第195話 姉の代わりにVTuber 195


 ◇ ◇ ◇ ◇


昼休み。


大貫(おおぬき)が学校に復帰したその日、春奈(はるな)は、大貫等の仲良しグループで、昼食を取っていた。


「俊也(しゅんや)~~~ッ! この忙しい時期に休まないでよねぇ~。

まったくッ!!」


「いやぁ~~、悪い悪いッ!」


菊池 梨沙(きくち りさ)が、不満そうに大貫にそう言い放つと、大貫は悪びれる様にして答えた。


大貫は復活してから、何度か、人を変え、似たようなやり取りを行っていたが、梨沙からの言い分も、面倒くさがる事無く対応した。


「寂しかったか?? 俺がいなくて?」


「なわけッ!

うるさいのがいなくて清々したよ!」


他愛の無い話を、梨沙と大貫は続け、他の物達も、所々に茶々を入れつつ、会話を楽しんだ。


大貫中心の会話がしばらく続き、春奈はそんな話を聞きつつ、偶に集団から目をそらし、昼休み中、ずっと気になっていた、自分のいるグループから離れた位置に陣取る、一つの集団を気にかけていた。


「気になる? ハル??」


春奈のちょっとした視線に気が付いたのか、集団の中で、瑠衣(るい)が個別に、春奈に話しかけた。


「え? な、なにが??」


「――もう、誤魔化しても無駄だよ!

朝からチラチラと見てたでしょ? 天ケ瀬(あまがせ)君の事」


瑠衣に指摘され、春奈は一瞬、少し顔を赤く染めるも、すぐに何かを思い出したかのように、表情を暗くさせる。


「なに? なんかあったの??」


春奈の様子に、瑠衣が気づかないはずもなく、すぐに春奈に尋ねた。


「いや……、別に、何もないよ。

――ホントに、最近は何にもない」


「――――ハル……」


春奈は、瑠衣の質問に答えながら、どんどんと暗くなり、春奈のそんな様子を見て、瑠衣は心配そうに呟いた。


春奈の恋心を知っている瑠衣は、今の春奈と穂高(ほだか)の状況を良い状態とは言えず、穂高が全体練習を拒んだその日から、俄然と二人の交流は減り、放課後に二人で行っていた劇の練習も、練度が上がった為か、ここ最近は行っていなかった。


(――天ケ瀬君、最近、全然ハルと交流無いし……、あんなことがあって、天ケ瀬君、少しクラスで浮いちゃうし……、話しかけずらいし……。

そのわりには、どんどんと愛葉(あいば)さんとは、仲良くなってるもんね……。

教室で楽しげに、話してるの見せつけられちゃ、キツイよね……)


何も語らない春奈だったが、瑠衣は、自分なりに春奈の心情を察し、最近、春奈が何か、忙しそうにしており、疲労も溜まっている事から、余計に心配になっていた。


「――ね、ねぇ! ハル? 

こ、今度さぁ? 天ケ瀬君を遊びにッ…………」


落ち込む春奈に、瑠衣が提案しかけたその時、瑠衣の声を遮り、大貫が春奈に話しかける。


「なぁ? 春奈。

今日の練習、ビックリすると思うぜぇ!

