第180話 姉の代わりにVTuber 180
◇ ◇ ◇ ◇
喫茶店 Polaris(ポラリス)
穂高(ほだか)と春奈(はるな)は、美絆(みき)と三人で会う約束を取り決め、運よく、電話で話した翌日に出会う事になった。
「――ふぅ~~ん?
穂高がこんな店を知ってるとはねぇ~~」
穂高と美絆は、駅前で待ち合わせ、指定した場所である喫茶店へと訪れていた。
喫茶店に着くなり、そのお洒落な外観に、美絆は意味ありげな呟きを放った。
「俺が知ってちゃ変かよ」
「いんや~~? 穂高、甘いもの好きだしねぇ~~」
ニヤニヤと笑みを浮かべる美絆に、穂高は不満そうに告げ、依然として態度の変わらない美絆に呆れながら、喫茶店の扉を開いた。
穂高と美絆が入店すると、小気味いい鈴の音が店内に鳴り響いた。
店内のお客の入りは、ほどほどといった様子で、平日という事も甲斐あって満員ではなかった。
穂高と美絆は、店内を見渡すと、先に入店し、二人の到着を待っていた春奈が、席から立ち上がった。
春奈が席から立ち上がったことで、穂高達は春奈の居場所を見つけ、春奈の方へと向かった。
「悪いな? 先に入って待ってて貰って」
「ぜッ、全然ッ!!」
穂高は、美絆がお店を知らないと事もあり、案内を兼ね駅で待ち合わせし、同じようにホームルームを終え、下校時間となった春奈は、先に喫茶店へと向かって貰っていた。
春奈と穂高は、文化祭の出し物練習もあったが、二人の演技の出来が良かった事も幸いし、今日は練習を免除してもらっており、全体練習ができないという点では、クラスに迷惑をかけてしまう部分もあったが、事情が事情の為、抜けさせてもらっていた。
ガチガチに固まる春奈に、美絆は笑顔で話しかける。
「初めまして。 穂高の姉、美絆です。
『チューンコネクト』でリムをやってます」
『ッ!! ほ、本物ッ…………。
ファ、ファンですッ! 光栄です!!』
自然体な美絆に対して、本人の口から告げられた事で、余計にガチガチになった春奈は、より固い様子で答えた。
「よろしくね~」と軽く握手を求める美絆に対して、握手に応える春奈は、体躯会系の挨拶の返し方で、返事を返した。
「春奈……、別にそんな気張らなくてもいいぞ?
大した人でもないし」
「なッ、なにかなぁ~~? 穂高君……。
わざわざ予定を開けて来たお姉ちゃんに、失礼じゃないかなぁ~~??」
春奈の要図を見て、気だるそうに話す穂高に対し、穂高の言葉が気に入らなかったのか、美絆は眉をピクつかせ、苛立ちを露にした。
「失礼でも何でもないだろ? 後の10年は、俺に頭上がらなくても当然なんだから、姉貴は」
「じゅッ! 10年ッ!?
さ、流石に長すぎじゃない??」
春奈には、到底分かり得ない話題を、穂高達は話し、気の弱そうには見えない美絆と、そんな美絆に強気な態度を見せる穂高の関係性は、春奈に少し奇妙に映った。
そして、穂高と春奈のやり取りの中で、聞き流せない部分があった春奈は、美絆に声を上げる。
「ご、ごめんなさい。 い、忙しい時に……。」
「え? あ、あぁ、別に気にしないで?
未来の後輩ちゃんと、可愛い弟の頼みだし! 私が時間を空けるのは当然事なんだから」
「み、未来の後輩ちゃん…………」
美絆は春奈に気を使わせないよう、軽い口調で話し、春奈の答えた言葉に感慨深いものを感じた春奈は、自然と美絆の言葉を反芻した。
「とりあえず、座っていいかな?」
「あッ! どうぞどうぞッ!」
先に席に着いていた春奈だったが、美絆と穂高の登場に、おもむろに席を立ち、春奈がそのまま挨拶を行った事で、今まで席に着けずにいた。
春奈の言葉で、穂高と美絆、そして春奈も席に着き、本題に入ろうと、穂高が口を開いたところで、美絆が声を上げた。
「ねぇねぇ、二人はさ? どうゆう関係なの??」
「は?」
「え?」
席に着くなり、いきなり関係の無い話題を出したことで、穂高は呆れながら様子で声を出し、春奈はあまりにも突拍子もない質問に、思考が一瞬で停止した。
「いやさ、さっき穂高君、春奈ちゃんの事を春奈って呼んでたじゃん?
