第171話 姉の代わりにVTuber 171
「見てたか……。 まぁ、今日が初めてじゃないし、教室でやらされるから見られてない方が珍しいか……」
穂高(ほだか)は片手で眉間を抑え、少しだけ辛そうに話した。
「ふーーん……。
やらされるって事は、穂高君は、乗り気じゃないって事だよね??」
「え? あ、まぁ……、悪目立ちしてるし、勘弁して欲しいけど」
春奈(はるな)の言葉に、穂高は違和感を感じつつも、本心を答えた。
「目立ってるのが嫌なの?
――じゃ、じゃあ、人気のないとこだったら、嫌じゃないって事??」
春奈の質問の勢いは落ちず、いつもなら遠慮して聞かないであろう事も続けて質問していた。
少し食い気味に、前のめりな様子で、質問してくる春奈に、穂高は戸惑いつつも、春奈の質問には正直に答える。
「まぁ、人気のないところだったら……、別に嫌ではないかな」
穂高は、そんな訪れる事の無いシチュエーションを想像しながら、自分の取る行動を予想した。
「い、嫌じゃない………………」
春奈の意図が掴めていない穂高の答えに、春奈の声のトーンは一気に落ち込み、表情も少し青ざめた様子で俯いた。
春奈のそんな様子に、穂高は益々戸惑った。
(――な、なんで杉崎(すぎさき)は、こんなにガッカリ? 気分が落ちたんだ??
嫌じゃないって言った事がマズかったんだよな? なんで???)
頭の中に?マークを大量に浮かべる穂高は、考えのまとまらない、答えが出ないまま、春奈に声をかける。
「す、杉崎って、聖奈(せな)……、いや、愛葉(あいば)と仲が悪かったり……、するのか??」
まるで頓珍漢(とんちんかん)な質問をする穂高に、春奈は悲しそうな表情を浮かべた。
「別にそういう意味じゃ……。
――――また、名前で呼んでるし…………」
春奈は愚痴をこぼす様に答え、ボソボソと呟くように発した最後の言葉は、穂高には全く聞き取れなかった。
ポツリと言いかけた春奈だったが、何か思いついたのか、今度は何かを決意した表情で、穂高に答える。
「に、苦手ッ! ほ、穂高君と距離感近いし! ちょ、ちょっと遊び慣れてそうで、怖いし……」
「怖いって……、別に変に威圧的なわけじゃないぞ?
――まぁ、俺も最初は警戒してたけど……」
聖奈は、春奈の言う通り、どちらかと言えば、ギャルのような見た目と性格をしており、穂高も、聖奈と交流を持ち始める前は、少し恐怖を感じるような対象であった。
「でも、怖いと言えば、杉崎だって、昔はちょっと声かけづらい存在だったぞ?
――愛葉と同じで、クラスの中じゃ人気者だし、四天王とかまで言われてる人だったわけだし」
「わ、私は別にそんなんじゃッ!
――た、確かに変な異名を付けられてはいるけど、人気者ってつもりも無いし……。
こ、怖いって思ってたの? 穂高君も……?」
「始めは怖かったな……。
今でこそ、こうやって普通に話せるようにはなってるけど、彰(あきら)達とボーリング行った時とかは、結構気を使ってた」
春奈の臨んだ答えでは無いと、穂高は感じてはいたが、当時の気持ちを素直に答えた。
そして、穂高は続けて春奈に話す。
「――でも、今はこうして打ち解けられたし、当時の俺じゃ想像もつかないけど、分からないもんだよなぁ~、人間関係って」
「ま、まぁ……、それはそうだけど……」
穂高は感慨深い様子で話し、春奈は穂高の言葉に同委はするものの、春奈の話したかった話題と、少しずつ離れて行っている事に、不満を感じた。
そして春奈の不安は、心の中で膨れ上がり、進展しない関係に、焦りを感じ、勇気を振り絞って、穂高にある提案をする。
「ほ、穂高君ッ!! お、お願いがあるんだけど!」
「ど、どうした急に……」
勇気を振り絞ったことで、春奈の声は予想よりも大きなものになってしまい、春奈の声に穂高は動揺した。
動揺する穂高に、春奈は怖じ気ず、そのままの勢いで、穂高に言い放つ。
「か、関係の浅い、愛葉さんとは名前で呼び合って、愛葉さんよりも前に交流があった私達が、名前で呼び合わないのって変だと思うッ!!」
春奈の宣言に、穂高は頭の中で、友人である瀬川(せがわ)の事を思い出し、別に変ではないと感じるも、春奈の切羽詰まったような様子と、勢いを見て、その思いを口に出すことはしなかった。
「わ、私は名前で呼び始めたし、穂高君もそろそろ、私の事、は、春奈って呼んでもいいと思うッ!!」
「お、思うって……」
春奈の言い分に、少し納得のいかないところもありつつ、穂高は少し考えた。
「別に、俺は呼んでもいいけど……、その、良いのか??
大貫(おおぬき)とか、彰とかの仲いいグループに、俺が居るわけでもないし……」
「ぐ、グループとか関係ないよッ! わ、私は呼んでるし!
別に彰達以外も、私を春奈って呼ぶ男子もいるし」
春奈の物言いは、段々と不公平を訴えるような口調に変わり、春奈が呼んでいるのだから、穂高も下の名前で呼ぶべきだと、そういった主張に聞こえなくも無かった。
穂高は、大貫の事情も知ってる為、変に嫉妬を買うような行動は避けたかった。
しかし、もう既に友人である、春奈の提案を断る事は、気が進まなかった。
「はぁ~~、分かった。
俺も呼ぶよ、名前で……。
確かに、杉崎だけ名前で呼んでるのは、変だからな」
穂高は観念したように答えたが、穂高のその答えでは、少し興奮気味である春奈は納得しなかった。
「――じゃ、じゃあ、さっ、さっそく読んでみてよ……」
春奈は自分で言っていて、顔から火を噴きそうな程、恥ずかしかったが、穂高に今、この場で呼ぶことを求めた。
観念した穂高は、淡々と春奈の名前を呼ぼうとするが、春奈の雰囲気に充てられてか、中々言葉が出なかった。
「――こ、今度じゃダメか? ちょ、ちょっと急に変えるのは……」
「ダメ」
春奈と二人きりの、教室内の空気も異様なものとなり、苦し紛れに穂高は提案するも、穂高の提案はすぐに、春奈に却下された。
逃げ場のない穂高は、ようやく観念し、ゆっくりと口を開いた。
「――は、春奈……。
こ、これでいいか?」
完全に雰囲気に当てられ、羞恥心を感じた穂高は、顔を少し赤く染めながら、春奈の顔は全く見れずに、それでも、春奈の願い通り、春奈の名前を呼んだ。
穂高の言葉に、春奈は身が震えるような、感覚を感じた後に、嬉しさからか、自然と笑みが零れた。
穂高と春奈は、その後、少しだけ変な空気になりつつも、穂高に至っては、直ぐに名前で呼び合う関係にも慣れ、目的通り、劇の練習を終えた。
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