第178話 姉の代わりにVTuber 178


 ◇ ◇ ◇ ◇


天ケ瀬(あまがせ)家。


穂高(ほだか)は、友人である武志(たけし)らの追及を受け、いつもよりも披露した様子で、自室でゆったりと過ごしていた。


ベットに仰向けで寝そべりながら携帯を弄り、癖となった『チューンコネクト』の配信を漁っていた。


「ここまでくると、もう趣味だよな」


リムでの配信でネタになる事もある為、同期を中心に、同じグループの配信者を追っていたが、リムの入れ替わりももうじき終わり、穂高の今の行動は、当初の目的として鑑みると、あまり意味のある行動では無かった。


そうして、時間を使う穂高に、急な着信が入った。


携帯の画面には、電話を掛けてきた主の名前が表示され、穂高はその名前を見て驚いた。


「はい、もしもし?」


穂高は電話を掛けてきた者を待たせず、すぐに電話に出た。


「も、もしもし、穂高君??」


少しきょどった声色で電話越しに答えたのは、春奈(はるな)だった。


「電話なんて珍しいな?」


「え? あ、まッ……、まぁ、そうだね……」


春奈は穂高の言った通り、電話を穂高に掛けた事が無く、電話越しではあったが、春奈が若干緊張しているのが伝わった来ていた。


「どうした? 何か劇関連の事か??」


「う、うん、そう。

――ごめんね? なんの相談もなく、ああいった形になっちゃって」


穂高は春奈から電話が掛かってきた段階で、何となく春奈が電話を掛けてきた要件に心当たりがあり、尋ねるとそれは的中し、春奈は申し訳なさそうに穂高に謝った。


「いや、別に俺は問題ないぞ。

個人的にも今は、忙しい時期でもないし……」


穂高は春奈に気を使わせないように答え、春奈は穂高からその言葉を聞き、少し安堵した。


「そ、そっか……。

で、でもやっぱり、先にお願いしてから言うべきだったよね? ごめん!」


「気にしてないって。

それよりか、そっちは大丈夫なのか?? 個別に練習してる事もバラしちゃったし、変な勘繰りもされるだろ?」


「ま、まぁね……、でも、今、この状況を打開さる為には必要だと思うし、仕方ないかなぁとも思うよ」


春奈はさっそく起こった放課後の事を思い出し、苦笑いしながら答えた。


「春奈も迷惑だと思うし、きっぱり否定してくれていいからな?

効かないようなら、多少強く否定してもこっちは問題ないから」


「――うっ、うん……」


気遣うように答えた穂高だったが、穂高に好意を寄せる春奈にとってその気遣いは、あまり良い気持ちで受け取る事は出来なかった。


「――それで? 電話の要件ってこの事??」


「えっと、この事もあるけど、全体練習の事話したくてさ。

穂高君、全体練習出た事ないでしょ?? 簡単に流れとか説明しときたくって……。

急な事で穂高君も聞きたい事あるだろうし」


要件を促された春奈は、いつもの調子を取り戻し、劇の話題へと移っていく。


数十分程、春奈は練習の状況を説明し、気になる部分に穂高は質問をした。


そして、あらかた説明し終えた所で、春奈は要件を伝え果たす。


「他に聞きたい事とかある?」


「特に無いな。

良くわかった、ありがとッ」


劇の話題が終わった事で、春奈はこれ以上電話をする理由がなくなってしまい、最初は緊張していた通話も、いざ終わるとなると、名残惜しくなった。


春奈がそんな気持ちを抱きながら、通話を切る事を話題にしようとするが、今度は穂高から別の話題が切り出された。


「あっ、そういえば、俺からも春奈に聞きたい事があったんだ」


「えッ!? なッ、なに??」


名残惜しく感じていた春奈にとって、穂高の言葉は嬉しく、声色は自然と明るくなった。


「『チューンコネクト』のオーディションの話だけど、まだ結果とかは来てないよな?」


「ん? 私にはまだ来てないけど。

前回も聞いてきたけど……、けッ、結構気にしてくれてるんだ……」


「当たり前だろッ!? 結果が出てるならすぐにでも知りたい」


穂高の言葉は100%本心であり、穂高の話し方から他意は感じられなかった。


「わかった。 結果来たら、いの一番に伝えるよ」


春奈は自然と笑みが零し、電話越しにそう答えた。


そして、少しだけ間を開け、春奈は穂高の言葉で、違和感を感じていた部分に関して言及する。


「――――でも、なんでもう結果が来てるって思ったの?」


「え? あぁ、まぁ、そろそろかな?って……」


春奈の疑問に、穂高はそう思った理由が明確にあったが、それそ素直に、春奈に伝えるわけにはいかず、不器用に誤魔化した。


穂高が合否が来ていると思った理由には、先日あった佐伯(さえき)と浜崎 唯(はまさき ゆい)とのやり取りが原因としてあり、何故か二人が春奈の事を知りたがっていた節があった為、穂高は少し期待してしまっていた。


「早いよ~、まだ一か月とちょっとしか経ってないし……。

もう少し選考に時間が掛かるんじゃないかな??」


「そ、そうか。 そうかもな」


春奈に穂高はせっかちだと思われ、穂高のそんな前のめりな姿勢が面白かったのか、春奈は笑い声を零しながら話した。


春奈の反応に、穂高もそれ以上追及せず、春奈の言葉に先導した。


そうして、穂高も話題が尽き、春奈も当初の目的を果たした事から、どことなく通話を追える雰囲気が流れ、穂高は流れに身を任せる様に、切り出そうとした。


穂高が「そろそろ」と、話を切り出そうとしたその時だった。


「あッ! ちょ、ちょっと待ってね? 穂高君」


穂高が切り出そうとした所で、春奈は一瞬驚いた様子で声を上げた後、穂高を制止させた。


春奈の様子から穂高は無理に通話を終わらせる事は無く、春奈の言葉に従い、通話を切らずにそのまま待機した。


無言のまま、数分が経ち、穂高が春奈の事を心配に感じ始めた時だった。


春奈はゆっくりと話し始める。


「――穂高君…………、通知来た」


「通知って、まさか……」


春奈の口調から、穂高は何の通知か察し、沈黙した時間があった為、そのタイミングで既に、春奈は内容を確認している事が分かった。


「受かってる……、受かってるよッ! 穂高君ッ!!」


春奈は力一杯に答え、春奈の声が震えている事と、少しだけ涙声である事が、穂高には電話越しに伝わった。


そして、春奈から結果を聞かされた穂高は、一瞬固まりつつも、すぐに喜びが押し寄せ、誰もいない自室で自然に、力強いガッツポーズを取った。


電話越しでは伝わらないぐらいの短い声で、穂高は「ヨシッ!」と声を零し、上がったテンションそのままに春奈に声をかける。


「やったなッ!!

これで、春奈も『チューンコネクト』のVtuberだッ!!」


「ゔんッ!! ゔんッ!!!」


穂高の称賛に、春奈は一杯一杯なのか、頷く事しか出来なかった。


そして、二人は春奈が落ち着くまで、通話を切る事は無かった。

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