クラスメートの女の子を下の名前で呼ぶって、結構親しい仲じゃない??」
ニヤニヤと笑みを浮かべて質問する美絆に、穂高は溜息を吐きつつ、春奈に視線を送った。
何と答えるべきか考える為、穂高は春奈へと視線を送ったが、春奈は完全に固まってしまっており、目も合うことなく、意思の疎通は取れなかった。
春奈がフリーズしているのを見て、仕方が無いと感じた穂高は、自力で答えを出し、美絆に答える。
「姉貴が何を期待してるのか知らないけど、普通に友達だぞ?」
「――そ、そうですッ、仲の良い友達ですッ!!」
淡々と答える穂高と、穂高の話している途中で、意識を取り戻した春奈は、穂高の意見を肯定するようで、少し意味合いの異なる返事を返した。
「ふ~~ん、仲の良いねぇ~?」
「はいッ! 仲良いです!」
「お、おぅふッ……、そうかそうか」
揶揄う目的で春奈に話しかけた美絆だったが、この手の挑発に耐性が付きつつある春奈は、念押しで返事を返した。
春奈の勢いに、逆に美絆が面を食らった。
そして、こんなやり取りをする中、穂高はどんな反応を見せているのかと、美絆は穂高へと視線を向けるが、穂高の様子は変わる事が無かった。
(いやいや、こんな可愛い子が、こんな露骨にアピールしてるのに、反応なしか!? 我が弟はッ!!
もはや悪意を感じる程の鈍さ…………)
学園の事情を知らぬ美絆が見ても、超が付くほどの美貌を持つ春奈に、ここまで言わしめ、それでも落ち着いた様子で、なんなら、お店のメニュー表に興味を示し始めている穂高に、美絆は驚愕した。
穂高が反応を見せないせいで、春奈の発言と行動は、まるで穂高の姉である美絆に、アピールしているように見えた。
「ま、まぁ……、仲良いのは分かったけど、どうして弟なんかと??
姉である私が言うのもなんだけど、穂高は学校でも、そのぉ~~、あんまり目立つようなタイプじゃないでしょ?
弟と仲良くして貰ってるのは、身内としてありがたくは、あるんだけどさ~~。
どうして、春奈ちゃんみたいな美人が……って思っちゃうんだよねぇ」
美絆の言葉は、穂高にも聞こえていたが、否定できない真実である為、特に食いつくことなく、質問はそのまま春奈に向けられた。
「ど、どうしてって言うと、ちょっと答えが難しいんですけど……、最初は殆ど偶然です。
お互い、『チューンコネクト』ファンで、そこから会話も弾んで、仲良くなって……。
――色々あって、穂高君にオーディションの手伝いなんかもお願いするようになってって感じで……」
「ふ~~ん、『チューンコネクト』のファンね……」
春奈は、過去を振り返りながらつらつらと話し、春奈の言葉に引っ掛かった美絆は、呟きながら穂高へ視線を向けた。
(『チューンコネクト』のファンなんて、私の成り代わりが決まるまで、全然興味無かったのに……。
今でこそ、リムを演じる為に、詳しくはなったけど)
春奈が話した事には、偽りがなく、唯一少し異なる点があるとすれば、春奈と初めて『チューンコネクト』の話をした時は、まだ『チューンコネクト』のファンでは無かった。
美絆から視線を向けられる穂高であったが、訂正する事は特になく、発言することは無かった。
そして、一連の流れから、美絆は穂高と春奈の関係性を何となく掴みつつあった。
「世間話はその辺でいいだろ? 姉貴??
そろそろ本題に入りたいんだけど?」
今日この場を設けた理由から、どんどんと会話の流れが変わっていく状況に、穂高はようやく軌道修正するよう声を上げ、美絆はまだまだ聞きたい事があった状況であったが、春奈の願いでもある為、好奇心はほどほどに抑え込んだ。
「そうね、まだまだ学校での穂高君の事とか聞きたい事はあったけど、春奈ちゃんの聞きたい事もあるだろうし……。
――――それで? なにから聞きたいの??」
今まで和気あいあいと話していた美絆は、少し雰囲気が変わり、真面目な空気を出しつつ、穂高達に尋ねた。
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