第200話 姉の代わりにVTuber 200
穂高(ほだか)に呼ばれ、息を切らしながら、春奈(はるな)が校門に辿り着くと、そこには不機嫌な穂高の姿があり、姉である美絆(みき)に文句を言っている最中だった。
「あのな? 母さんは呼んだけど、姉貴は呼んで無いだろ??
しかも、大型ゲストまで引き連れて……」
「いや~~、文化祭の話ししたら、二人共行ってみたいって……。
――あッ! 春奈ちゃんッ!!
やほ~~! 来たよ~~」
穂高に嫌味を言われていた美絆は、ちょうどその場に訪れた春奈に声をかけ、穂高との話題を変える為に、行動した。
「――あ、お姉さん……。
おはようございます!」
笑顔で手を振りながら春奈に声を掛けた美絆に対し、春奈も明るく返事を返し、春奈の姿を確認した穂高は、ため息を一つ付いた後、穂高も春奈に話しかける。
「悪いな、春奈。
文化祭回ってる所で呼び出して……」
「あぁ、ううん! 良いよ別に。
困ってたんでしょ? 穂高君」
「困ってた。 いきなり来るなり校内案内しろとか、連絡来たからな……」
疲れた様子の穂高に対し、春奈は苦笑いで答える事しか出来ず、そんなやり取りをしていた二人に対し、穂高が大物ゲストと呼ぶ、唯(ゆい)と翼(つばさ)が、今度は話し掛けてきた。
「やほ~~ッ! 春奈!
春奈の学校の文化祭は、派手だねぇ~~?」
「一週間ぶりですね、杉崎(すぎさき)さん。
今日は、よろしくお願いします」
唯と翼は、穂高と美絆が会話をしている際も、桜木高校の文化祭に魅了されており、春奈が訪れ、穂高と会話を交わした所でようやく、会話に入ってきていた。
「唯さん、lucky(ラッキー)先生、こちらこそわざわざ来てくれ、ありがとうございます!」
春奈が簡単な挨拶を交わした後、唯も翼も、文化祭に興味がありありなのか、オススメな催し物に関して、春奈に尋ね始め、穂高と美絆も含めて、文化祭の話題で会話が弾んだ。
あてなく、校舎に向かい歩きながら、穂高達は会話をし、ある程度、文化祭の回る順番が決まった所で、隙を見て、春奈が穂高個人に、個別で話を振る。
「――ね、ねぇねぇ穂高君。
穂高君、抜けて来て大丈夫だったの?
あ、愛葉(あいば)さん達と、文化祭回るんじゃなかった??」
「え? あ、あぁ、ちょっと手間取りはしたけど、今度埋め合わせをするって約束で、今日は抜けさせてもらった。
前々から約束してたし、断るのも罪悪感凄く感じたよ…………」
穂高は、つい先程の出来事を思い出し、疲れた様子で春奈の質問に答え、穂高のそんな気苦労をおもんばかってか、春奈は苦笑いを浮かべた。
そして、春奈の質問に、素直に答えた穂高だったが、質問に答えた後から、春奈の質問に関して、違和感を感じ、今度は穂高から、その違和感をそのまま口にし、春奈に尋ねる。
「――――ん? ってゆうか、俺が聖奈達と回るって、話したっけ??」
「え!? あ、いや、聞いては無いけど、そうなのかなぁ~~って……。
最近、仲良さそうだしさ? 穂高君」
「仲……、まぁ、確かに悪くは無いな…………」
春奈の言葉に、穂高は特に思考を巡らすことなく、淡々と事実を答え、穂高の言葉を聞き、春奈は勝手に落ち込んだ。
隙を見て話しかけた春奈だったが、穂高との二人きりの会話は、長く続く事が叶わず、穂高に対して唯が声を掛ける。
「ねぇ、穂高~~。
穂高と春奈ちゃんの劇は、何時から何だっけ??」
「14時半からスタート。
大体50分くらいの長さだな」
唯の質問に答えた穂高に、翼は疑問を持ったのか、今度は翼から質問が投げかけられる。
「50分? ロミオとジュリエットですよね??
短いような気がするのですが……」
翼からの質問に、同じクラスである春奈も、自分のクラスの出し物に関して、説明する。
「体育館で発表形式で催し物を行うクラスや部活、クラブに関しては、使用時間が決められてるんです。
クラスでの発表に関しては、50分程度。 部活動の発表は40分。
更に小さい団体、クラブや有志による発表に関しては、30分と決められてます」
「時間が決められてる以上、俺らの劇もその時間に収めるよう作ってるんです。
多分、先生が知ってるロミオとジュリエットよりも、端折られてる内容かもしれないです」
春奈の説明に、穂高が補足する形で、翼の質問に答え、二人の説明を聞き、翼は首を数回縦に振り、納得するようなしぐさを見せた。
「有志ってどんなのがあるの??」
「――う~~ん、色々ですけど、バンドが多いかもしれないですね。
後、変わり種で言うと、漫才とか??」
「漫才!? 面白そう!!
