第183話 姉の代わりにVTuber 183
◇ ◇ ◇ ◇
チューンコネクトプロダクション 本社。
例にもれず、『チューンコネクトプロダクショ』の本社内は、忙しそうに社員が行き交い、堕血宮(おちみや) リム等、六期生の後輩として、七期生のプロデュース準備をしている事から、より忙しさが増していた。
「佐伯(さえき)~~、今週の土曜で打ち合わせ取れたか??」
パソコンにて業務を行う佐伯に対し、3席程離れた位置から、上司の声が飛んできた。
「はい! 大丈夫です!!
ライバーの方も、デザインの方も両方調整取れてます!」
「よし。
土曜の打ち合わせは、お前も出席なぁ~~?」
パソコンと睨めっこしていた佐伯は、上司の予想していない発言に、思わず聞き返す。
「えッ!? 私もですか??
――――まぁ、ライバーの方も、デザイン担当の方も両方知り合いだから、最初の顔合わせくらいは出でもいいかもですけど……」
打ち合わせの日程調整はすれど、自分の出席を考慮していなかった佐伯は、自分なりに出席の理由を考えながら話した。
そして、そんな呑気な事を言う佐伯に、上司である鈴木(すずき)はため息を一つ吐くと、席から立ち、佐伯の方へ向かってきた。
「―-あのな? 佐伯。
今回の新人のマネージャーはお前だぞ?」
「はぁ~ッ!?!?」
疲れた様子で告げる鈴木に対し、佐伯は今聞かされたと言わんばかりに驚き、オフィスであったが大声を上げたしまった。
当然、佐伯の声はオフィス内に響き、一瞬で注目を集めるも、皆、忙しいのか、興味はすぐにそがれ、各々の仕事に戻っていった。
「な、なんでアタシなんですか?
私、リムのマネージャーは勿論、他の子も抱えてますよ??」
「北川(きたがわ)さんの推薦なんだ、甘んじて受け入れろ。
――それに、負担の面であるなら、リムともう一人は別の奴に引き継がせるから」
「そ、そんな勝手にッ……」
佐伯は入社して、初めてデビュー前からデビューまで、担当したのがリムであり、佐伯にとっては思い入れのある担当だった。
「まぁ、お前の言いたい事も分かるけど、俺も過去に経験した事だ。
他の社員も経験ある奴は多いだろうし、今は受け入れろ。 な?
――ある程度軌道に乗れば、過去の担当に戻してくれるなんて事も、無い話じゃない」
「そ、そんな事言ったって……。
てゆうか、なんで私なんですか?? 他にも適任はいるでしょう?」
宥める様に話す鈴木だが、佐伯は納得できず、説明が無い限りは、今引き受けている担当を降りるつもりは無かった。
「今どこも忙しいんだよ。
4期生は、もうそろそろライブを予定してるし。
3期生は、今度地上波で深夜に番組持てる事が決まって、色々準備してるし、ゲストでウチの他期生も出す予定で、ゲストが入りやすいように形は、作っときたいしな」
「他のグループは??」
「他も色々あるんだろ。
お前が抜擢されるわけだし……」
「――――納得できないです」
鈴木は、頑固な佐伯にため息を付くと、ポケットから携帯を取り出し、電話をし始めた。
佐伯の前で、数分電話をし、電話の内容から、鈴木が誰と会話をしているのか、佐伯は分かったが、細かい所までは把握できなかった。
鈴木は手早く電話を終わらせると、再び佐伯に向き直り、話始める。
「北川(きたがわ)さんのとこ行くぞ?」
「え? 今からですか??」
「そう、今から。
お前納得しないし、GMに説得して貰った方が良いだろ?」
普段の鈴木を知る佐伯は、鈴木の行動を珍しく感じ、普段であれば、通りがたい意見であれば、鈴木の所でシャットアウトされていた。
鈴木も佐伯の担当変更に思うところがあるのか、無理に聞かせる事無く、より上の意見、考えを佐伯に直接聞かせる意図があった。
◇ ◇ ◇ ◇
「失礼します」
個室を設けられている北川の元へ訪れた鈴木は、個室に着くなりノックをし、許可が入るなりすぐに部屋へ入った。
「――言った通り、納得しないんで連れてきました」
鈴木は「ほら見た事か」と言わんばかりに、佐伯を連れ、北川に言い放ち、鈴木の言い分に、北川はこめかみを抑えた。
「鈴木、納得させるつもりないだろ……」
「俺に無理なもんは無理なんで」
鈴木はきっぱりと答え、北川はそれ以上、鈴木に追及する事は無く、今度は連れて来られた佐伯に視線を向けた。
「――もうほぼほぼ決定事項だから、今から方針は変えられないぞ?」
「なッ!? そんな勝手に……」
