第181話 姉の代わりにVTuber 181


「じゃあ、手始めに、まず何から準備させられる?

デビューするにあたって、現状ゼロな状態なわけだから、一から順に説明してくれ」


美絆(みき)に質問を促された、穂高と春奈だったが、穂高(ほだか)も未知の領域である為、なにから手を付けるか、まるで想像できず、質問を質問で返す形となったが、まるで臆せず、丁寧な説明を求めた。


「うッ……、一から…………。

まぁ、しょうがないか」


質問に答える形で、話を進めようとした美絆は、さっそく穂高に出鼻を挫かれ、説明する事が多い事から、少し面倒に感じていた。


協力させる以上、穂高は美絆に楽をさせるつもりは無く、美絆は観念して、説明を始めた。


「まず、準備と言っても順番に進めるわけじゃなく、色々な事を同時進行で進める形になるの。

全部が優先順位が高く、重要度の高い事だけど、特にまずはアバターね。

『チューンコネクト』には、沢山の協力してくれるキャラクターデザイナーがいるから、デザイナーの準備は会社でやって貰えるけど、キャラクターのデザインには、春奈ちゃんの協力も大いに必要よ」


美絆は、真面目に準備段階の説明をしていき、Vtuberの目玉ともいえる、自分の分身、アバターの話題を春奈に振った。


Vtuberを夢見る春奈にとって、アバターの話は目を輝かせる話題であり、自然と姿勢も前のめりになる。


「『チューンコネクト』のキャラクターの設定は、中の人の性格や希望なんかを大いに取り入れる。

むしろ、中有りきのキャラクターだから、春奈ちゃんの事をデザイナーが深く理解できなければ、アバターの作成も出来ない。

アンケートシートなんかをまずは配られると思いから、それの記入をすぐさま行う事」


美絆が話す間、春奈は興味津々といった様子で、メモを取り始め、穂高は説明の折り合いを見ながら、美絆と春奈に、何の飲み物を注文するか希望を取り、美絆の説明の最中に、喫茶店の店員に注文をしていた。


「アンケートシートはあくまでも大まかなベースだからね?

春奈ちゃんの分身を作るにあたって、重要になってくるのは、配信の仕方。

――穂高から聞いたけど、何回か配信の練習みたいな事をしてるんでしょ??

デモムービーはある?」


美絆の質問に春奈は頷くと、美絆は少しだけ考える仕草を取った後、続けて説明に入る。


「なら、春奈ちゃんは従来のオーディション合格者よりも早く、キャラクター像が固まるかもね。

――基本、私が知ってる中だと、合格発表が決まってから、何回かデモ配信を行って、それを会社に提出してるから、その分の手間が、春奈ちゃんは省かれるかも……。

ウチの同期で言えば、エルフィオと巫(かんなぎ) サクラは、オーディション用の配信デモムービーしかなくて、キャラクター作成用に何回か配信デモムービーを作ってた」


「エルフィオちゃんとサクラちゃんが……。

六期生のデビューも、順番がサクラちゃんとエルフィオちゃんが後半になったのも、それが理由ですか?」


春奈は六期生のデビュー当時の事を思い出し、一人ずつデビューする方針を取っていた六期生で、チヨが一番目、リムが二番目とデモムービーがあった人が、前目になっていると考察した。


「う~~ん、どうだろ、確かに準備期間中に、進行が早い方が先にデビューする傾向にあるけど、キャラクターデザインだけじゃなく、全体的に進めないといけないわけだし、一つの要因で後ろ倒しになるって事は無いと思うよ?

――後、キャラクターデザインで言うと、デザイナーによってはイメージを固める為に、直接会いたいって人もいるかな」


「直接ですか……」


美絆の話しを聞き、穂高はリムの生みの親である、月城(つきしろ) 翼(つばさ)を思い浮かべる。


「最初の打ち合わせに、『チューンコネクトプロダクション』の社員と一緒に来る事が多いかな。

私の時は、一番初めの打ち合わせに来てた。

何度か話して、結構仲良くなって、プライベートでも話すくらいに仲良くなったな……」


(――あの人に関しては、仲良いとかの次元じゃないくらい、姉貴を慕ってるけどな…………)