それも回りましょうよ! 美絆さん!」
春奈の答えに、興味の引く物があったのか、唯は楽しそうにそう告げ、美絆もノリノリで、それを承諾した。
こうして、穂高と春奈は、なし崩し的に、文化祭の案内役を行う事になり、穂高はイヤイヤな部分もあったが、春奈は一緒に回りたかった、穂高と文化祭が回れる事は勿論、尊敬する『チューンコネクト』の先輩、美絆や同期になる唯、自分のキャラクターを生み出してくれる翼と回れる事に、とてつもない嬉しさを感じていた。
春奈は溢れる高揚感を胸に秘め、穂高達の後に続いていった。
◇ ◇ ◇ ◇
「いや~~、激こわだったねッ! 春奈ちゃんッ!!」
お化け屋敷から出てくるなり、開口一番に唯は、春奈にそう感想を述べ、春奈も唯の意見に賛同する。
「――ちょ、ちょっと、怖すぎて、途中、足が震えちゃったよ……」
「アハハハッ! 春奈ちゃん、意外にビビりだねぇ~~?
私よりも身長高くて、クールな見た目してるのに」
「見た目は関係ないよ……」
想像以上に、お化け屋敷にやられてしまっている春奈を見て、唯は楽しそうに笑顔を浮かべ、春奈は疲労困憊といった様子で、言葉を返していた。
二人一組、あるいは三人一組の案内となっていたお化け屋敷に、春奈と唯は二人で入っていき、春奈達のグループの後に、穂高、翼、美絆の三人一組で、お化け屋敷に入っていた。
お化け屋敷出口で、感想を話し合う春奈達に、遅れて穂高達のグループが、出口から姿を現し、美絆はゲラゲラと笑い声をあげながら、翼は眉一つ動かさずに真顔で、出口から出てきていた。
穂高は、少し疲れた様子で、出口から現れ、開口一番に、春奈達に感想を話し出す。
「メンバー分けを間違えたな。
先生はビビるどころか、お化け屋敷のセットに興味持つは。
姉貴は、脅かしに来るお化けに、いちいち爆笑するわで、雰囲気もクソもあったもんじゃない……」
「しょうがないじゃん~~、ビックリして思わず笑っちゃうんだから~~」
愚痴を言う穂高に、美絆は弁明するように声を上げるが、美絆の答えに、穂高が納得することは無かった。
「何度だよ、その特異体質は……」
「ムッ……、なんですか、穂高さん。
お姉様の悪口ですか?? 私の前で……。
許しませんよ?」
呆れた口調で話す穂高に、美絆の悪口に聞こえた翼が食って掛かる。
翼のそんな反応にも慣れてるのか、穂高は取り乱すことなく淡々と対応し、穂高の愚痴に、今度は唯が反応を返し始める。
「なぁ~にぃ~~~? 穂高。
もしかして、お化け屋敷で、キャー怖い~~って、女の子に抱き着いて貰いたいタイプ~~??」
「ホントですか? 穂高さん。
軽蔑します」
ニヤニヤと笑みを浮かべ、穂高をおちょくるように話す唯と、唯の言葉に、翼は冗談ではなく、本当に軽蔑した様子で、冷たい視線を穂高に飛ばした。
「別にそういう願望が無いわけじゃないけど、お化け屋敷は、一緒に怖がってくれた方が楽しいだろ??」
「へぇ~~~?? 願望無いわけじゃないんだぁ~~。
穂高のエッチぃ~~」
「次、お化け屋敷に誘ったら、警察呼びますね??」
お化け屋敷の楽しみ方を説いたつもりの穂高だったが、唯と翼には真意が伝わらず、間もなく穂高は、変質者へとまつり上げられた。
唯と翼に言いたい放題にされる穂高に、美絆は楽しそうに笑みを浮かべ、春奈も、穂高を気の毒に思いながらも、楽しい雰囲気につられ、自然と笑みが零れた。
「春奈ちゃんと回れた私は楽しかったよぉ~~??
怖いから、ほとんどお互いに抱き合ってたし。
羨ましぃ~? ねぇ、羨まし??」
「しつけぇ」
まだまだ穂高を煽る唯に、穂高は釘を刺し、そんな明るい雰囲気をそのままに、穂高達は、お化け屋敷を後にした。
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