第十二章 進む道

第194話 姉の代わりにVTuber 194


 ◇ ◇ ◇ ◇


「復活ッ!! 久しぶりだな! お前ら!!」


穂高(ほだか)が佐伯(さえき)に頼み事を終えた数日語、療養期間を終えた大貫(おおぬき)が、元気に学校へ登校して来た。


大貫の登校は、クラスメイトのほぼ全員から歓迎され、文化祭真近という事もあり、余計に盛り上がった。


大貫の周りには、立ちどころにクラスメイトが集まり、穂高はその光景を端から見つめていた。


「――復活したらしたでうっとおしいな、アイツは……」


穂高は悪態を付きながらも、安心した表情を浮かべ、あまり凝視する事でもない光景である為、すぐに視線を切った。


「ほ・だ・か・く~~んッ!! おはよ!」


穂高が読書でもしようかと、鞄に手を掛けた所で、聖奈(せな)が気分よく挨拶をしてきた。


「おはよ、聖奈……。

読書するから、アッチ行っててくれ」


「冷たすぎッ!」


高齢になりつつある、朝の聖奈とのやり取りに、穂高は、聖奈の扱いにも慣れてきた事もあってか、最近は軽くあしらうようにして、聖奈に返事を返した。


そして、聖奈も穂高の性格や言動に慣れて来たのか、冷たくあしらわれながらも、言葉通りにその場から離れる事は無く、穂高の隣に椅子を並べ、席に着いた。


「何読んでるの??」


「小説。

暇つぶしに読んでるから、別に大したものじゃないよ。

意識高い系?みたいな本じゃない」


「ふ~~ん、そうなんだ」


穂高は聖奈が来たことで、本を読むのを諦め、聖奈は軽く相槌を返した。


そして、穂高が読書を止めた事を確認すると、聖奈から世間話を始める。


「帰って来たね~~、大貫……」


「そうだな」


人場群がる集団を見つめ、声の抑揚なく、つまらなそうに話す聖奈に、穂高は相槌を打った。


聖奈の漂わせる雰囲気に、穂高は不思議に感じ、聖奈は会話を続ける。


「なぁ~~んか、つまんないよねぇ~~? 文化祭」


「は? なんで??」


「――だってさぁ~~? 大貫が来るまで色々、各方面を手伝ってたのは、穂高君じゃん。

それがさ? 主役が来ればこの盛り上がり…………。

やるせないって言うかさぁ~~」


聖奈は依然として、つまらなそうにそう告げ、唐突な話題に困惑していた穂高は、聖奈の言葉を聞き、彼女の言わんとしている事が何となく分かった。


「なんで聖奈が、やるせなくなってるのかは、知らないけど、そうゆうもんだろ?

俺も大貫が来て、一先ずは安心したし、主役は、アイツだからな」


穂高は、嘘偽りない本心を告げるも、穂高の答えに納得がいっていないのか、聖奈は不満げな表情を浮かべる。


「穂高君、マジでドライだよねぇ~~。

そうゆう所、嫌いじゃない……、むしろ、好きなんだけど……。

周りの扱いに納得がいかないって言うかさぁ~~」


「なんでイライラしてんだよ…………」


「穂高君がそうゆうスタンスだからだよッ!!」


呆れ気味に呟く穂高に、聖奈はより不満が溜まったのか、強く反発した。


聖奈から一方的に交流を持ちかけてくる為、穂高と聖奈の仲は、自然と深まり、ここ最近の聖奈は、穂高に対して、より本音で容赦ない言葉を掛ける事が多かった。


「あのさぁ!? 穂高君!

穂高君は、クラス劇に協力した挙句、前にあんなことがあって、未だに一部の生徒とギクシャクしてるじゃん!!

余計な仕事押し付けられて、それに出来るだけ応えたのに、ちょっと衝突したからって、クラスで変に浮いてさぁ~~~」


穂高の態度のせいもあって、聖奈の不満は爆発し、その聖奈の不満は穂高に向けられた。


「――あれはどう見たって、端から見たら俺が、我儘言ってるようにしか見えないからな?

一応、その後、和解はしたつもりだけど、前よりギクシャクするのは、しょうがないだろ」


「しょうがなくないでしょ?

――ってゆうか、クラスのみんな、大貫の練習に、穂高君が付き合ってあげてるの知らないでしょ??」


「知らないだろ、言ってないし…………」


「それもムカつくッ!!」


淡々と答え、どうにか聖奈が、落ち着いてくれないかと考える穂高に対し、一緒に怒りを表してくれない穂高に、余計に聖奈は、どこにもぶつけられない不満が爆発した。


やいやいと怒りを示す聖奈に、穂高は溜息を一つ付いた後、聖奈に向かい本音を話始める。


「別に、クラスから完全に孤立したってわけでもないし、いじめを受けてるわけじゃないんだからいいだろ?

それに、武志(たけし)や瀬川(せがわ)は、相変わらず接してくれるし、お前だって、何かと気を掛けてくれてるんだろ??

感謝してるし、お前たちが変わらず話してくれるだけで、俺はいいよ」


聖奈の怒りを鎮める為でもあったが、穂高は自分の本心を素直に伝え、聖奈は穂高の言葉に、驚いた表情を浮かべ、一瞬硬直した。


聖奈のそんな驚いた様子に、穂高は違和感を感じたが、その違和感について考える間も無く、次の瞬間、聖奈が抱き着いてきた。


「ほ・だ・か・君~~~ッ!!

そうだよねぇ~~? ウチらだけで、駄弁れたらそれでいいよねぇ~~??」


「ッ!! お、おいッ! 抱き付くのはやめろって!!」


無防備に、異性に抱き着いてくる聖奈に、穂高は慌てふためき、そういったやり取りをしている中でも、お世辞にも慎ましいとは言えない、聖奈の胸が押し当てられる。


「――あッ! ご、ごめんごめん……。

穂高君、嫌だったよね、こうゆうの…………」


穂高の声を聞いた聖奈は、抱き着く途中、我に返り、すぐに穂高の言う通り、抱き付くのを止めた、


知り合った当初は、こうしたスキンシップを聖奈の方から、よく仕掛けてきていたが、ある時を境に、聖奈のそうしたスキンシップは、極端に減っていた。


「嫌われたくないし……、最近控えてたんだけどなぁ~~……」


穂高から離れた聖奈は、後悔するように小声でそう呟き、誰にも聞こえないように呟いた為、穂高の耳に届くことは無かった。


そして、穂高と聖奈はその後も、会話を楽しみ、時間が経つにつれ、登校して来た武志や瀬川、聖奈の友人を踏まえ、朝礼がなるまで談笑していた。

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