何しろ、俺は、休んでる時間も特訓してたからなッ!!」


瑠衣の声はかき消され、春奈に話しかける大貫は、自信満々の活気あふれる様子で話しかけていた。


「俊也が特訓? ホントに??」


「疑ってるなぁ~、 お前~~。

見てろよ? きっと驚くぜぇ!!」


疑う視線を向ける春奈に、大貫はムっとした表情を浮かべつつ、大見得を切った。


そんな、春奈と大貫のやり取りを見ていた梨沙が、今度は口を開く。


「驚くでも何でも良いけどさぁ~~、ようやくホッと安心できるよ、私は……」


「安心??」


ため息交じりに話す梨沙に、大貫は不思議そうに首をかしげながら、理由を尋ねた。


「いやね? アンタがいない間、色々大変だったんだってぇ~~。

代役立てたり、劇の練習方針を巡って、クラス内でちょっと揉めたりさぁ~~」


梨沙の話す内容と口調に、春奈は胸に、鋭い痛みが走った。


「揉めた?? 何それ」


事情を知らぬ大貫は、自然の流れで梨沙に聞き返し、梨沙も素直に答え始める。


「いやね? アンタの代役を立てて、全体練習をするって事になって、その代役に天ケ瀬君が選ばれたんだけど……。

全体練習の時間が長くて効率悪いって、リーダーと揉めちゃって……」


「え? 天ケ瀬がそんな事言ったのか??」


大貫の思い描く穂高と、梨沙の話す穂高のイメージの違いに、大貫は驚きの表情を見せた。


「――――それで、結局その日以降、放課後の練習時間を一気に減らしてね??

まぁ、数日間、私は早く帰れる日が出来て、ありがたかったけど……、クラスの輪は乱す事になっちゃったよね……」


「へぇ~~、そんな事が……」


梨沙は続けて、大貫のいなかった時期のトラブルを話し、梨沙の話を全て聞いたところで、大貫は興味深そうに相槌を打った。


そして、大貫以外が知る、トラブルの一連の流れを話し終えた梨沙は、その事件に関する、別の噂について話し始めた。


「でね? ここからが興味深い話なんだけどさ?

天ケ瀬君が早く帰りたがったのって、すごい理由があるんじゃないかって!」


穂高の話が終わると思っていた春奈は、梨沙の話題の振りように、少し戸惑いつつ、梨沙の口調から、穂高に関する重要な事である事から、会話を止めはしなかった。


「すごい理由??」


「そう!! 聞いて驚かないでよ??

――実はさ? 天ケ瀬君と愛葉さんが、付き合ってるんじゃないかって!!」


梨沙は今日一番に楽しげな様子で、宣言するように話し、梨沙の言葉を聞いた春奈は、今度は胸が締め付けられるような、そんな感覚に陥る。


「穂高と愛葉さんが??」


「そうッ!! 最近、仲良いじゃん? あの二人。

――それに、私の友達がさ、放課後二人で、制服姿で街中にいるところを見たってッ!

それって、制服デートじゃないッ!?」


梨沙の言葉が信じられないのか、ここで初めて穂高の友人である楠木 彰(くすのき あきら)が口を開き、不審がる彰に対して、梨沙は自分が持ちうる情報を、素直に伝えた。


そして、梨沙の言葉に、今度は大貫が反応する。


「あ、そういや、あの二人、一緒に俺の見舞いに来たな……」


「え?? 何それ、見舞い??

なんで、天ケ瀬君と愛葉さんがアンタに見舞いに行くの?

――てか、二人で??」


大貫は素で、最近会った事を思わず口に出し、大貫に話した支離滅裂な言葉に、梨沙は大きく戸惑った。


梨沙の反応を見て、大貫はようやくヤバいという表情を浮かべるが、すぐに取り繕うように、弁明をした。


「いやほら、天ケ瀬、俺の代役をやってくれてたんだろ??

代役の練習をする中で、変更になった所とか纏めてもらった、台本を届けに来てもらってさ?」


「あぁ~~、なるほど……。

そん時に二人だったの??

じゃあ確定じゃんッ!!」


「――そ、そう? 確定は言い過ぎなんじゃない??」


何故か喜ぶように言い放つ梨沙に、瑠衣が春奈を気遣うように、反論した。


「えぇ~~、確定でしょ?

今もほらッ! 一緒にいるしさ??」


梨沙はそう言いながら、穂高の方を指さし、大貫達は穂高の方へと視線を向ける。


梨沙と大貫、そして現状を見て、瑠衣と春奈以外が、確かにと納得し始めた所で、春奈が急にその場から立ち上がる。


「――ご、ごめん! ちょっとお手洗いに行ってくる」


春奈は、無理な笑顔を浮かべ、大貫達にそう宣言すると、すぐにその場から離れて行った。


春奈の行動は一見、不自然にも見えたが、気に留める程でもなく、事情を知る瑠衣だけは、心配そうに春奈の後姿を見つめていた。

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