第170話 姉の代わりにVTuber 170


 ◇ ◇ ◇ ◇


「ごめんッ! 穂高(ほだか)君ッ!! 遅れちゃってぇ……」


残れるクラスメートで文化祭の準備を行った次の日、穂高(ほdか)は春奈(はるな)との練習の為、空き教室に呼ばれ、先に教室で待機していた穂高に対し、遅れて春奈が教室へ入ってきた。


「別にそんなに待ってないから気にするな。

そっちは大変だろ? 主役だし、色々と……」


携帯を弄っていた穂高は、息を切らし教室に入ってきた春奈に対し、気を使わないよう配慮した言葉を返した。


春奈が来たことで、穂高は携帯をポケットにしまい、練習の準備を始めようとしたが、春奈の様子を見て、直ぐに練習に入るのを躊躇った。


「少し、休憩してからにするか?

急いで来たみたいだし……」


穂高は昼間に、自習になった授業での事を思い出し、そこでも劇の練習を、春奈はしており、体力的にも消耗していると考えた。


「い、いや、大丈夫だよ?

あんまり長く、穂高君に付き合わせたりしたら悪いし……」


「別に俺の事は気にするな。 もう、今の時期は暇だしな」


穂高は、練習をしなかった際の懸念点が、自分の帰りが遅くなるだけ、という事に結論付けると、手に取った台本を置き、既に買っておいた飲み物を春奈に渡す。


「とりあえず、一服。

レモンティーでいいよな??」


「え? あ、ありがと……」


自動販売機で買ってそれほど時間が経っていないのか、穂高から受け取った飲み物は冷えており、穂高の準備の良さに、春奈は少し戸惑った。


「何回も買って貰ってごめんね? お金、返すから」


「それも気にするな。

今、大変そうな杉崎(すぎさき)に、お金を払わさるのは、なんか罪悪感を感じるしな。

――それに、既に何万もの価値になる物、予約してるしな」


穂高はそう言いながら、笑みを浮かべた。


「サインの事?

――気が早いよね、穂高君は……」


「あんだけ一人で配信できる実力があるんだから、近いうちに絶対なるだろ?」


穂高と春奈は、そんな近い未来起こりうるかもしれない事に、期待を寄せながら会話を続けた。


そして、話題は段々と文化祭の話題へと戻る。


「そういえば、昨日、杉崎のグループで揉めてなかったか??

あれは、どうなんだ? 解決したか?」


穂高は文化祭の話題になったことで、昨日のトラブルに関して、春奈に話を振った。


「あれかぁ……。 う~~ん、まぁ、雪音(ゆきね)の怒りは、一旦収まりはしたけど、問題解決にはなってないかも……」


穂高の質問に、春奈は渋い表情を浮かべ、まだまだ問題の解決には至っていなかった。


「台本が遅れてるってこないだも言ってたよな?

どれくらい遅れてるんだ??」


穂高は、春奈から相手役の台本を、コピーして貰っていたが、その台本を読み込んでも、未だ結末が見えない状況であり、後どれぐらい台本があるのか想像できなかった。


「じ、実はまだ、どうゆう話にするか決まってなくて……。

そ、そんな大量に残ってるってわけでもないんだろうけど、ちょっと心配になるレベルではあるかも……」


春奈の答えは抽象的であり、全体の何割かすら見当つかなかったが、あまりよろしくない状況だというのは理解できた。


「杉崎からも言った方が良いんじゃないか?」


「ま、まぁ、そうなのかもしれないけど……」


穂高は提案をしたが、春奈の性格上、春奈から発破を掛けるのは難しいと思っており、春奈の返答から、案の定、穂高の思い通りの状況である事が分かった。


「――穂高君もごめんね?

覚える時間も無いと思うから、台本がまだできてない、最後の方の練習までは、付き合わなくてもいいから……」


春奈は、いつになるかわからない終盤の台本は、穂高に渡すつもりは無く、短い期間で覚え、練習に付き合わせるのは、悪いと感じていた。


「乗りかかった船だし最後まで付き合うよ。

杉崎が必要ないっていうなら、それでもいいけどな」


「い、いやッ、必要なくなんてないよッ!

でも、悪い気がして」


穂高の言葉が引っ掛かったのか、春奈は穂高の言葉を否定し、続けて気まずそうに話した。


「中途半端に手伝う方が気持ち悪いだろ?

――それに、今までだって最後まで協力してきし、そのことに対して、文句を言った覚えもないぞ??」


穂高は、この劇の練習だけでなく、今まで起こった出来事、すべてを踏まえてそう告げた。


「――そう……、だったね…………」、


春奈は、ストーカーの事件、『チューンコネクト』の面接、遡れば、配信のアドバイス等、穂高には様々な事で協力して貰っており、そのすべてを思い返し、噛みしめる様に春奈は呟いた。


「じゃ、じゃあ、今回もよろしくね? 最後まで……」


少し恥ずかしそうに告げる春奈に、穂高は「おう」と短く返事を返した。


そうして、春奈の練習の件で話が片付くと、今度は春奈から会話を振られ始める。


「そ、そういえば、穂高君の方はどうなの?

大道具係。 舞台も作ってるんだよね??」


「あ~~、まぁ、こっちは順調だな、そっちに比べれば……。

バイトとか、用事とかで集まれない奴も多いけど、その日集まれる面子で、なんとかやってる」


穂高の方も、春奈とは違った問題を抱えつつも、春奈のグループに比べれば、何とかなっている節が多かった。


そして、大道具係の進捗を答える穂高に対して、春奈は聞きたかった事があったのか、少し踏み入った話題を穂高に投げる。


「穂高君さぁ……、結構、大道具係のメンバーと打ち解けてるよね?」


「え? そうか??」


春奈の言葉にまるでピンと来ていない様子だったが、そんな穂高に続けて春奈は質問する。


「あ、愛葉(あいば)さんとか……、見てて結構仲良さそうだなぁ~~って…………。

今日も頭撫でてたし……」


少し言い淀みながらも、春奈ははっきりと穂高に言いたい事を伝え、穂高はその話題かと、少し疲れた様子で答え始めた。

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