第193話 姉の代わりにVTuber 193


大貫(おおぬき)との練習を終え、穂高(ほだか)は、休憩を少し取った後、今度は別の人物と、通話にて連絡を取っていた。


「――お疲れ様です、佐伯(さえき)さん。

夜分にすいません」


時計は夜の23時を回り、事前にアポイントを取っていたとはいえ、電話をするには、失礼にあたりかねない時間だった。


「いいよ! 別に元々約束してたわけだしね? 

それに、もう家に帰って、家事も終えてフリーな時間だから……」


気遣う穂高に対して、佐伯は、リラックスした口調で、穂高に返事を返した。


そして、穂高との通話をしながら、趣味であるソーシャルゲームを始める。


「それで? リムの成り代わりをしてる全盛期にも、こんな夜中に連絡してくる事は無かったのに、一体どんな相談があるのかな??」


「――相談……は、追々に……。

それより、春奈の方はどうですか? 順調です??」


「ん? あぁ~~、まぁ、デビュー前の流れに関しては、ウチらもプロだし、問題は無いわよ?

バックアップしてあげれば、春奈ちゃんもやる気満々だし、デビュー事態は問題なく出来ると思う」


「そうですか……」


穂高の質問に、佐伯はラフな感じで答え、佐伯の言葉を聞いた穂高は、ホッと胸を撫で下ろした。


「佐伯さんから見て、どうですか? アイツ……」


「う~~ん、まだ何とも……。

春奈ちゃん、素質は間違いなくあるとは思うわよ?

今までデビューしてきた、『チューンコネクト』のみんなと遜色ない程に。

――ただ、今回は素質があるってだけで成功する状況じゃないし……、私もこんなシチュエーションでの新人は初めてだから、どう転ぶか…………」


穂高の質問に、佐伯の声色は芳しくなく、佐伯は難しい表情を浮かべていた。


佐伯のそんな意見を聞き、穂高は一呼吸置いた後、意を決したように、佐伯に発言する。


「佐伯さんって、まだ春奈の売り出し方とか、キャラクター性について纏まってないですか??」


穂高は、本職である佐伯に、失礼にあたるかもしれないと思いつつも、今回電話をした本題を話す上で、聞かなければならない事であった為、勇気をもってそれを発言した。


「売り出し方なぁ~~……。

春奈ちゃんは、キャラを作るようなタイプじゃないし、巣で売り出していきたいなとは思ってるけど」


穂高は、佐伯の考えを聞き、春奈のVTuberデビューに関して、自分の考える方向性は同じだと感じ、少しだけ緊張していた穂高の声色は、明るくなる。


「俺も同じ意見です。

確かに、最初からキャラクター性を作ってやれば、すぐにどんな人か、視聴者には分かりやすいし、取っ付きやすいですけど、春奈は素で配信をした方が良いタイプだと思います」


穂高の意見に、佐伯が「そうだねぇ~」っと軽く肯定すると、穂高は続けて自分の意見を述べる。


「春奈の売りは、要領の良さです。

頭もいいし、気も回るから配信の進行はストレスなく進行できます。

――配信の練習もしてきたんで、デビューをしても、そつなく配信自体は出来ると思います」


「そうね。

オーディションで送られたDVDは見たし、穂高君が、色々手助けしてくれたんでしょ?

