の進むべき方向に関して、何度もぶつかる事があったが、穂高はこの短い期間で、何か、自分の芯となる部分を、つかみ取れそうな、そんな気がしていた。


茫然とした表情で、穂高を見つめる静香に、穂高は真剣な表情で話を続ける。


「段々と俺の『やりたい』事が、見えてきたような気がするんだ。

それは、母さんの言うように、俺に適してる事で、姉貴が危惧するような、母さんの言いなりになってる部分なのかもしれない。

――――でも、今は、自分の意志で、ソレをやりたいって思い始めてる」


「――――そ、そう……」


静香には、穂高が自分の思う、最良な道へと進み始めた様に思えたが、何故か素直に祝福する事が出来ず、静香は珍しく、穂高に対してなんと声を掛ければいいのか分からず、言葉が上手く出てこなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る