第190話 姉の代わりにVTuber 190
「――えぇ~~っと、ここって……、大貫(おおぬき)家?」
穂高(ほだか)の行き先が気になった聖奈(せな)は、結局目的地まで同行し、たどり着いた先は、クラスメイトの家と思わしき、一軒家だった。
「そう、大貫の家」
家の表札を見て話す聖奈に、穂高は端的に答えると、迷うことなく、チャイムを鳴らした。
「え? ちょ、ちょっとッ!?」
穂高の行動に、隣で戸惑う聖奈だったが、穂高がチャイムを押した事で、すぐにインターホンから反応が返ってきた。
「――は~~い、どちら?」
「大貫君のクラスメイトの天ケ瀬(あまがせ)です。
お見舞いに来ました」
インターホンからは、明るい女性の声が聞こえ、穂高はここに訪れた目的を、偽りながら答えた。
「わざわざありがとうッ
今行くわね!」
インターホンから聞こえた女性の声は、その言葉を最後に途切れ、数分も経たないうちに、玄関が開いた。
玄関が開き、姿を現した女性は、穂高達とそう年齢が変わらない若い女性であり、穂高は、大貫の姉弟かとそう思った。
「あら? カップルで??」
母親には見えない程、若い女性の登場に、穂高と聖奈は一瞬、驚き、対して、玄関から現れた女性は、見舞いに来たのが男女のカップルである事を、不思議そうに感じていた。
「あ、見舞いに来るつもりだったのは、私だけだったんですけど、彼女と一緒に下校する中で、成り行きで付き添って貰っています」
「彼女ッ!? やっぱり、彼女さんなのッ!?!?」
丁寧に説明したつもりの穂高だったが、恋人か尋ねられてる中で、『彼女』と呼ぶ掲揚はあまり良くなく、大貫の親族の女性を益々勘違いさせた。
そして、そんな状況に「しまった」と感じた穂高は、すぐに訂正しようとするが、そんな穂高よりも先に、聖奈が声を上げる。
「そ、そうですッ! カップルですッ!!」
訂正しようとした穂高を遮り、聖奈はそう発言すると、穂高の腕に、わざとらしく抱き着いた。
「お、おいッ……」
「――さっき揶揄ってきたお返しだからねッ?」
穂高が軽く振りほどこうとするも、聖奈はより一層に抱き着く腕を固め、眉を顰め、先程の、この場所に訪れるまでの、道中での事を指摘し、恨んでいるような素振りを見せた。
「子供か……」
「ふ~~んッ」
大貫の親族を前に、穂高と聖奈は小声でやり取りをし、不貞腐れたように、穂高から視線を外す聖奈は、少しこの状況を楽しんでいるようにも見えた。
「まぁまぁ、熱々ねッ!?!?
羨ましいわぁ~~、私も、高校時代に戻って、そんな青春してみたい!!」
聖奈の発言と行動で、収拾が付かない程に勘違いされた穂高は、誤解を解くのを遂には諦め、目の前の大貫の親族に本題を切り出す。
「あの~~、すいません、授業をコピーしたノートとか、できれば直接渡したいんですけど、良いですかね?
顔も見ておきたいし…………」
「――え!? あ、あぁ、そうだったわね……。
う~~ん、俊也(しゅんや)も、もう体調は元に戻ってるし、ちょっとくらいならいいか!