春奈ちゃんをここまで育ててくれて、ホントに感謝してるよ」


穂高の話す内容は、佐伯も十分理解しているのか、淡々と返事を返し、そんな佐伯に対して、穂高は春奈の配信スタイルに関して、本題を切り出す。


「――春奈は、元々個人で配信をしてたんじゃないかってくらいに、上手くやれてます、

でも、そんな春奈ですけど……、アイツは俗っぽくないっていうか……、染まってないんですよ」


穂高の言葉に、佐伯はソシャゲの手を止め、穂高の話す言葉の意味を聞き返す。


「どうゆう事??」


ラフな感じで応答していた佐伯の声は、少し真剣さを帯び、具体的な説明を求める佐伯に、穂高は返事を返した。


「オタクじゃないんですよ、アイツ。

想像以上に!」


「ふ~~ん、続けて」


「春奈から直接聞いたわけじゃないんですけど、多分、『チューンコネクト』にハマったのは、そんなに昔の事じゃないと思います。

『チューンコネクト』には、詳しいですけど、オタク知識には乏しい。

ゲームや漫画、アニメといった物をあんまり知らないんです」


佐伯と春奈は、まだまだパートナーを組んで数日である為、春奈に関して佐伯は詳しくなく、穂高のもたらす春奈の情報は貴重だった。


「『チューンコネクト』はゲーム実況が多いです。

春奈の好みは、雑談配信かもしれないですけど、染まってない奴のゲーム実況は、需要あると思います。

俺の知る限りでも前例はありますし、春奈みたいなタイプは、今の配信界隈では、すごく貴重です」


「なるほどね~~」


佐伯の中で、春奈の売り出し方に関して、何か考えがあったかもしれないと穂高は思いつつも、自分の意見を素直に伝え、穂高の言葉は、佐伯にとって興味深かった。


「穂高君は、春奈ちゃんは王道に売り出すべきだと、そう思うの?」


佐伯は、念を押す様に穂高に意見を求め、穂高は失礼と思いながらも、キッパリと意見を告げる。


「――――俺が、佐伯さんの立場ならそうします。

変にキャラ付けもしない、ピュアで等身大の若い女性として……売り出します」


「今なら、現役JKだしね?」


穂高の考えは、佐伯に上手く伝わったのか、電話越しに聞こえる佐伯の声色は、とても明るかった。


「88(ハチハチ)と春奈。

『チューンコネクトプロダクション』の社員の人は、どう思ってるか分からないですけど、俺は凄く相性良いとすら、最近は思います」


「えぇ~~~ッ!?!? 流石にそれは無いでしょ??

誰だって、大型新人の88と、デビューさせたいとは思わないと思うけど」


話しに盛り上がる穂高に、佐伯は釘を刺す様にそう反論したが、穂高は止まることなく、自分の意見を続けて述べる。


「大型新人としての88にも、弱点みたいのはあります。

まず、新人としては、ハチの名前が売れすぎてる事!

新しく、新人を応援したいと入ってくる視聴者は、既に形成されてるコミュニティには乗っかりずらいです。

どうしたって、ハチの古いノリや、既にある視聴者達の独特の空気が出ます。

新人お断りってわけではないでしょうけど、馴染めない可能性もある。

――対して、春奈は清い。

オタクじゃないから、そういった界隈の知識にも乏しいし、一つ一つ様々な経験を積んでいく春奈の姿は、新規にとって乗りやすい。

シンプルだから応援もしやすいです」


「なるほど…………」


穂高の考えに、佐伯は真剣に耳を貸し、関心するように相槌を挟む。


「最初は、ハチの方が知名度もありますし、どんな人物かも知れ渡ってるんで、差は出るかもしれませんが、ゆくゆくは、肩を並べられると、そう思ってます」


穂高は力強くそう述べ、一緒に仕事をしたことから、穂高に対して大きな信頼を寄せている佐伯は、自信有り気な穂高の言葉を聞き、今まで抱えていた不安が、少し取り除かれ、軽くなった感じがした。


「――穂高君の考えはよくわかった。

私も、穂高君の意見には、いくつも賛成できる部分がある。

――だけど、やっぱり最初のデビューからの勢いが、スタートダッシュが気がかりなんだよね……」


ここまで、春奈の事を会話したことで、佐伯は本音を零し、そんな佐伯に本音に、穂高はようやく相談を佐伯に切り出す。


「佐伯さん……。

その、春奈のデビューまでの事で、相談があります」


「相談……。

そうだったね、相談があるって言ってたね?

何かな??」


穂高は真剣な声色で、佐伯にそう宣言し、穂高に様々なアイデアを貰った佐伯は、素直に保坂の相談に関して、内容を尋ねた。

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