第176話 姉の代わりにVTuber 176
(彰(あきら)?)
インフルエンザでダウンした、大貫(おおぬき)の代役として名乗りを上げた彰に、視線が集まり、穂高は少し珍しそうに彰を見つめた。
「彰君……」
「楠木(くすのき)なら問題ないなッ!?」
「――正直、大貫君より、楠木君の方が見たいかも…………」
彰の立候補に、一瞬クラス中が静まったが、すぐに賛成する意見が多く上がった。
穂高も、彰の立候補に意外と感じつつも、彰であればこなせると思った為、反対する事は無かった。
「楠木……、お前も出番あるのに、大丈夫か??」
「俺はセリフそこまで多くないから、
俊也の台本も覚える時間も取れると思う!」
彰の負担を心配してか、実行委員の生徒は気遣うように彰に問いかけるが、彰はきっぱりと答え、彰の堂々とした振舞に、称賛の声が上がる。
「分かった。 じゃあ、頼むぞッ、くすのッ……」
クラスメイトの称賛を受け、実行委員が本格的に、彰に依頼しようとしたその時だった。
「ちょっと待ってッ!!」
円満な雰囲気であった教室に、女子生徒の声が響き、その声を発したのは、四条 瑠衣(しじょう るい)だった。
瑠衣は、真剣な表情で席を立っており、瑠衣の隣の席であった春奈も、何か意見がある様子で、席から立ち上がっていた。
「ど、どうした? 四条……、杉崎(すぎさき)も」
瑠衣と春奈に動揺しつつ、実行委員は恐る恐る、話を聞いた。
「彰で決まりそうなところ悪いけど、その話、ちょっと待って欲しい!」
瑠衣は、先ほど挙げた自分の言葉を、補足するように話し、瑠衣に続いて今度は、春奈が口を開く。
「適任がいるのッ! 俊也の代役。
今、このクラスで一番適してる人が!」
春奈はそう言って穂高に視線を向け、春奈の視線を追うようにして、クラス中が穂高へと注目した。
(おいおい、いいのかよ……)
春奈の言う通り、現状、一番の適任が、穂高である事は間違いなかったが、適任である理由を説明すれば、一発で、変な噂が立つ事が予想できた。
(劇だけじゃなくて、春奈は『チューンコネクト』オーディションの件もある。
オーディションに通ってたりしたら、益々忙しいし、変に負担になりたくは無いしな……)
春奈から推薦される雰囲気がある現状だったが、穂高はまるで乗り気ではなく、大事な時期である春奈の負担になりたくない気持ちで一杯だった。
「――て、適任って、どうゆう事だ? 杉崎」
春奈の提案に、一瞬固まっていた実行委員の生徒だったが、すぐに気を取り直し、春奈に尋ねた。
「実は、穂高君には、放課後練習相手として、付き合って貰ってて……。
穂高君、既に俊也の役の台本を完全に覚えてるの」
春奈は一瞬、恥ずかしそうにするものの、一大事だという事もあり、ハッキリと意見を伝えた。
春奈の発言に、当然だが一気にクラス中はざわめきだし、穂高と春奈の関係を疑る生徒も多くいた。
「――ど、どうすんだよこれ…………」
穂高は教室の有様を見て、思わず心の声が漏れ出た。
「ほ、ホントか?
――天ケ瀬(あまがせ)、お前、代役出来るのか?」
「や、やってと言われるんであれば……。
足を引っ張らないよう全力でやります」
穂高はよそ行きの顔で、可能であると答えた。
クラス中の視線を受ける中で、穂高は同じく自分に視線を飛ばす、彰と若月(わかつき)が気になった。
.
◇ ◇ ◇ ◇
「だぁ~~から! 何にもねぇって!」
放課後での、クラスメイト達との話し合い語、穂高は案の定、質問攻めにあっていた。
放課後という事もあり、教室のクラスメイトは簡単に撒けたが、一緒に帰る約束をしていた武志(たけし)と瀬川(せがわ)からは、引き続き質問攻めを食らい、穂高はタジタジといった様子だった。
「ねんもねぇわけないだろッ!? 四天王と? 二人きりで?? 放課後でッ!?!?
――そういや、お前、前にもこんなことあったよな? しかも、噂のお相手はまたしても、杉崎 春奈ッ!!」
「俺みたいな非モテが、四天王なんて異名が付く程、人気の女子生徒と、なんかあるわけねぇだろ??
ただ、趣味があって最近交流が多いだけで……。
――てゆうか、そんなこと言ったら、武志! お前だって、休日四天王と遊んだことあったろ??
しかも、二回もッ!」
言われっぱなしの穂高は、武志に反論し、自分の身の潔白を訴え、噂を否定した。
「いいや! あれは、お前のとは違う!!
団体だったし、二人きりだったお前とは、まるで状況が違う!」
「そんな事あるか! 同じだね!!
他の男子生徒に聞いてみろ? 休日一緒に遊ぶなんて、普通じゃないから」
「やかましいッ! お前の方がもっとすげぇ事やってんだよッ!! コンチクショウッ!!」
穂高の屁理屈はまるで通らず、今日の武志を抑える事は、穂高には難しかった。
そして、武志が怒りを露にしながら、色々と聞いてくる中、傍観していた瀬川が口を開く。
「天ケ瀬は好きなのか? 杉崎の事」
真顔で質問をしてくる瀬川に、穂高は勘弁してくれと言った様子で、溜息を付き、瀬川の質問に答えた。
「仮に好きだったとしても、叶わぬ高望みだろ? 100%実らない恋だぞ??
――立場違い過ぎて、想像でも付き合える光景が見えないよ」
「あたりまえじゃッ!!」
感情の起伏無く淡々と答える穂高に、武志が噛みつき、再びワイワイと騒ぎ立てた。
「――想像って……、俺は好きなのかどうかを聞いたのに」
質問をした瀬川だったが、自分の臨んだ答えは、穂高から引き出せず、武志が騒ぎ出したことで、それ以上追及することは出来なかった。
◇ ◇ ◇ ◇
「だ、だから、そんなんじゃないってぇ……」
クラスの話し合い後、教室から逃げる様に出て行った穂高に対し、春奈はクラスメイト、特に女子生徒につかまり、質問攻めを受けていた。
話し合いの結果、結局、大貫の代役として穂高が選ばれたこともあり、クラスメイトの興味は余計に注がれていた。
春奈は、質問に来る生徒の応対をしていると、一人、珍しい女子生徒が春奈の前に現れた。
「――ねぇ、ちょっと話、あんだけど」
春奈を訪ねたのは、愛葉 聖奈(あいば せな)であり、春奈の周りは、彼女と交流ある生徒ばかりだったため、聖奈の存在は少し浮いていた。
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