第172話 姉の代わりにVTuber 172


 ◇ ◇ ◇ ◇


春奈(はるな)との練習を終えた穂高(ほだか)は、風呂から上がり、自室でゆったりとした時間を過ごしていた。


時間は21時半を過ぎ、日課になっていた『チューンコネクト』の配信を見る。


基本は絡みの多い同期の配信を視聴し、同期の配信が無ければ、リムと関係の深い、先輩の配信を見ていた。


(サクラは、結構続いてるな……。このダイエット企画)


配信の面白さから、既に仕事ではなくなっており、プライベートの楽しみになりつつある、サクラの人気企画の配信を、穂高は見ていた。


穂高が見るサクラの配信は、ゲームをしながら体を動かすことで、大ブームとなった『エクサイサイズリング』というゲームを行う配信であり、既に何度も行っている長寿企画だった。


「ふんぬぬぅぅうう~~~ッ!!」


穂高の見るスマホの画面では、サクラが苦悶の表情を浮かべ、サクラの苦しそうな声が、スマホから鳴り響いていた。


頑張れ~~、53キロ~~ッ!!

昼間、豚丼特盛食べてただろ? 食べた分の豚だせ~~


踏ん張るサクラの配信には、悲痛なコメントが流れ、それがお約束になりつつあった。


「53キロじゃないッ!! 51キロッ!

それに豚丼は、普通盛りにしました!!」


苦しそうなサクラは、ただでさえ余裕のない状況なのか、返す口調は強く、サクラの反応にコメント欄は盛り上がった。


「――大変そうだよなぁ~、この配信……。

サクラのミスだから自業自得ではあるけど、リアルな体重バレもしてるしな。

姉貴にもやらせるか?」


サクラの配信を見つつ、穂高は美絆が聞いたら、絶対に嫌がるだろう言葉を零した。


穂高は、ベットから体を起こすと、Bluetoothイヤホンを身に着け、携帯の音声をスピーカーからイヤホンに切り替えた。


そして、パソコンを起動すると、リムの配信用サムネイルを作成し始めた。


「後、三回……」


終わりが真近である為、いつもの作業もなぜか閑雅深く感じ、リムに対して愛着も出てきている為、少し寂しくも感じていた。


穂高はそんな気持ちを抱えながら、作業に没頭していると、不意にチャットアプリから、通知項目が流れた。


穂高は、宛名を確認すると、作業を辞め、チャットの内容を確認する。


やほ~~~ッ!

今、暇してる??


明るい文章でチャットを送ってきた相手は、浜崎 唯(はまさき ゆい)だった。


穂高は、唯のチャットを見るなり、間髪入れずに返事を返す。


無理

今、仕事中


何かを提案されたわけでは無かったが、穂高は冷たく返信を返した。


おぉ~~、返信早いね

仕事って事は、暇だね? 通話しよ~~よッ!


「はぁ? こいつは日本語分からないのか?」


唯の返事を見るなり、穂高はため息交じりに悪態をつき、そんな穂高の気も知らず、唯は既に行動を起こしていた。


ボイスチャットが行える部屋へと、唯は入室しており、早く来いと言わんばかりに、通知恩を鳴らして、メンションが届く。


穂高は、渋々ボイスチャットに入室すると、部屋に入るなり、唯の明るい声が聞こえてきた。


「やっと入ってきた! 遅いよ穂高~~」


「お前な~? 仕事中だって言っただろ?」


穂高と通話出来てる事に唯は、テンションが上がっており、それに比べ、穂高は勘弁してくれと言った様子で、言葉を返した。


「えぇ~? 仕事って言っても配信してないじゃん~~。

――とゆうか、いつまでリムちゃんの配信やるのぉ??」


穂高は以前、自分の置かれる状況を、全て唯に伝えており、それ以降、穂高は気を許せる相手として、相談や悩みを話す事もあった。


そんな関係だったことから、唯は、ある程度、穂高の活動状況、リムの状態も把握していた。


「いつまでって、今月一杯くらい。

――姉貴ももう本調子だしな……」


「そうっぽいね。 最近は殆どお姉さんが配信してるでしょ??」


穂高の言葉を聞き、唯は少しだけ得意げに話した。


「分かんのか??」


「あっったりまえよ~~ッ!

リムちゃんの声での判断は難しいけど、雰囲気でねッ!」


「マジか……。

もっと、注意しないと…………」


唯の言葉は、成り替わりをする穂高にとって衝撃的であり、最近は特に自信もつけてきていた為、かなりショックな言葉だった。


「まぁ、私くらいだと思うよ?? 見分けが付けられるの……。

第一、一般の視聴者は穂高のこと知らないし、中身が違うなんて思いもしないだろうからね」


「大事になってないから、そこまで心配ではないけど、すげぇ複雑な気分」


穂高は、モヤモヤとした気持ちを抱えたまま、サムネの再開を再開し始める。


そのまま、穂高は作業しつつも、唯の相手をし、様々な会話を交わしたところで、唯は思い出したかのように、穂高に質問を投げかけた。


「あッ! そういえば、いつにする?

私とのコラボ配信!」


穂高は、このままうやむやになると考えていた話題を、唯から提案され、苦虫を嚙み潰したような、苦悶の表情を浮かべる。


「このまま、計画もせず、自然消滅を狙ってたでしょ~~??

――そうはいかないよッ!?」


「今まで何の話も、動きも見せなかったのは、お前だろ??

俺的には、あんまり乗り気じゃないし」


「はぁ~~~?? 乗り気じゃない~~??

――約束したでしょ~が」


穂高の言葉に、唯は明らかに不満の色を見せ、続けて唯は、配信の話題を話す。


「――う~~ん、今月一杯は、穂高が動けないのであれば、来月だね……。

第三週の金曜日は??」


「金曜? まぁ、今から予定入る程、多忙じゃないけど……」


穂高は、スケジュールを確認するまでもなく、リムの件も片付いている事から、否定する要因は何も無かった。


「おけッ! じゃあ、決まりね??」


「決まりはいいけど、なにすんだよ」


「まぁまぁ、それは、お楽しみって事でッ」


穂高の言葉に、何故か笑みを含んだ言葉で返し、唯はニヤニヤとした表情を浮かべていた。


穂高は不安を感じつつも、既に投げやりな気持ちもあった為、このことに関して、深く追求することは無かった。


そして、コラボの話題も纏まったところで、何故か唯は、今までのハキハキとした物言いとは違い、少し躊躇するような、改まった口調で、穂高に尋ね始める。


「あ、あの~~さ? 穂高……。

穂高にちょっと聞きたい事があんだけどさ?」


「なんだよ急に……」


様子を伺うような唯の口調を、穂高は奇妙に感じつつ、内容を促した。


「え、えっとぉ……さ。

穂高とこないだ、一緒に『チューンコネクトプロダクション』に来てた子について、聞きたいんだけど……」、

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