第177話 姉の代わりにVTuber 177
◇ ◇ ◇ ◇
愛葉 聖奈(あいば せな)に呼ばれ、春奈(はるな)は校舎の屋上へと訪れていた。
放課後、校舎の屋上には、生徒は誰も居らず、校庭には、部活に勤しむ生徒が多く見受けられた。
聖奈は屋上に着くなり、春奈と適度な距離を取りつつ、話し出した。
「――放課後にわざわざごめん。
どうしても、杉崎(すぎさき)さんに確認しておきたい事があって」
話しを切り出した聖奈の雰囲気は、ただならぬものを感じ、春奈は聖奈に呼び出された時点である程度、何の話題か見当がついていた。
聖奈の言葉に、春奈が短く相槌を打つと、聖奈は続けて言葉を発する。
「杉崎さんと穂高って付き合ってんの??」
「つッ!? つ、付き合っては無いよ」
あまりにも直球な筆問に、春奈は一瞬たじろぐも、穂高の話題になる事は覚悟していた為、聖奈の質問に対応する事が出来た。
春奈の返事を聞き、聖奈の雰囲気は少しだけ和らぎ、一瞬、ほっとした表情を浮かべたように、春奈には見えた。
「付き合ってないって事は、恋人じゃないって事でしょ?」
「――うん、 そうだね……」
聖奈はしつこくもう一度確認し、春奈は事実ではあったが、自分の口に出すと少しだけ、モヤ付く部分があり、何度もその関係を確認する応答を、快くは思わなかった。
そして、二度の確認をした聖奈は、一呼吸を置いた後、春奈の顔をしっかりと捉え、ハッキリとした口調で話し出した。
「――杉崎さん…………、杉崎さんには、悪いけど、穂高にあんまり近づかないでくれる??」
聖奈の発した言葉は、お願いをするような文ではあったが、彼女の放つ雰囲気と、声色から、春奈はお願いされるというよりは、命令されている様に感じた。
「それは…………、無理だね」
少し敵意も感じるような聖奈に対し、春奈も聖奈の言葉に従うわけにはいかず、聖奈ほどハッキリとした口調では無かったが、それでもしっかりと自分の気持ちを答えた。
春奈の返答に、聖奈は一瞬、顔をしかめる。
「無理って……、杉崎さん、多分、彼氏いるでしょ?
あんまり、良くないと思うよ? 必要以上に付き合ってない異性に近づくのって」
「いないよ、彼氏。
それに、穂高君は大切な友達だし、距離取るなんてしたくない」
学園で一番モテるといっても過言ではない春奈の言葉に、聖奈は驚きつつ、春奈の言葉に答える。
「え? 彼氏いないって、噓でしょ?? 四天王だなんて呼ばれてるのに……。
よく、告白されたなんて噂は聞くし、男子だけじゃなくて、女子からも人望熱いじゃん」
「嘘じゃないよ。 告白された事は、何度かある。
けど、梨沙(りさ)とか瑠衣(るい)の方が、男子には人気だと思うよ。
自分で言うのもなんだけど、四天王だなんて、梨沙達とよく一緒にいるから、くくられてるだけで、私は梨沙達よりモテないよ」
聖奈は、春奈がてっきり彼氏持ちだと思い込んでおり、春奈の言葉に動揺を隠せなかった。
「――で、でも、口ではそんなこと言ってるけど、杉崎さんの周りには、大貫(おおぬき)や楠木(くすのき)だっているでしょ?
仲いいし、よく一緒にいるし、あの仲良しグループの誰かと付き合ってるんじゃないの??」
「付き合ってない。 これから付き合うつもりも無いよ」
動揺する聖奈に、春奈はきっぱりと聖奈の言葉を否定した。
そして、今度は春奈から聖奈に質問を投げかける。
「――愛葉さんもそんな事言うけど、かなりモテてるでしょ?
誰が見ても素敵だし」
「え? あ、アタシの事は別に……。
それに、モテてるなんて言っても、アタシはこんな容姿だし、声かけてくんのは、軽い男共ばっかだよ。
ワンチャン狙ってるような」
聖奈も春奈に負けず劣らずの容姿の持ち主であったが、ギャルっぽい見た目である事から、聖奈に告白をしてくる男子は、チャラい男が多かった。
「杉崎さんに、一世一代、覚悟決めてコクってくるような男子は、アタシのとこになんて来ないよ。
――――っていうか、こんな話がしたいわけじゃなくて……」
聖奈の話したい話から、少しずつ脱線していく状況に、聖奈は気付くと、会話をぶった切り、再び真剣な眼差しで、春奈を見つめながら、本題を切り出す。
「杉崎さん。 さっき、近づくのは無理、友達としてって言ったけど、ホントにそれだけ??
穂高の事……、好きなんじゃないの?」
聖奈の問いかけに、春奈は考える暇もなく、直ぐに答える。
「好きだよ」
まるで恥ずかしがる素振りを見せず、ハッキリと答えた春奈だったが、顔は少しだけ赤く染まっており、春奈の堂々とした態度に、聖奈が一瞬、硬直した。
少しだけ、静かな空気が流れ、鳩が豆鉄砲を食ったように、一瞬固まった聖奈だったが、春奈の言葉に反応する。
「す、好きって……、な、なんで、杉崎さんが穂高を?」
「な、なんでってそりゃ……。 カッコいいから以外に理由は無いけど」
聖奈の思いがけない質問に、春奈は困った反応を見せつつも、告白した事で、少し興奮しているのか、聖奈に理由までも答えた。
春奈は、「好きだ」と言葉にする時よりも、明らかに恥ずかしさが見え、顔はより赤く染まっていた。
「か、カッコいいって……、そ、そりゃそうだけど……。
でも、一般的に言えば、アンタの周りにいる、楠木や大貫とかの方がカッコ良いって、言われてるじゃん!
カッコいい人なら、周りにいるでしょ??」
「い、一般的とか関係ないよ。 私にとっては、穂高君が、かッ、カッコいい!」
聖奈の気持ちに薄々気付いている春奈は、聖奈に言いくるめられるわけにはいかず、恥ずかしく感じながらも、自分の気持ちを素直に言葉に出した。
春奈の言葉を最後に、二人の間に、今まで以上の沈黙が流れ、今まで質問攻めだった聖奈は黙り込んだ。
ほんの数分、沈黙が流れた所で、聖奈は落ち着きを取り戻したのか、再び口を開いた。
「あ、アンタも穂高の事、好きなのは分かった……。
ホントは、大貫の劇の代役、穂高に辞めてもらうよう、アンタに協力して貰うつもりだったけど。
――――私も諦めるつもりは無いから」
春奈との交渉が失敗に終わり、状況が飲み込めたのか、聖奈は春奈にそう一言告げると、先に屋上から去っていった。
聖奈が屋上から姿を消したのを見送ると、春奈は緊張の糸が切れた様に、近くの壁によりかかり、そのままその場に腰を下ろした。
「はぁ~~~~~、言っちゃったぁ~~~~」
春奈は、頭を抱え、その場にうずくまり、大きなため息とともに言葉を零した。
疲労感も感じる状況だったが、春奈の気持ちはスッキリとしており、聖奈との会話に後悔は無かった。
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