美絆も穂高と同じように翼を思い浮かべ、当時を思い出しながら話し、楽し気に話す美絆に対して、穂高は、色々とトラブルもあった事から、渋い表情を浮かべていた。


「す、凄いですね……、お姉さん……。

――わ、私も仲良く出来れば良いんですけど」


始めの体験が一遍に押し寄せる状況も相まってか、春奈は自分のデザイナーとの邂逅に不安を感じていたが、そんな春奈を見て、穂高は何気ない様子で口を開いた。


「春奈が気にするとこじゃないだろ? そこは……。

学校でも交友関係広いし、春奈の悪口言ってる奴とか、聞いたことないぞ?」


「そ、そんなことないよ……」


淡々と事実を話す穂高に、春奈は恥ずかしくなった。


「よっぽど変な奴じゃない限りどうとでもなりそう……」


穂高は変な奴の代表格として、翼を思い浮かべながら呟いた。


「デザイナーで言うと、イラストレーターは男も当然いるよな?

男のイラストレーターであっても、会ったりするのか??」


穂高は特に他意はなく、興味本位で美絆に尋ねたが、穂高の質問に、美絆は目を丸くした後、表情を一気にニヤついた表情へと変え、穂高に質問し始める。


「なぁに~~? 穂高君~~。

もしかして、ジェラシー感じてる??

――デビュー前の不安の多い女の子と、Vtuberの親として経験豊富な男の恋愛…………。

恋愛小説とかでありそ~な展開だよねぇ~?」


「おッ、お姉さんッ!?!?

な、ないよッ!? 無いからね!? 穂高君ッ」


穂高をからかったはずの美絆だったが、食いついたのは春奈であり、春奈は強く美絆の言葉を否定した。


「い、いや、そんな念押さなくても分かってるよ……。

まだ、男のイラストレーターって決まったわけじゃないし、そもそも、春奈も担当イラストレーターも忙しくてそれどころじゃないだろ?」


「分かんないよ~~? 忙しくて厳しいスケジュールの中、二人は確実に信頼関係を築き、いつしか二人の思いは恋心に…………」


「佐伯(さえき)さんに殺されるな」


妄想捗る美絆に、穂高は現実を突きつける様に、冷たく言い放ち、穂高の言う通り、デビューしたての忙しい時期に、佐伯や他の『チューンコネクトプロダクション』の社員が、それを許すとは思えなかった。


「姉貴の当時の状況を思い返しても、そんな恋人とか作ってる余裕無さそうだったし、それに、恋愛禁止とまでは公言してないけど、『チューンコネクト』はアイドル売りをしている風にも見えるし……。

姉貴の先輩達だって、男の影まるで見せないじゃん」


「――あら、ピュア童貞。

女は隠すのが上手いだけだよ~~。 ねぇ~~? 春奈ちゃん~~」


美絆のナチュラルなディスりに、穂高はイラっとしつつ、同意を求められた春奈はあたふたとしていた、


この話題をしていて楽しいのは美絆だけであり、美絆は穂高と春奈の反応を見て、楽しんでいた。


そして、しばらく二人の反応を楽しんだ美絆は、一呼吸置くと、今度は真面目な表情を浮かべ、続けて話した。


「――まぁ、真面目に話すと、最初の忙しさは尋常じゃないから、春奈ちゃんの自由な時間は、ほとんどなくなると思う。

私が気にしてるのは、春奈ちゃんがまだ、高校生だって事。

私は、当時大学生で時間もあったから何とかなったけど、高校生の方がより時間に制約があるでしょ??

廻りのバックアップも全力でしてくれるとは思うし、高校生でも準備を終わらせ、デビューさせられるって思ってるから、会社は合格にさせたんだと思う。

だから正直、そこの心配はいらないと思うけど、先輩からのアドバイスとして、気持ちの準備だけは、もうしておいた方がいい。

忙しすぎて準備期間はあっという間に感じると思う。

準備が完了したらすぐデビューだからね」


「分かりました」


美絆の言葉に、春奈は真っすぐに答え、春奈のそんな姿を見て、美絆は柔らかい笑みを浮かべた。


「私の初めての後輩ちゃんだし、春奈ちゃんは、穂高の大切な友達でもあるからね。

困ったときはいつでも頼って? 私も全力で協力するから」


美絆は、短い間の会話であったが、既に春奈を気に入っており、初めての後輩という事もあってか、小さな事でも、手を貸したいという気持ちが強くあった。

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