第182話 姉の代わりにVTuber 182
「――とまぁ、一通りの説明としては、こんなところかな」
穂高(ほだか)に頼まれ、デビューまでの流れを説明しきった美絆(みき)は、一息入れる様にして声を上げた。
「ありがとうございます。
全部説明して貰っちゃって……」
「いえいえ、可愛い後輩ちゃんの為だもん! 気にしないでッ」
申し訳なさそうに告げる春奈に、美絆は、軽い様子で答えた。
美絆の説明は、途中脱線する事もあり、結局説明し終えるのに40~50分程掛かっていた。
美絆が説明している感、穂高は、途中気になる部分は質問を入れ込みつつ、説明の最中に出されたモンブランを平らげ、優雅に紅茶を楽しんでいた。
「―-相変わらず、穂高はスイーツ好きね~~」
「別にいいだろスイーツ好きでも……。
普段入りたくても入りずらい喫茶店なんだから、堪能させろ」
姉弟である美絆は、穂高のスイーツ好きをもちろん知っており、同じように穂高のスイーツ好きを知っていた春奈は、二人のやり取りを微笑しながら、静観していた。
そして、そんな姉弟のやり取りを静観する春奈に、美絆が話を振る。
「不愛想な穂高に似つかわしくないよ~。 ねぇ~~? 春奈ちゃん」
「――え、えッ? い、いや、別に似つかわしくなくは…………」
「いいよいいよ、気を使わなくて~~。
言っちゃいなよ! ぶっちゃけ奇妙だって」
おどおどと返答に困っている春奈に対し、美絆はからかう意図なく、春奈の本音を促し、対して、穂高は周りに何と思われようとも、自分の好みを変えるつもりも無く、堂々としていた。
「へ、変じゃないですよ!?
お、男の子でもスイーツ好きいますし……、穂高君が好きでも変ってわけでは……。
む、むしろ……、か……、か、可愛いというか」
春奈は恥ずかしくしながらも、素直に自分の本音を話し、春奈の意見を気にする様子無く聞いていた穂高は、春奈の最後の言葉を聞き、噎せ返った。
「ッ……! ゲホッ! ゲホッゲホッ……。
――な、なに言ってんだお前」
「だ、大丈夫??」
紅茶を吹き出しはせずとも、変なところに入ってしまった穂高は、苦しそうに席をしながら、春奈にそう告げ、春奈は穂高を気遣うように、心配そうに尋ねた。
「だ、大丈夫だけど……。
変なこと言うなよ、急に……」
「変じゃないよ! な、なんか、ギャップ感じるって言うか……。
穂高君と初めてここに来た時も、思ったし」
「変わってるな」
変な褒め方をされたと感じる穂高は気まずそうに、春奈もまた、答えずらい内容だったのか、少し恥じらうような様子を見せた。
春奈と穂高のそんなやり取りを見て、美絆はまずますニヤニヤと笑みを浮かべ、そんな美絆に気づいた穂高は、気を取り直す様に姿勢を正し、話し始める。
「――とりあえず、今日はこの辺でお開きにするか?
もうそろそろ一時間ぐらいの滞在だし、お店も混み始めたしな」
穂高はあたりを軽く見渡しつつ、この後に美絆は、リムの配信も控えている事もあり、解散の頃合いを見計らった。
「えぇ~~? もっと話したいぃ~~って、言いたい所だけど、穂高の言う通りね。
私も、この後予定有るし……」
「あ、す、すいません、予定作っていただいて…………」
「いいの! いいの!
私のしたい事でもあるんだから!」
まだまだ春奈は美絆に対して気を使いがちだったが、美絆もあまり悪い気はせず、気を使わせないように返事を返した。
「そんな事より、春奈ちゃん! 連絡先交換しよーよッ!
春奈ちゃんとは、これから一緒にやっていく仲間なんだし、それに…………、違う意味でも長い付き合いになりそうだしッ?」
美絆は携帯を出し、春奈に連絡先の好感を求めると同時に、穂高に意味深な視線を向けつつ、春奈にそう告げた。
春奈には断る理由もなく、携帯を取り出し美絆と連絡先を好感した。
「よしッ! それじゃ、二人共! お先に失礼するねッ!?」
美絆はそう告げると、そそくさと喫茶店から出て行った。
(割と引っ張り過ぎたか?)
美絆の退散の速さに、美絆の今後の予定を知っている穂高は、少しだけ申し訳なく感じつつも、美絆であれば、配信に支障をきたす事も無いと、そう踏んでいた。
「お、お姉さん、凄いパワフルな人だね」
「一緒に住んだらうるさすぎて、頭おかしくなるぞ?」
率直な美絆の感想を述べる春奈に、穂高は素直な本音を答えた。
穂高の辛辣な返答に、春奈は苦笑いを一瞬浮かべた後、再び口を開く。
「穂高君もホントにありがとね?
ここ最近は、また穂高君に色々と負担を掛けちゃってるし……」
「気にするな。
姉貴と同じで、俺がしたいからやってる事だし」
穂高は直近の美絆の言葉を借り、本心を素直に答えた。
「し、したい事……かぁ…………。
何度か、聞いた事あるけど、穂高君は、私がVtuberデビューするところが見たくて、手伝ってくれてるんだよね?」
「そうだな。
成り行きで、色々手を貸す事があって、今はどうせならって気持ちで協力してる」
「――どうせならかぁ…………」
穂高の答えに、春奈は嬉しく思いつつも、それ以上に寂しさ感じていた。
春奈の呟きは、穂高の耳に届く事がない程、小さな声であり、寂しげに呟く春奈の声は、誰に聞かれる事無く、消えていった。
しかし、春奈の声は届かずとも、春奈の纏う雰囲気で、穂高は何かを察したのか、続けて話始める。
「どうせならって言い方はアレだな……。
――んん~~……、今まで、乗り掛かった舟だから最後までって、そんな気持ちが大きかったけど、今は似てるけど、ちょっと違う気持ちかもな」
「え?」
穂高の続けた言葉は、春奈にとって意外な返事であり、穂高の心の変わりように、春奈は興味津々だった。
「よくよく考えてみれば、俺はお前のファンだったんだと思う」
「ファン……?」
不思議そうに穂高を見つめる春奈に、穂高は柔らかい表情を浮かべ、そのまま話し出す。
「いくらちょっと手伝ったからって、デビューまで協力したいなんて、普通ならないもんな。
あんまり考えた事無かったけど、俺は、何回か春奈の配信を見て、多分ファンになったんだと思う。
――だから、絶対に『チューンコネクト』としてデビューして欲しいし、その為に協力してる」
楽し気に話す穂高に、春奈は穂高の顔が見れず、視線を逸らした。
春奈は、どんどんと顔が熱を帯びてる事に気づき、顔が赤く染まっていったが、穂高は春奈の気も知らず、続けて言い放つ。
「あんまり、プレッシャーになったら嫌だけど……。
無事にデビューして、俺がファン第一号だって、自慢させてくれよ。
――まぁ、中の人と知り合いだと思われたらマズいだろうから、公言は出来ないんだけどな?」
いつも不愛想な穂高は、少年の様に明るい笑みを浮かべており、春奈は、そんな穂高の表情を、横目ででしか捉える事が出来なかった。
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