良いわよッ! 二人共上がって」
穂高と聖奈は、笑顔で出迎えられ、そのまま若い女性に、家の二階へと案内される。
「俊也~~、入るわよ~~」
大貫の部屋と思われる場所まで案内されると、大貫の親族である若い女性は、一言、声をかけると部屋の扉を開いた。
「――ねぇちゃん? 何? どうかした??」
扉を開いた女性は、中にいた大貫に姉と呼ばれ、大貫の姉の背後に控えていた穂高と聖奈は、ベットに横たわる大貫の姿が見えた。
「お客さん。 お見舞いに来てくれたわよ?」
大貫の姉はそう告げると、半身の姿勢を取り、背後にいた穂高と聖奈が、大貫の前に姿を現す。
「天ケ瀬(あまがせ)ッ!? それに、愛葉(あいば)も!?!?」
穂高達の姿を見るなり、大貫は驚き、声を上げ、大貫の姉は、そんな弟の様子を不思議に思いつつも、役目を果たした事から、その場から離れて行った。
「―-体調は? 元気か??」
大貫が取り乱す事は想定内であった為、穂高は別に気にする事無く、大貫の部屋で手頃な場所に腰を下ろした。
カーペットの上に、腰を下ろした穂高に倣い、何が起こるか全く予想が付いていない聖奈は、一先ず、穂高に倣うように、穂高の隣に腰を下ろした。
「なッ、な、なんだよ! 急にッ!」
「見舞いだよ? 別に変な事じゃないだろ?」
「変だよッ!! お前が来る事も変だし、何より、なんで愛葉と一緒に!?!?」
球技際で共に戦った仲間だとは言え、穂高と大貫はそこまで仲良くもなく、接点が無ければ絡む事もない間柄である為、穂高からわざわざ見舞いに来るには、奇妙に見えた。
そして、そんな大貫の指摘に、聖奈は乾いた笑いを浮かべ、誤魔化し、穂高は大貫の言葉に答え始める。
「聖奈は、成り行きでここに来てるだけだ。 あんまり、気にすんな」
「き、気になるわッ!!
――ん? っていうか、聖奈?? 名前呼び?
お、お前らって……、そういう関係なの?」
「――――お前も姉と同じ事聞いてくるんだな……」
数分前に似た出来事があった為、穂高はデジャブを感じつつ、今度は聖奈に遮られないよう、そのことに対して自分から口を開き、答える。
「別にカップルじゃないぞ?」
「えぇ~~、つれないなぁ、穂高君……」
きっぱりと否定する穂高に、聖奈は、寂しそうに呟き、きちんと否定した穂高だったが、そんな二人の関係性を見て、大貫は益々、不思議に思った。
「とゆうか、邪魔をするなよ? 聖奈。
今は、やるべき事があるんだから」
「ちぇ~~、分かったよ……。
邪魔しなくないし、嫌われたくもないから、大人しくしてる」
まだまだ、カップルの話を掘り下げるつもりだった聖奈だったが、穂高に釘を刺され、不満そうにそう呟いた。
そして、聖奈に釘をさした穂高は、今度は大貫に視線を向け、余計な脱線はせず、単刀直入に尋ね始める。
「なぁ、大貫。
文化祭の事だけど、本番は出れそうなのか?」
「――え!? あ、あぁ、体調はもう大丈夫だし、本番は確実に出れるぞ?」
穂高に対して色々と尋ねたい部分があった大貫だったが、有無を言わさず、本題を切り出してきた穂高に押され、質問に答える事しか出来なかった。
「そうか……、出れるのか…………」
少し残念そうに呟く穂高に、大貫は何かを思い出したかのように声を上げる。
「ああッ!? そ、そういえば、彰(あきら)から聞いたけど、今、天ケ瀬が劇で俺の代役やってるんだろっ!?
い、色々聞いたぞ? 彰から!!」
「色々??」
穂高はここ最近、様々な出来事が周りで起きていた為、大貫の言う色々にピンと来ていなかった。
「ほ、放課後、春奈(はるな)と個別で練習してたらしいな、今まで……、ずっと……。
――お、俺だって、二人きりで練習した事、数える程しかないのに…………」
「あ、あぁ、そんな事か……」
穂高は、もっと別な部分を指摘されるかと、身構えていた為、大貫の言葉に少し気が抜けた。
しかし、大貫だけでなく、この場にいるもう一人の人物、聖奈も、穂高の言葉は聞き捨てならないのか、大貫と共に声を上げる。
「そんな事じゃねぇッ!!」
「そんな事じゃないッ!!」
大貫だけでなく、聖奈からも凄まれ、穂高は二人から圧を掛けられた。
「――い、いや、そこは別に重要な事じゃなくてだな……。
とゆうか、落ち着け」
穂高は、ヒートアップする二人をなだめ、続けて話を戻した。
「――――大貫、今日は、お前にやって貰いたい事……、いや、やって貰わなかきゃならない事を伝える為に、ここに来たんだ」
「やって貰わなきゃならない事??」
依然として、不満がある様子の大貫だったが、一先ずは穂高の言葉を聞き、穂高は真剣な眼差しで、話始めた。
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