第175話 姉の代わりにVTuber 175
◇ ◇ ◇ ◇
放課後 3-B教室。
菊池 梨沙(きくち りさ)の発言から、一日中、3-Bのクラスは、ソワソワとした雰囲気を漂わせ、放課後になると、一目散に、文化祭委員が声を上げ、クラスメートに招集をかけた。
「――えっとぉ……、皆も知っての通り、主役の大貫(おおぬき)君がインフルになった。
本番まで、二週間前の状況で、まだまだ練習も必要な時期に、ホントに一大事な状況です。
本番に間に合わせる為にも、現状、やるべき事を洗い出したい!」
不安な表情を浮かべる生徒が多く、実行委員は続けて、各役割の責任者に話を聞きだす。
「まず、大道具班から!
現状、遅れは無いって聞いてるけど、影響はある??」
比較的被害の少なそうな役割である大道具班へ、実行委員は話を振り、係の責任者である生徒が質問に答える。
「大道具は特に影響は無いな。
部隊セットは完成真近。 各種、劇に必要な道具は完成してる」
「分かった。
――じゃあ、次は衣装班」
穂高(穂高)は、他のクラスメートと同じように、席に着き、教卓で指揮を執る実行委員の話を黙って聞いており、次に話を振られた、衣装班の責任者へと視線を移した。
穂高が責任者へと視線を振ると、衣装班の責任者である生徒は、明らかに影響があるのか、表情が暗く、自信なさげに、質問に答え始めた。
「採寸とかは終えてるけど、衣装製作途中で、試着とかして、細かい合わせはまだ……。
今週、調整する予定だったし。
直しが出るだろうから、修正の期間も考えると、結構ヤバいかも……」
「なるほど……。
合わせの件は、大貫と近い体格の人で合わせないかな?」
「――うん。 それで何とかやるしかないよね」
「大道具の方が、進みが良いし、必要なら手も借りて。
――じゃあ、次。 脚本班」
衣装班の状況を確認した実行委員は、脚本部隊へ話を振り、脚本班の責任者が答える。
「脚本は大詰めが決まって、各役の台本作成中。
早くて明日、遅くても明後日には、台本を配れると思う。
――ただ、演者の人達には申し訳ないけど、結構待ってて貰った部分が多くて、演者の方にしわ寄せがいくかも……」
脚本班の話を聞き、クラス中に不穏な空気が流れ、穂高も春奈(はるな)の練習に付き合っていた事もあり、遅れ具合も分かっており、それがかなり春奈達、演者側の負担になる事が見えていた。
「――結局、台本完成は、予定よりも一週間も遅れ……。
正直、明後日まで台本を待ってる余裕は、無いと思う。
必ず、明日までには形にして欲しい! これも、手を出せそうなところがあれば、他を頼ってもいいから!」
実行委員の言葉に、脚本班の責任者は「わかった」と、ハッキリ答えると、次は劇の目玉である、演者に話を振った。
「――各役。
演者の人達はどう? 今までも、かなり負担をかけてたと思うけど、大貫がダウンした現状。
何か不都合が生じるとこは?」
実行委員である生徒が話を振ったのは、劇に役者として出る生徒ではなく、監督のような役割をこなす、演者を纏める生徒が、質問に答えた。
「不都合だらけだよ! ただでさえ、台本が遅れてる状況で、全体練習ができる期間が大幅に減ってる!
正直今のままじゃ、間に合わない。
明日完成の台本は? 誰が大貫に届けに行ってくれるの??
大貫には悪いけど、今更代役なんて立てられない……。
病気で辛いだろうけど、台本は休みの間に覚えてもらうつもり」
役者を纏める生徒は切羽詰まっているのか、発言に余裕はなく、その生徒の発言から、事態の深刻さを、ほぼ全員が認識した。
(一番割を食ってる演者組がかなり焦ってるな……。
まぁ、当然っちゃ当然だけど。
今までだって、自分たちの練習や、全体での合わせ練習があるのにも関わらず、衣装作成の為に、何度も採寸やら何やらで時間を取られ、挙句の果てには、台本も遅れた。
今一番、脚本班にヘイトが向かってる状況ではあるんだろうけど、他の班にも不満はあるんだろうな……)
穂高は、矢面に立ち、言いずらい事であろうとも、責任者として告げた生徒を非難するつもりは無く、他の班にも協力してきた部分もある為、当然の不満だと察した。
「大貫の台本な……。
若月(わかつき)、お願いできないか?」
実行委員の問いかけに、若月は頷き、細かい問題はすぐに排除された。
そして、実行委員の生徒は、本題と言わんばかりに、他の不都合に対して、話題を戻す。
「全体練習か……。
確かに、併せられないのは不安かもしれないけど、一先ずは、個人練習、いる人たちだけで、合わせの練習をできないか??」
「やれることはやる。
――後、合わせの連取だけど、練習だけでも代役立てられない?」
演者を纏める生徒は、実行委員に向けて、言葉を放ったが、公の場で話した為か、クラスメイト全員に協力を仰ぐようにも見え、穂高はその言葉を聞き、ある一人の生徒に目をやった。
穂高が視線を送った先には、春奈(はるな)の姿があり、春奈も、呼びかけに思うところがあるのか、丁度、穂高に視線を送っており、偶然にも目が合った。
穂高と視線が合った春奈の表情は、何か言いたげな表情をしており、穂高もその雰囲気を察する事は出来たが、春奈の真意までは見抜けなかった。
(――大貫の代役…………。
練習に付き合った俺にとって、難しい話ではないけど……。
春奈と練習してた事は、周りに伏せてるし、立候補したら間違いなく、放課後に二人きりで練習してた事も、おのずとバレるだろうしな。
また変な噂が流れかねない……)
過去にストーカー事件や、オーディションの面接の付き合いなどで、一緒にいる事が多かった穂高と春奈は、何度か噂になっており、最近は一緒に下校する事が無くなってきた事もあり、変な噂が流れる事は無くなっていた。
(何度か関係を聞かれたし慣れっこではあるんだけど……、春奈にも迷惑は掛かるしな)
穂高は独断で、代役に立候補する選択肢を完全に捨て去り、代役を引き受ける事になったとしても、春奈の意見を最優先にすると決めた。
穂高は自分の方針を決めると、演者を纏める責任者の呼びかけに、だんまりを決め込み、時間が経つのを待った。
そして穂高以外も、誰も名乗りを上げない状況の中、一人の男子生徒が声を上げる。
「―-じゃあ、俺がやるよ! 俊也(しゅんや)の代わり」
声の上がる方に、クラスメイト全員が視線を向け、声を上げ、立候補したのは、楠木 彰(くすのき あきら)だった。
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