「まぁ、お前に話を通してなかった事には詫びる。 すまなかった……。
ただ、いろんな条件から、お前意外に適任は居ないと、各グループのチーフと社長は判断した」
一言、北川は謝罪した後、経緯について細かく話始めた。
「リムの成り代わりを完璧に遂行して、尚且つ、他の担当も今まで通り、何の支障もなく運営できた。
そんな、佐伯の業務が評価されて、今回、ちょっといわく付きの7期生にお前が抜擢された」
「いわく……??」
新人がデビューすることは、会社にとって大きなプロジェクトであり、本来明るい話題であるべきだったが、北川の言葉には違和感があり、佐伯は当然、その違和感を指摘した。
北川は少し、険しい表情を浮かべ、佐伯の指摘に答え始める。
「今回の7期生。
お前達も知っての通り、今までにない程の超大型新人がデビューする」
「88(ハチハチ)ですね」
鈴木の返答に、北川は首を縦に振ると、続けて話す。
「今回、88を担当するのが、ウチの若いエース、田沼(たぬま)だ。
田沼は、4期、5期、両方デビューから立ち会った担当があり、ウチの社の中でもデビュー前から担当する能力は高いと判断されてる。
それに、4期で受け持つ担当と、5期で受け持った担当、どちらもそのグループ内で一番の勢いがあった。
再生回数、チャンネル登録者数、共にグループで一番多い。
勿論、田沼の力だけでなく、担当したライバーの実力も大きく影響はしている。
ただ、この成果は無視できない、素晴らしい成果だった」
佐伯は、まだまだ北川の意図を読めなかったが、鈴木は、田沼があまり好きでないのか、微妙な表所を浮かべていた。
そして、北川は本題に入る為か、一呼吸置いた後、ゆっくりと話し始めた。
「――そんな、田沼だが、今回88を受け持つ上で、田沼と88の共通の計画なのかは分からないが、デビューと同時に、オリジナルソングを一曲、披露する予定らしい」
「えぇ?」
「え?」
北川の話を聞き、鈴木と佐伯は同じリアクションを取った。
そして、佐伯ではなく鈴木が、北川の話しに反応し始める。
「そ、そんな。いいですか??
デビューと同時にオリジナルソングって……。
――インパクトは勿論、ありますけど…………」
鈴木は言いずらそうにしながら、北川の話しに戸惑いを見せ、すべては言わずとも、鈴木の言わんとしている事を、佐伯は感じ取っていた。
「デビュー時の戦略としては、別に間違ってないだろ?
新人デビューで88の声が聞こえれば、古参ファンからすれば、88のニューシングルであるわけだし、ウチの『チューンコネクト』のファンにとっても、言わずもがなのインパクトだ……。
田沼は既にレコード会社と話を進めて、歌手としても売り出すつもりらしい」
「そんなの駄目ですよッ!!
新人が一人ならまだしも、今回は二人なのに!」
佐伯は88の成功よりも、7期生としてのグループの売り出しを考え、田沼の計画通りに進むと、2人しかいないグループで、人気に格差が出来てしまうと、そう判断した。
「――佐伯の言わんとしてる事も分かる。
まだ、私も面識あるわけじゃないが、聞くところによると、7期生のもう一人は、現役の学生みたいだし。
ほぼほぼ、芸能界に片足を突っ込む程に、活躍していた88と学生とでは、経験値もまるで違う。
経験も違うのに、完璧にスタートダッシュを決められれば、目も当てられない状況になりかねない」
「そこまで分かってて、なんで…………??」
北川の口調から、北川もこの案には、100%賛同していないように見え、佐伯はそこまで事情が分かっていながら、計画が進んでいる事をボソりと呟くように指摘した。
「社長が乗り気でな?
――元々、『チューンコネクト』の売り出し方、理想としては、アイドル的なグループを目指していたし。
その理念から行けば、デビュー直後から、いきなりレコード会社からCDが出るとなると、目指さない他は無いわけで」
「そ、そんな…………」
人気を取る事には賛成だが、あくまでグループでバランスを取り、全体的に売り出していきたい佐伯に取って、田沼や社長の考えは、真逆にあるようにも佐伯は思えた。
「――まぁ、社長の考えが変わらない以上そこはしょうがない。
現状はあるものとして考え、どう打開するべきか検討した結果、佐伯。
お前に白羽の矢が立ったわけだ」
北川は、佐伯を真っすぐに捉え、そう言い放った。
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